第128話 あの大学もそう言ってます
上機嫌の北条が鼻歌を歌いながら帰宅した。
電車に乗っている間、幸せ過ぎて顔が緩まないようにするのに必死だった。
「姉貴! 帰ってくるの遅かったな!? 大丈夫か、何かあったのか!?」
「なんもねぇよ。ちょっと寄り道してただけだ」
「……? なんか姉貴、今日機嫌いい?」
トコトコと子ガモのようについてくる美保を引き連れ北条は自室へと戻る。
鞄を置いてコートを脱いだ後、美保に今日の晩御飯について尋ねる。
「美保。今日は何食べたい?」
「え、決めていいのか!? じゃあ……にんじん入ってないやつ!」
「お、おう。にんじん入ってない料理なんていっぱいあるけどな……」
「姉貴の作る料理ならなんでも好き! てか姉貴が好き!」
「じゃあ姉貴が提供したにんじんも食え」
隙あらば姉成分を摂取したがる美保が北条に抱きつく。
普段であれば姉成分キメた後はハイになる美保だが今日は違った。
「……姉貴。どこに寄り道した?」
「え? どこってお前……そりゃ、どこでもいいだろ」
「姉貴から南雲の匂いがする」
「は!? お、お前、なんでそんなん分かるの!? お前、それもう南雲好きだろ」
「ちっげぇよ!! 誰があんな淫乱クソ女ッ――あたっ」
「それは言い過ぎな」
北条は正面から今もなお抱き着いている美保にチョップを入れた。
着替えもしたいので追及される前に美保を振りほどこうとする。
「おい、姉貴。まだ話は終わってねぇぞ」
「お前さ。人の胸の間でもごもご喋るのやめてくんない? 俺の内部と交信でもしてんの?」
「今アタシは姉貴の深層意識と会話してるんだ。正直に話してくれ。なんで
「……ど、どうでもいいだろ。さ、もう飯作るから離れてくれ」
しかし、美保は逃すまいと拘束を強める。
「……ヤッたのか?」
「バッ……抱きしめただけだ……」
それでも美保は拘束を解くことなく、胸に
「じーっ…………」
「な、なんだよ?」
「嘘だな」
自らの直感から美保は断言する。
……そしてそれは当たっていた。
「……姉貴。アタシは姉貴が嘘ついてるかどうか分かんだよ」
「どうせ根拠のないこじつけだろ?」
「エ、エロい事はしたのか?」
「してねぇよ!」
「……うん、これは嘘じゃないな。こっちはセーフと」
いよいよ信憑性が出てきた妹ウソ発見器に北条が戦慄する。
「じゃあ流石にキスはしてねぇよな?」
「当たり前だろ」
「ん? ……おい、したのか?」
「し、してねぇよ!」
「してんなぁ!? これ、おいッ!!」
「なんで分かんだよ!! 怖ぇよ!!」
北条は、ある意味一番バレるとめんどくさい奴に関係がバレてしまった。
「なんで、南雲ばっかり……! アタシだって姉貴とキスしたいのに……! ずるずるずるずる」
「別にズルかねぇだろ……」
「じゃあアタシにも南雲にした事しろよ!」
「いやぁ……ハグはまだしも、妹にキスはちょっと……」
「……知ってるか、姉貴? オックスハーバー大学の研究によると、毎日妹とキスする姉はそうでない姉に比べて将来ガンになるリスクが1/10になるという研究結果が……」
「絶対ウソじゃん……」
姉も見事に妹のウソを看破する事が出来た。
ただし結局、一生ゴネ続ける妹はなんとかしなければならない。
悩んだ挙句、なんだかんだ甘い北条はある程度の要求を飲むことにした。
「……わかったよ。美保」
「あわわ、姉貴……?」
抱き着いていた、というよりはしがみついていた美保を北条は優しく抱きしめた。
何度か頭を撫でた後にやさしく声を掛ける。
「美保」
「……あ、姉貴」
「目は
「お、おう……ッ!」
そして北条はゆっくりと美保に顔を近づけて口づけをした。
「……ん」
――おでこに。
「こ、これでいいか?」
「~~~ッ!! ……最高」
姉のデコチューに悶える妹は、後にこう語る。
――『おでこでもこの威力。唇なら心肺停止していた』と。
こうして美保は姉成分に代わる新たな栄養素、姉キス成分を発見してしまった。
「よし。これは必須栄養素に含めよう。今日から姉貴の日課な」
「えぇ……毎日はだるいって……」
「じゃ、じゃあ! そん時はアタシから姉貴にする!」
「いらんわ。そんな機能」
このデイリークエストには報酬を受け取り忘れた場合の救済措置が設けられていた。
***
夕食の支度が終わり母の瑠美が帰って来た際の小話。
「お、どうした茉希、それに美保も? 今日はえらくご機嫌だな?」
「おう、お袋! さっき姉貴にキスして貰った!!」
「おい、おま……」
「ああん? お前たちホント仲いいな。どれ、美保。私もキスしてやんよ」
「え、キモ! お袋のはいらんわ」
キスは冗談で言ったつもりだったが『キモ』と言われた瑠美の目が細くなる。
「へー。お前母親に向かっていい度胸してんな。おら、顎出せ。舌ねじ込んでやんよ」
「ぎゃー! やめろ! ファーストキスがアラフォーのベロチューはきちぃー!」
「……殺す」
「あー、もう……暴れんなって。飯出来てんだから……」
今日も北条家は平和だった。
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