第117話 聖女に群がるゴミ虫


(百合の回想 side 百合 聡美)


「あ、あの! お二人ともお家は……って万里先生、千堂先生!? ちょ、ちょっと! 寝ないで下さーいっ!!」



ついさっきまで元気だと思ったら気づいた瞬間には眠ってしまった2人。

どうすればいいのか分からず、私はタクシーの中であわあわと涙目で狼狽えている。



「お、お嬢さん……この2人の生徒かい? 小学せ……あ、いや流石に中学生?」


「教師です! 私も成人してます! スーツ着てるじゃないですか!」


「そんなバカな!? あ、いや……コスプレかと……」



生徒と間違えられてしまったけど、タクシーの運転手の方から話し掛けてくれたのはとても助かった。



「あ、あの! こういう時ってどうしたら……」


「あー、こういうお客さんね。結構いるよー。君の家泊めてあげたら?」


「えーと……私の家はベッド一つしかなくて……毛布とかも複数ないから体が冷えちゃうと思います」


「うーん……じゃあ、まぁビジネスホテルかラブホかな。ネカフェとかにぶち込んでおくのもありかな」


「らぶっ……!? び、ビジネスホテルで!」



親切なタクシーの運転手の方はビジネスホテルの空き室状況を見てくれた。

すると近くで空き室のあるビジネスホテルを発見する。

目的地を設定した運転手さんはそこへと向かってくれた。


ホテルに到着してタクシー代を払った私は2人を肩に支える。



「あ、あり、ありがとうございました(プルプル」


「あぁ…あぁ……。いいよ。私も途中まで手伝うから」


「す、すいません。助かります……!」



結局、チェックインの後はホテルの係員の方にも手伝ってもらい、なんとか2人を部屋に寝かせる事が出来た。

私は運転手さんと係員さんに深々と頭を下げて、再度お礼をする。


そして、近くの薬局で二日酔いの薬とミネラルウォーターを購入して机に書置きだけ残しておいた。



(う、うーん……お2人とも多分、私と顔を合わせるの気まずいよね……)


『お薬飲んで安静にして下さいね。今日はありがとうございました。 百合』



そして私は2人の心身の無事を案じ、チェックアウトして自宅へと帰った。



***


「まぁ、そうよね。記憶無くなって『はい、お終い』じゃないものね。続きはあるわよね。あなたたち、どれだけの人を巻き込んでるの?」


「さいてー……どう考えても百合先生の好感度マイナスだよ?」



東堂による回想を聞いた2人はさらに肩身が狭くなっている。



「……そして僕はこの件に関して『2人に記憶があった場合』と言う条件付きで百合先生からの言伝ことづてを預かってます」


「ほ、ほーう?」

「……話せ」



『あの夜の事は思い出したくないと思いますので皆で忘れましょう。いつもお世話になっておりますし、お金の事はお気になさらず』



「聖人か? つか絶対払えよ? もちろん謝罪もしてこい」


「くっ……こんなはずでは。こうなったら一生養って責任を……」


「さ、聡美ちゃん……! このお礼は体で返そう!」



百合の聖人ぶりを聞いたせいか、ますます目の前の人間のクズさが際立つ。



「……ちなみになんだが東堂。百合先生は居酒屋での私たちの発言について何か言っていたか?」


「そ、そうだ! 『大好きな聡美ちゃんとちゅー』とか『百合先生を愛している』とか!」


「はい。『お二人とも大変酔っていらっしゃったので冗談なのは分かってます』と」


「いや、冗談じゃないでしょ。パリピゲロちゅー女は」


「そうね。全部現実よ。ヤニカス泣きゲロ女」


「マジでよく流そうと出来るよな。俺なら距離置くわ」



「「おっしゃる通りでございます……」」



ぐうの音も出ないほど自らのふがいなさを痛感している2人。

反省しているかは分からないが、後悔していることは分かった。


まったく可哀そうとは思えないが。



「……そう、つまり私たちはこの状況を予期して君たちを呼んだ」


「普通に謝りに行けばいいじゃないですか……それで解決ですよ?」


「流石あーちゃん! スピード解決! かえろー」



しかし、東堂の正論パンチは道理の通じないクズには効果が無かった。



「待ちたまえ。人は誰しも過ちを犯す事はあるよ」


「あなたたちは過ちしか犯してないけど大丈夫かしら?」


「……そう、つまり私たちは謝るきっかけかご褒美が欲しいんだ」


「は? マジで頭イカれてんのか? あ、すいません。イカれてるんですか?」



敬語に直したが内容は変わってなかった。

やらかした側の2人が何故か見返りを求めるという異次元の論理がそこには存在していた。


もはや、絶句している東堂と南雲を置いて西宮はごそごそとスマホを弄る。



「はい。ちゃんと謝れたらこれあげるから早く謝ってきなさい」


「「こっ……これはッ!!」」



それは百合の裏モノ写真……もとい、『りりあん☆がーてん』の店長から頂いた例の写真66話のブツである。

画面の中の百合聡美(Ver.ウサミミメイド)は恥ずかしそうにスカートの裾を少したくし上げている。



「け、けしからんな。まったくけしからん! よし、謝ってくるか!」


「ちょっとこれはマズいねぇ西宮さん、マズいよ。私が預かっておこう。とりあえず先に謝ってくるね」



そう言ってクズ教師たちは足早に保健室を後にした。



「えぇ……」


「あーちゃん、はなっちゃダメだよ?」


「え、つか、こっから俺たちあの人たち待つの!?」


「めんどくさいわね。もう帰りましょう」



結局、あまりにもしょーもない理由で呼ばれた4人はしょーもない2人の帰還待たずして帰った。



***


一応、2人の名誉の為の補足をしよう。

ちゃんとした大人の謝罪の後、百合のタクシー代と飲み代に迷惑料お気持ちを上乗せして全額支払った。


百合も怒ってはいなかった為、これにて一件落着(?)である。



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