第119話 せやかて東堂
前代未聞の自己紹介を披露した実習生の2人はそのまま
「はい。こっからおふざけタイムは終いやで」
「みんな集中」
碧と茜がキリッとした表情で教壇に立つ。
どの口でそのセリフを言えるのかは全く謎だが、
先ほどまでとのギャップは凄まじく、その姿に生徒たちは思わず息を呑む。
東堂姉妹は全員似てないが真面目な表情の時だけ似たようなイケメンモテ女子オーラが出る。
現状、背丈とこれくらいしか東堂姉妹の共通点はない。
クラスの生徒たちが『東堂先生たちも結構アリかも……?』と思っているこの状況こそが東堂家のやり口なのかもしれない。
「先に聞きたいんやけど、こん中で生徒会選挙の立候補者っておるん?」
クラスに静寂が訪れる中、何人かが西宮をチラチラと覗き見た。
「いないわよ」
「せやろな。まだ1年生やし。ほな、しょーもない選挙の話は終いや! あんなもん紙に適当に名前書いて出すだけやねん。誰でも出来るわ」
「えぇ……? 適当すぎんだろ……」
「ちなみに選挙管理委員は誰? 挙手」
茜の問いかけにおずおずと手を挙げたのは東堂と北条。
「誰やねん、しょーもない言うたんは! ウチの妹が頑張って働いてんねんぞ!?」
「みんな選挙管理委員がわかりやすい丁寧な字で書くように」
妹贔屓で真面目に生徒会選挙の話をした2人は意外とスムーズにLHR進行させる。
その手腕には百合も舌を巻いた。
が、最初からやってくれという気持ちしか勝たなかった。
そうして作った空き時間で東堂姉妹は生徒の確認をする事に。
「実は私たちはみんなの顔と名前は憶えてきている。例えばそこの黒髪巨乳の子。西宮麗奈さんだよね?」
「あら? 残念。私は北条茉希よ」
「おい。しょーもないことすんな」
「ほんで君が北条茉希さんと。南雲ちゃんと合わせて3人にはいつも明里がよう世話になっとるわ。おおきに!」
そして、入室時のコントではなく改めてまともな自己紹介を一人ずつし始める。
……はずだった。
「じゃあ、わいから……」
「じゃあ、私から……」
「「…………」」
「わいは東堂あお……」
「私は東堂あか……」
「わいからや言うとるやろ!」
「私からって言った」
「……あーちゃん。ワタシずっと違和感あったんだけど。ワタシの記憶が正しければなんだけど、2人ってたしか……」
「うん。そうだよ。僕もよく頑張った方だと思う」
どちらが先に自己紹介をするかで揉め始める双子姉妹。
お互いが我先にと各々が勝手に自己紹介を始める。
「わいが長女の東堂碧! 好きなものは明里。それに次いでお笑いや」
「東堂茜。私が東堂家の長女。 好きなものは明里。それ以外ならアニメとゲーム」
「嫌いなもんは
「嫌いなものは
そう、彼女たちの姉妹仲は三角関係だった。
今朝、南雲が姉妹仲が良いと言ったのは東堂明里限定の話で碧と茜は仲が悪かった。
「さっきまで仲良さそうにしてたじゃない」
「わざわざ台本まで用意して我慢しとったんや! わいはこいつが嫌すぎて学校は関西にしてんねん!」
「えぇ…… 2人とも結構ノリノリで息合ってたじゃん……」
「台本とかキショって思いながら嫌々やってた。ちなみに、私もこいつ嫌で学校は東北にした」
突然の不仲でコンビ解散に困惑する1-A生徒。
「だいたい西に行く東堂なんて頭おかしい(※個人の意見です)。名前詐欺」
「ほな自分、一生西に来んな。こっち来るときも東から地球1周して来いや」
「はッ!? じゃあ僕が『西宮』になれば解決するって……ことッ!?」
「終わってんだろ。この姉妹。これに比べればウチはまだマシだな」
「いや、あなたの妹も結構終わってるわよ」
「あーちゃん! ここは間をとって『南雲』なんてどう?」
こうして1-Aにいつもの
ちなみに、2人が喧嘩し始めたあたりで教室の後ろの方に居た百合は昨今の過剰なストレスにより卒倒していた。
***
百合を保健室に搬送して無事に終わったLHR。
双子姉妹が去っていた後、東堂はクラスメイトに問いかける。
「ね? 意外と普通だったでしょ?」
「「「それはない」」」 (← 南雲・西宮・北条)
『それはない』(← クラス一同の心の声)
球技大会ぶりにクラスの心は一つになった。
少し前、かの黒髪セクハラ女はこう発言していた。
――『姉妹というのは姉か妹のどちらかは壊れるものなの?』
残念ながら、東堂家に関していえば姉も妹も壊れていた。
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