第125話 ワタシを見て


西宮のめんどくさ案件を済ませて教室に戻ってきた北条。

そこには更なるめんどくさ案件が待ち構えていた。



「…………」


「ひっく、ぅっく……!」


「えぇ……俺が気ぃ使って西宮連れってた意味……」


「……え? 私と2人きりで話がしたかった訳ではないの?」



自分の席で腕を組んでそっぽを向く東堂とその後ろの席で机に突っ伏して泣く南雲。


……まぁ、誰がどう見ても喧嘩だった。


話を聞きたいのは山々だが、とりあえず授業が始まってしまうので事情聴取は放課後にする事となった。



***


西宮と北条が教室を出て行った直後、東堂は何故北条が突然西宮と2人きりになりたがったのかが理解できなかった。

北条はなんだかんだ言って西宮と2人きりになる機会が多いので、東堂の頭にはどうしても『もしかしたら』が浮かんでしまう。



「……でね? あーちゃん? 話聞いてる?」


「え、あ、うん。聞いてるよ」


「……絶対ウソ。いま西宮さんの事考えてた」


「だ、大丈夫。それでも話は聞いてたから!」



思考の8割は西宮の事を考えながらでも、東堂は南雲の話を耳に入れていた。

しかし、仮に東堂にそれが出来たとしてもあまり褒められた事では無いのは事実。


実際、南雲は不満を露にする。



「ワタシたちのデートの話してたんだよ? なのに、あーちゃんは他の事考えるの?」


「ごめんよ。感じ悪かったよね……でも、今僕は麗奈の事で頭がいっぱいで……」


「だけど……! 今はワタシとのデートの話の途中だもん! あーちゃん……西宮さんが居ない時くらい、もっとワタシの事だけを見てよ……」



それは奇しくも西宮と同じ願い。

あなたが好きだから、もっとワタシを見て欲しいという


故に、東堂も不満を露にした。



「ゆーちゃんこそ……僕はずっと麗奈が好きだって言ってるのに……! どうして分かってくれないの? どうして僕はゆーちゃんの我儘に付き合わないといけないの?」


「……ッ!? だ、だって! ワタシだってあーちゃんの事が好きなんだもん! ずっと一緒に居たのに、あーちゃんがどっかに行っちゃうのはイヤだもん……」


南雲の目から涙が零れ落ちる。


「ゆーちゃんの目には……きっと都合のいい僕しか映ってないよ。ゆーちゃんの隣にずっと居てあげる僕。でも、本当の僕は麗奈の隣に居たいんだ」



もうここまで言ったら引き返せない。

だからこそ、東堂はきっぱり言い返す。



「ゆーちゃんこそ、もっとありのままの僕を見てよ」



教室は静まり返っている。

クラスメイトたちは2人が争っているのを見て唖然としていた。



「……っ! あー、ちゃ……っ! んっく……あぁぁ……! うぅぅぅ……!」



静かな教室には南雲の嗚咽がよく響く。

今の時点では東堂も熱くなっているので謝ることはしない。


なので、本格的に泣き始めた南雲を放っておいた。


そして、クラスメイトがおろおろと対応に困っていた、その時――



「これ以上、面倒事を……って、めんどくせぇ事になってるーーーッ!!」



救世主が現れた。



***


東堂と南雲を対面させながらでは話が進まない可能性があったので、北条はそれぞれ別に話を伺う事を提案した。


結果、西宮が東堂に、北条が南雲に話を聞くことになる。



「い、今はちょっとはやりすぎたかなって反省はしてるよ……! でも、ゆーちゃんだって今回は……」


「いいえ。あなたが悪いわ」


「え……えぇ? で、でもほら、割合とか……あるよね?」


「ないわ。100%あなたが悪い」



西宮は東堂の言い訳を聞き入れず断言した。

そこには確固たる意志がある。


東堂の目から見て、なんとなく今日の西宮の表情は僅かにむくれてるようにも見えた。



「相手が好きだと言っているのにちゃんと見てあげないのは失礼よ。その要望を自己中なんて言うなんて言語道断、片腹痛いわ」


「……あれ? 僕、ゆーちゃんに自己中なんて言ったっけ……?」


「細かいことはいいのよ。だから今回は完全にあなたのやりすぎよ。ちゃんと南雲さんに謝りなさい」



そう、西宮の意見にはかなりの私怨が含まれていた。

似たような状況で北条に講釈垂れ流されて西宮さんはおこなのである。



「……でもさ、麗奈。好きな人に、別の人も見なさいって言われるのは辛いよ」


「あなたは南雲さんの事は好きじゃないの?」


「好きだけど……今は恋愛とかそういう目では見れないかな。麗奈の事を好きになっちゃったから……」


めんどくさい女ね。シンプルに、どっちも好き。それじゃダメなのかしら?」


「そ、それはだいぶレアケースと言うか……欲望に忠実と言うか……」



「――私は仮にあなたと付き合ったとしても、他の2人とも付き合うわよ」



今日は各々がやたらと自分のスタンスを公言する日だった。



「だからあなたもまず、私と南雲さんの同時攻略くらいはやってみせなさい」


「えぇ……でもそしたら、ゆーちゃんは絶対嫌がるでしょ……?」


「任せなさい。私が南雲さんを堕とせば円満解決よ」


「その自信はどこから……ま、まぁ。じゃあ今回の件はゆーちゃんにちゃんと謝るよ。……一応、今麗奈が言ったことも伝えてみるね」



しかし東堂のビジョンとして、

『麗奈と二股でも良い?』というのが通るとは思えなかった。


と、言うかやっぱりまだ自分の中でもかなりの抵抗はある。



様々な葛藤はあったが、まずは謝ろう。東堂はそう思って南雲に連絡を入れた。



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