第122話 天才ドリブラー
11月中旬に差し掛かった昼休み。
「あーちゃん。なにか忘れてない?」
「ちゃんと覚えてるよ。ゆーちゃんとの再デートだよね」
「あーちゃん! 好き♡」
「いつにする?」
例の外国人にぶち壊しにされたデートの件で2人は話し合いを始める。
それをどこかつまらなそうに見つめる北条に西宮が声を掛けた。
「北条さん。何か忘れていない?」
「なんも忘れてねぇよ」
「じゃあ、今週のデートの話だけど」
「おい。適当抜かすな」
便乗した西宮の作戦は軽くあしらわれていた。
しかし、それとは対照的に東堂は過剰反応を見せる。
「ちょ、ちょっと、北条! また麗奈をそそのかして……! デートなんてズルい!」
「いや、こいつのいつもの妄言だぞ。あんま真に受けんな」
「あーちゃん。ほら、あっちはあっちで楽しんでるみたいだからこっちに集中しよ?」
「ごふっ……お、おう……楽しんでこい」
東堂とは違い、恋心を隠している北条は心の中で吐血しながら南雲の背中を押す。
こうしてある意味で南雲からお墨付きを頂いたのは西宮。
「さぁ、あなたはもうこれで私とデートするしかないのよ」
「わりぃ、今週は先約あるんだわ」
「ふーん? あっ……北条さんに友達は居ないから妹ね」
「シバくぞ。いちいち友達うんぬんを口に出すな」
今週の北条の予定は土曜日はバイト、日曜日は妹が友人を励ます会をやるとの事なのでそれに参加する予定だ。
……ちなみに、妹の友人も一ノ瀬しか居ない。
なぜ姉同伴なのかはさっぱり分からないが、予定もないし妹がゴネたのでついていくことになった。
北条が上記の内容を説明した結果、何故か西宮がそれを了承した。
「仕方ないわね。じゃあ私もついていくわ」
「アホか。お前からしたら友人の妹の友人を励ます会だぞ。どんだけ遠縁なんだよ。てか、こいつ誰だよってなるわ」
「何時頃に集合なの?」
「……お前マジで来んの? まぁいいわ、ちょっと先に相手に許可取ってみるから」
北条が連絡を取ると謎に初対面の人間を励まそうとしている西宮の参加許可はあっさりと通った。
「ん。いいってさ……お前、絶対に粗相は起こすなよ? 摘まみ出すからな?」
「まったく……そういうあらぬ疑いは私が粗相を起こしてから言って欲しいものね」
「起こしてからじゃ
***
日曜日、会場は例の喫茶店『オリーブ』――
それはかつて4人が初めて修羅場を起こした後に会合を行った聖地でもある。
「え、茉希ちゃん!? 西宮さん? どうしてここに?」
「や、やぁ。北条。こんなとこで会うなんて奇遇だね」
「……おい、コラ、東堂? てめぇ話盗み聞きしてたろ?」
「なんだか懐かしいわね。4人でここに集まるのは」
今日、4人はその地で感動の再開を果たした。
……東堂の盗み聞きによって。
4人が店に入ってマスターに事情を説明すると、店の奥から一ノ瀬と美保が歩いてきた。
「え! 東堂先輩!? サプライズですか!? 嬉しいなー!」
「え……南雲いるじゃん! どうなってんだ!? 姉貴!!」
2人からはそれぞれ喜びの声と悲しみの声が聞こえてくる。
「あー……こいつらは偶然来ただけらしいから。挨拶だけだよな?」
「いやー、せっかくだからご一緒してもいいかな?」
「いいワケねぇだろ。こっちは座席の予約もあんだよ」
オリーブでは座席の予約が可能なので前もって美保が席の予約している。
……と、北条は思っていた。
「……? 大丈夫ですよ、茉希さん。店の席は使いませんから」
「は? え、会場はここじゃないのか?」
「??? あれ? まさか……みほっち! 茉希さんにちゃんと説明した?」
「ん? あぁ、そうかそうか。姉貴、ここ一ノ瀬ん家だぞ」
姉を守りながら南雲をガンつけて威嚇していた美保が生返事をする。
「おまっ、それを早く言えよ!! えぇ!? ここ、一ノ瀬さんの家だったのか!? やっべ、手ぶらで来ちまったぞ……」
「ま、そんな気使わなくていいんじゃね。一ノ瀬だし」
「そ、そうですよ! そんなに気を使わないで下さい! ……なんでみほっちがそれを言うのかは理解できないけど」
「……そんな事もあろうかと、これ。4人からのお気持ちということで」
当然、東堂は一ノ瀬の家であることを知っていた。
だからこそ、手土産まで持参してご一緒しようとしている。
「……『そんな事もあろうかと』? あーちゃん、まさか最初から……ひどい! ワタシはデートのやり直しを要求する!」
「ご、ごめん、ゆーちゃん。悪いことをしたのは分かってる。でも、今度はちゃんとするから! 今回は許して……!」
「お前マジ、南雲とのデートをドリブルでもしてんのかよ。そういうとこやぞ」
「……いや? 東堂さん、頼むから一生涯掛けて
こうして、今日も相変わらず平和とは程遠いオリーブにて励ます会は始まった。
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