第124話 私を見て


11月中旬も終わりそうな昼休み。



「……あーちゃん。なにか忘れてない?」


「そ、その節は失礼しました……ゆーちゃんとの再々デートだよね」


「あーちゃん! 好き♡」


「いつにする?」



どこかで見たような光景が再度繰り広げられる。

それを見て使命感に駆られた西宮はすぐに北条に話しかけた。



「北条さん。何か忘れていない?」


「お前まで天丼しなくていいんだわ。芸人でも目指してんのか?」


「じゃあ、冗談は置いといてデートの話でもしましょうか」


「どんだけデートしたいんだよ。まぁいいや、ちょっと付き合え」



これ以上の天丼を回避する為、北条は一旦西宮と東堂の距離を離す。

間接的にではあるが、前回の励ます会の一件は南雲のデートを台無しにしたので北条は負い目を感じていた。


なので北条は今回、東堂を幻惑させない為に西宮とのデートはキッパリ断る事が求められる。


別に喉は乾いて無かったが北条は西宮を連れて自販機に向かうことにした。



***


「なんでお前はそんなに俺とデートしたがるの?」


「あなたが好きだからよ」


「…………」



自販機でジュースを選んでいる間にサラッと告白する西宮。

ストレートな物言いに少し驚いて沈黙を見せた北条。


しかし、すぐに平静を取り戻しジュースを購入する。



「……東堂は?」


「好きよ」


「南雲は?」


「好きよ」


「シバくぞ」



西宮の恋愛観は特殊である。

しかしながら、愛情表現を臆面もなく行うその姿勢に北条は多少なりとも尊敬をした。



「北条さんは私の事どう思っているのかしら?」


「まぁ……普通に友人?」


「可愛いとか綺麗とか、そういう感情は無いの?」



西宮は北条を見つめるが、北条は興味なさそうに自販機を眺める。



「ん? まぁ、お前の容姿は整ってると思うけど?」


「じゃあ私の事は好き?」


「普通」


「……可愛くないほうが好きなのかしら?」


「別にそんなんじゃねぇよ。性格の相性とかもあるだろ」


「じゃあ私たちは相性が悪いということ?」


「敢えていうなら……普通?」



延々と質問攻めしてくる西宮に紅茶を渡そうとした北条だったが、



「……普通って何? 北条さんは私に全然興味が無いのね」



最初は震え、次第に冷たくなった彼女の声音から怒りを感じ取った。

渡そうとした紅茶は行き場を無くす。



「なんでお前の方が怒ってんだよ……」


「違うわ。私はあなたと好き・嫌いというスタートラインにすら立ってなかった事が悔しいの」


「ホント変わってるよなお前って……全員に対して本気なのか?」


「ええ」



北条はジュースを買ったら帰るつもりだったが西宮が座るベンチに腰を下ろす。



「これぞまさにおもしれー女だな。今のはある意味、俺への告白ってことだよな?  じゃあ、俺もハッキリ言っとくわ。現状、お前に恋愛感情はまったくない」


「そう」


「だけど、まぁ……別に嫌いとかじゃねんだわ。だからさ、お前が本気なら頑張って俺を振り向かせてみろよ」


「なるほど……得意よ」


「ま、たぶんそれが俺らの交友かんけ……ぐみゅ」



西宮を励まそうと熱く語っていた北条の両頬を西宮の両手が挟み込んだ。

そして、北条の顔の向きを自身の方へと捻る。



「私を見なさい」


「そういう意味じゃねぇよ!!」


「知ってるわ。だけど、北条さんにはもっと真面目に私を見てほしいわ」



物理的に振り向かせた西宮であったが、本心は別にあった。

まともに自分を見てくれない北条にもっと自分を見て欲しいという願い。



「……俺が言いてぇのは、それを含めて頑張れって言ってんだよ。その行為を俺は拒絶しないから。だけど『私は好きなんだからあなたも興味持ちなさい』なんて自己中な意見は通じねぇぞ」


「めんどくさい女ね」


「やかましいわ! お前がしてる恋愛自体がめんどくせぇんだよ!」



そろそろ昼休みの時間が終わるので教室に帰るために北条はベンチから腰を上げる。

そして彼女は西宮に紅茶を押し付けてさっさと帰った。



***


少し出遅れた西宮は小走りで北条の隣に並んできた。


「ったく……ただでさえ東堂と南雲とお前の関係はめんどくせぇのに……」


程なくして教室に到着した北条はボヤきながら扉を引く――



「これ以上、面倒事を……って、めんどくせぇ事になってるーーーッ!!」



そこには、ギャン泣きの南雲と無理してそっぽを向く東堂の姿があった。



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