第126話 クールタイムは24時間


西宮たちが教室で話し合いをしていたその頃、北条は南雲の家で事情を聴いていた。



「わ、ワタシもちょっとワガママだと思うけど……! でも、今回はあーちゃんの方が……!」


「うーん……今回はどっちもどっちだな……」


「あーちゃんの方が悪い!」



東堂と違い、こちらは感情的になっているのでまともな論理は通用しない。

ぐずる南雲の背中を擦りながら表面上は真面目に話を聞く北条。



「ワタシ……ちゃんとあーちゃんの事好きだもん……茉希ちゃんが教えてくれたから。だから、ちゃんと考えて、ちゃんと好きになったもん!」


「そ、そうだな……お前はだいぶ変わったよ」



それっぽい事を言っているが、北条の心はここにあらず。

自分の完全なるプレミを後悔していた。



(どう考えてもこの状況の南雲と部屋で2人きりはマズいだろ!!)



この状況は北条が南雲への恋心を自覚したタイミングに酷似している。

現在北条は自制というブレーキが効くか分からない状況でスリルと共にドライブしていた。



「茉希ちゃんはどう思う!? あーちゃんが悪いよね!?」


「ん? うーん……なんか東堂が悪い気もしてきた」


「だよね!!」



南雲に申し訳ない気持ちはあるものの、もう東堂とのどうこうとか割とどうでもよくなっていた。



「茉希ちゃんだって、好きな人に別の好きな人が居たって自分の事を見て欲しいって思うよね!?」


「うぇ!? そりゃ、お前……(ごにょごにょ」


突然の例え話にどもってしまう北条。


「茉希ちゃん? と、言うか茉希ちゃんって好きな人とか居るの?」


「う”ぇ!? そりゃ、おま……(ごにょごにょ」



再び歯切れの悪い北条に感情的になっている南雲さんが喝を入れる。



「なんでモジモジしてるの! いまワタシ真剣な話してるよ! いるの!? いないの!?」


「……い、いるよ」


「えっ!? ……西宮さん?」


「ち、ちげぇよ!!」



(あ、ヤベっ。この流れはマズい!!)


うっかり即否定してまった北条は非常によくない流れを感じ取る。


――しかし、時すでに遅し。



「え……あ、あーちゃん?」


「……ち、ちが」



同じく不穏な流れを感じ取った南雲。

なんとなく北条の交友関係を思い返せば残されるのはあと2


妹ガチ恋か、あるいは……



「…………ワタシ?」



少しの間が空く。すぐに否定をしないのが既に答えだった。


嘘で誤魔化すのは違うな。北条はそう思った。



「…………そう」



「えっ、ええぇぇ!? ま、茉希ちゃんが!? う、ウソ……ではないよね。え、えぇ!?」



北条の仕草から噓偽り無いことを察した南雲。

顔は背けつつも南雲が大層困惑していることを察した北条。


2人の間にはなんとも言えない空気が漂う。



「だ、大丈夫! 俺は南雲の幸せが一番だから! 東堂との恋を応援してる! だから俺は南雲と今のままの関係で良い」


「茉希ちゃん……ワタシが言うのもおかしいけど、辛くない?」


「そりゃ……辛くないって言ったら嘘になる。だけど、これでいいんだ」



もしかしたらこの想いを告白出来ないのかもしれない。

そう思っていた北条はせめて今、南雲にこの想いを伝えられた事を自分にとっての最大限の幸せと思い込むことにした。



「ね、ねぇ茉希ちゃん。ワタシね、やっぱりあーちゃんの事が好き」


「うん。それでいい」


「でもね! 茉希ちゃんの事も大切なの! だから……ワタシに出来ることだったら、茉希ちゃんの為にしてあげられるよ!!」



つい先ほどの思い込みを揺るがすような甘い言葉が北条の自制心を刈り取る。



「…………な、なんでも? あ、ごめん! 調子乗った……!」


「う、ううん! 遠慮せずに言ってよ!」


「え、えーと……具体的にはどのへん、まで? その……抱きしめたりとか……?」



――この女、大概である。



「うーん……ちゅ、ちゅーまでなら可!」



しかし、この女のほうが大概だった。



「どぅえぇぇっ!? えっ!? そこまで行けんの!? あ、いや、じゃ、じゃあそれで!」



一度は南雲の恋応援キャンペーンに入ろうとした北条だったがとんでもない転機が訪れる。

まさかのガバガバ貞操観念についにはキスの許可まで下りた。



「じゃ、じゃあ、その……宜しいでしょうか?」


「う、うん……」



北条は南雲を正面から抱きしめる。

すっぽりと胸に収まる南雲の感触を確かめるように。

その行為から溢れる愛おしさは南雲にも伝わっていた。


ひとしきり感触を確かめた後に腕を緩めると南雲と目が合う。


北条が言い出せずにキョロキョロすると南雲から北条に口づけをした。



「……んぅ」


「!?!?」



その口づけは短く、可愛らしく。まさに『ちゅー』と形容するにふさわしい。



「…………ど、どう?」


「……最高」



この甘い雰囲気に流され、再び北条が顔を近づけた瞬間――



「だ、ダメッ!!」


「す、すまん……! ……調子に乗ったわ」


南雲に拒絶された北条はショックを受ける。


「や、やりすぎはダメ。茉希ちゃんが辛い時だけだよ!」


「……だよな。流石にな?」


「ちゅ、ちゅーは1日1回までだから!」



「どぅえええぇ!?!? く、クールタイム短くね!? あ、いや……かーッ! ま、毎日つれぇー!」



北条は完全に味を占めた。



***


本日、彼女は数々のめんどくさ案件をこなしてきたが、ここでようやく報われることになる。

こうして南雲との関係は所謂『キスフレ』へと昇格(?)した。



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