第123話 と、思うじゃん?
『一ノ瀬を励ます会』
Q.そもそもなぜ、一ノ瀬は励まされなければならないのですか?
「こ、これはぁ……」
「な、凄いだろ。アタシもお手上げってなわけ。もうみんなで励ましてやろうぜ」
東堂は見事な赤点ラッシュにたじろぐ。
さしもの西宮ですらお目にかかれないような惨状が群れを成していた。
「ず、ずびばぜん……ごのままじゃ丸女ずら入れないんでず……」
A.頭が悪すぎたからです。
「す、すごーい……ワタシこんなにびっちり解答書いて0点の答案初めて見たよ!」
「……しかも0点がいくつもあるわよ、これ」
自分より下がいるという世の中の広さを知った2人は思わず唸る。
この2人を唸らせたらそれはもう大したもんである。
「……てか、冷静に考えて励ましてる場合じゃねぇだろ。勉強しろ」
と、言うことで開始5分で励ます会は終わった。
***
「いい? まずこの時点から根本的な改善は無理よ。例えば国語なら漢字と熟語に絞って覚えなさい」
「は、はい! 長文は全部捨てます!」
「……捨てろとは言ってないわ。可能な限り読みなさい。あと、選択問題は解答しておくように」
まず、勉強を教えてみたいという西宮の希望で国語から勉強している。
つまり現在、教えてみたいというふざけた動機に一ノ瀬の進退がかかっているのだ。
ただ彼女もかつて苦労をした身、同じ苦労をする人への教え方は上手かった。
「あ、あの西宮が……勉強を教える、だと?」
「え、西宮さん頭良さそうじゃん。普段は人に教えないとか?」
「……良いと思うじゃん?」
「え? もしかしてアホ……なの?」
「アホなんだわ……」
「そこ、金髪姉妹。邪魔をするなら出ていきなさい」
そして次は南雲の数学。
彼女も人に勉強を教えてみたかったらしい。
「だいだい最初のほうに計算問題あるからそこに全力を注ごー!」
「は、はい! 計算に45分掛けます!」
「さ、さすがに全問題は見ておきたいかな……? 30分でがんばろー!」
しかし、どうやら一ノ瀬の知能では計算問題の全問正解は厳しそうだ。
「そうか……それでは君には図形の極意を伝授するしかないね」
「そんなのがあるんですか!」
「んなもん、あるワケねぇだろ。南雲のざれご……! もごもご!」
ガヤを入れようとした美保の口は北条によって塞がれた。
そして、南雲が教えた極意。それは――
「いいかい? これが30度、これが45度、これが60度。そして出来れば75度も。これを目に焼き付けるんだ」
「はい!」
「うん……じゃあこれは?」
「30? いや45でも無いし……41度くらいでしょうか?」
「正解!」
「目分量じゃねぇかッ!! んなもん、通用するか! たわけ!」
北条の拘束から抜け出した美保が渾身のツッコミを入れる。
しかし、南雲の極意には明確な意図があった。
「いい? 美保ちゃん。ワタシたちが計算したところでどうせ答えなんて出てこない。でも、どうだろう? 15度刻みで分かるなら、正解確率は約15分の1まで上がる。つまり、0%が、え、えーと……10%くらい? になるんだよ!」
「6.7%くらいじゃボケ!」
南雲に辛辣な美保が非難をしている間、脳筋一ノ瀬は目分量の極意を掴みつつあった。
「南雲さん、凄いです! こんなの学校で教えてくれなかった!」
「アホか一ノ瀬。数学で目分量のやり方なんて教えるわけねぇだろ!」
「ふっふっふ。掴んだようだね……これは?」
「52度です!」
「正解!」
「なんで分かんだよ!? おかしいだろ!!」
この極意はパワータイプの人間にしか扱ないシロモノだった。
色々な問題を試してみたところ、正答率は6.7%どころから80%くらいになっていた。
「えっ……というか、北条? 美保ちゃんって頭いいの……?」
「バカだと思うじゃん?」
「そ、そこまでは言わないけど……」
「天才なんだわ、こいつ……」
ちなみに、美保はついこの間、
『いっぺん本気で対策してみるわ』
と告げて全国模試を受けた結果、なんと全国1位だった。
そして1位を取った彼女の感想は、『まぁ、思ったよりは簡単だったわ』らしい。
その結果を見た姉と母は、あくまで丸女へ進学すると言い張る美保を見て涙したという。
***
「西宮先輩も南雲先輩も本当に凄いです! ありがとうございました! とても頭が良いんですね!」
「「!!」」
その時、2人に電流が走った。
「く、くぅ~。今まで勉強してきた事がここで報われるなんて……そんな一ノ瀬ちゃんに……いや、紗弓ちゃんにありがとうだよ!!」
「いや、南雲。おめーはぜってーもっと勉強が必要だよ。――あたっ!」
美保は北条に無言で頭を叩かれた。
「……悪くないわね。頭が良いと言われるのはこんな気分なのね。そしてこの子は可愛いから持って帰るわ」
「だ、ダメだよ、麗奈! 子犬系後輩が好みなら僕が代わりになるから!」
「ちょっとあーちゃんが何言ってるのかわかんないかも」
南雲に限らず全員が困惑した。
「あ、姉貴。流石に東堂さんはまともなんだよな!?」
「まともだと思うじゃん?」
「……ごくり」
「結構イカれキャラだぞ」
「ま、まともだよ! ……と、言うかさ。僕思ったんだけど、一ノ瀬ちゃん」
「はい!」
「スポーツ推薦じゃダメなの?」
――カタン
「…………はい?」
一ノ瀬のシャーペンがゆっくりと手から零れ落ちた。
***
その後、一ノ瀬は当然のようにスポーツ推薦で丸女に進学することになった。
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