第118話 ショートコント『実習生』
11月に入り、本格的に寒くなって来た通学路で4人はたわいのない話をしていた。
「そういえば、これで3人の誕生日は終わったけど麗奈の誕生日っていつなの?」
「4月1日よ」
「は? おまえ学年1個下じゃん。今度から敬語な」
「西宮ちゃん? 隣町まで歩いて焼きそばパン買って来てー」
「ふ、2人とも……4月1日までは早生まれだから……」
とはいえ、南雲とは生まれが約10ヶ月差なので本当に1歳の差があるレベルだった。
「今まで私が多少劣っているように見えたのはこれが原因よ」
「いや、違うだろ」
「じゃあ、もう一回一年生やって試してみてよー」
「ゆーちゃん……麗奈に留年を催促しないで……」
ただの通学中の雑談なのでとくに脈絡もなく、話題は生まれの話から家族の話へとジャンプする。
「西宮さんって結構謎の部分多いけど、姉妹とかはいるの?」
「妹は100人居るわよ」
「しょーもない嘘つくな」
ちなみに本当である。
前に居たお嬢様学校では比較的おとなしくしていた西宮を『お姉様』と慕う女子は多かった。
「じゃあ、ゆーちゃんと一緒だ。ゆーちゃんも一人っ子だもんね」
「西宮さんと一緒はイヤ! ワタシも姉は1000人いるから!」
「結果、私と同じような事を言ってるのだけど」
ちなみに本当である。
全国の梅雨町リスナーの中には自称梅雨町の姉は1000人くらい居た。
「姉妹が居るのは俺だけか」
「いや、あーちゃんはお姉ちゃん居るよ」
「へぇ。ちょっと意外ね」
「……意外? 僕には年の離れた姉が2人居るよ」
言わずもがな本当である。
東堂には6つ年上の姉が2人いる。
「俺もお前は一人っ子だと思ってたわ。姉はどんな感じ? 仲はいいの?」
「あーちゃんたちの姉妹仲は良いけど、その……だいぶユニークな人だよ……」
「えー。そんな事無いと思うけどな。普通だよ」
――これは嘘である。
***
「はい……皆さん。静かに。席に着いて」
こめかみを押さえ、少し調子が悪そうに
本日は一限目からLHRとなっており、本来は生徒会役員選挙の話などをする予定だ。
「本日は突然ですが皆さんに紹介したい方たちが居ます。どうぞ入室して下さい……」
突然教室に誰かが来るらしく生徒達は身構えた。
――ガラララッ!!
「毎度~! 大将やってる? なんつって」
「ども」
勢いよく扉を開けていきなりボケをカマす長身青髪の陽キャ(?)。
静かにその後に続いて小声で挨拶する長身赤髪の陰キャ(?)。
謎の来訪者にクラスは困惑する。ある1名を除き。
「はい……彼女たちは今日から約1ヶ月、教育実習に来た実習生です……自己紹介をどうぞ」
「ほいほい。どもどもー、わいはお笑い芸人目指してる
「
「おい……これまた、どえらい呪物来たな……」
「1-Aは妖怪担当になっているのかしら」
「え! というか2人って……」
「……あれ。僕の姉です」
『ですよねー……』
3人を除くクラスメイトは心の中で呟く。
そして同時に『またお前らの関係者か』と、げんなりしていた。
「おー、明里ぃー! 会ったんは久し振りやな!」
「え、そう? 先月も会った気が……」
「明里。姉妹で1ヶ月会わないのは長すぎる」
「そうなんだ」
「あーちゃん……多分、洗脳されてるよ……」
「北条さん、姉妹というのは姉か妹のどちらかは壊れるものなの?」
「し、知らんわ。……あの、2人って双子なんですか?」
さっそくシスコンムーブを見せた東堂姉たちに北条姉が質問をする。
「ううん。血は繋がってない」
「血は……あっ! す、すいません、なんか変な事聞いて……」
「なんでやねん茜! わいら一卵性やがな!」
「だっるー……この人たち……」
一々ボケとツッコミをカマすテンポの悪い会話に早くも北条が音を上げ始めた。
「……というか、東堂さん含め姉妹全員似てないわね」
「おー、これな。分かるように髪色変えてメイクでごまかしてんねん。背丈はよう似とるやろ? 家族でもわからんなるからな」
「なるほど……? 双子って苦労するのね」
「ま。嘘だけど」
「……北条さんの気持ちが分かったわ」
あの無表情の西宮さんにビキビキと青筋を立てさせた人物は初出かもしれない。
「あ、碧さんって関西弁じゃなかったよね……?」
「関西弁ってなんかええやろ? だから勉強してん!」
「……それも嘘なんですよね?」
もう何が嘘か本当かも分からない混沌とした状況で南雲は碧に尋ねる。
「ファイナルアンサー?」
「ふぁい……え? どゆこと……」
「…………」
謎のノリで真剣に南雲を見つめる茜。
何処かから出した小切手を破ってじっくりと間を取る。
「あ、そういえば。南雲ちゃん久し振り」
「答え言わへんのかーい!!」
「「ありがとうございました」」
「???」
本気でノリについていけない南雲からかつてないほど純粋な疑問符が抽出された。
そしてコントが終わった2人は教室を後にする。
「いやいやいや! ちょっと2人とも! まだ実習は始まったばかりですよ!」
舞台から降板しようとする2人を百合が全力で引き留める。
ここまでハジけた実習生は丸女とは言え前代未聞であろう。
期間限定ではあるが、こうしてまた1-Aにヤベー奴が加わった。
残念ながら百合聡美の頭痛の種は増える一方である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます