第116話 安心できません。吐いてます。
北条たちが昼休みイチャついていた日の放課後、
保健室に呼び出された4人は万里と千堂を交えて机を囲む。
2人に関しては沈痛な面持ちで俯いている。
「やらかした」
「私たちは恋愛コンサルタントでもお客様相談窓口でもないの。困ったときに一々呼ぶのはやめて頂戴」
絞り出すような千堂の言葉に対して西宮代表が痛烈に批判する。
「……てか、悪い。ここに千堂先生が居るって事はそう言う事?」
「うん。千堂先生も
「へー。すごーい。全然興味なーい」
2人は例の『百合聡美誘拐事件』に関与してないものの、一応化学の授業で顔を合わせているので面識はあった。
「「「「…………」」」」
「よし。みんな聞く準備は出来たみたいだね」
「……まぁいいわ。話しなさい」
沈黙を傾聴の姿勢と捉えた万里があの日の記憶を呼び起こす。
「あれは忘れもしない金曜の出来事。私たちは残業が終わり、静かな職員室で……」
「あ、すいません。手短にお願いします」
水を差す北条を無視して万里は語り始めた――
***
「聡美ちゃん。良かったら今日、居酒屋へ飲みに行かない?」
「い、いいですね。たまにはどうでしょうか?」
この時点で2人は『百合先生(聡美ちゃん)酔い潰し大作戦』を企んでいる。
作戦自体は前々から考えていたのだが、百合にアポは取っていない。
「お供させて頂きます。お2人にはいつもお世話になってますので。ただ、私……あんまりお酒って飲んだ事無くて……」
「それは好つご……こほん。安心して下さい、危なくなったら私たちが止めます」
「そそ。大学生じゃないんだから。そんなアホみたいな飲み方しないよ」
~~数時間後~~
「うぇーい!! 聡美ちゃん、うぇーい!! 飲んでるー?」
「うぇ、うぇーい……あの、ちゃんと頂いてます……」
「ひっく、百合しぇんせい。酔っぱらう前にそろそろ止めた方が良いんじゃないですか? ひっく、私たちはまだ大丈夫ですけど」
「あ、あの。2人ともそろそろ止めた方が……」
そして、見事に酔い潰れた2人を百合が面倒を見るという謎の状況が出来上がる。
百合は色んな意味で危なくなっている2人を止めようとした。
ちなみに2人は決して酒に弱い訳ではなく、普段の飲みではここまで悲惨な事にはならない。
問題は普段と違う部分にある。
そう、この百合聡美という女。
――とんでもない酒豪だった。
彼女のペースに合わせた結果2人は潰されたという形だ。
結果的に大学生みたなアホな飲み方した2人には天罰が下る。
「うぇーい……うぇぇ、聡美ちゃん……は、吐きそう……」
「ちょっ……! 万里先生、ここじゃマズいですよ! お手洗い行きましょう!?」
「百合しぇんせーい、置いてかないで下さい。吐きそうなのは私も一緒なんれすよ!?」
「えぇ……!? ちょっと、じゃあ千堂先生も一緒にお手洗いに……」
千鳥足のダメな大人二名に肩を貸してトイレへと向かう百合。
そして到着した瞬間、百合の目を憚る事無く2人は豪快に吐いた。
「「~~こちらの音声は皆様のご想像にお任せします~~」」
「だ、大丈夫ですかー……?」
開いた扉から様子を伺う百合は交互に2人の背中を擦りながら介抱をする。
「ご、ごめんよ。聡美ちゃん……こんな状況でも私は大好きな聡美ちゃんとちゅーしたいんだ! ちゅー♡」
「うっ…… ちょ、ちょっと……今は流石に……!」
「万里愛衣! 狡いぞ! ううっ……ひっく、私の方が百合先生を愛しているのに! うぅーっ!!」
「せ、千堂先生!? 泣くのか吐くのかどちらかにした方が……」
地獄絵図である。
べろべろになった2人の吐き気がようやく収まった頃、百合は会計を済ませてタクシーに詰め込んだ。
「聡美ちゃん、2件目どうする??」
「いや……今日はもう帰りましょう……」
飲み会あるあるその①:酔ってる奴ほど次の店に行きたがる。
「まだまだー! 今日は吐くまで飲みましょうー!」
「もう吐いてますよ……」
飲み会あるあるその②:吐いたら全部リセットされると勘違いされがち。
「あ、あの! お二人ともお家は……って万里先生、千堂先生!? ちょ、ちょっと! 寝ないで下さーいっ!!」
そこで2人の記憶は途絶えた。
***
「な、何をしてるのあなたたち……」
「反省はしているんだ! 二度と同じことはしないよ!」
「右に同じく。君たちも酒は飲んでも飲まれるな。いいね?」
「よ、よく真顔で言えますよね……」
稀にべろべろに酔っても寝るまでは記憶が残るタイプの人間が居るが、2人はまさにそれだった。
そんな悲劇の顛末を話してこれから4人に対処法を仰ごうと言うのだ。
「……てか、おい。飲み代どうしたんだよ。タクシー代も」
「は、払った覚えはないねー……」
「ゴミじゃん。え、後輩に全額支払わせたってことー?」
「ち、違うぞ。立て替えて貰っただけだ!」
まぁ、既に何と言おうとゴミであるのは間違いない。
そして、この件に関して更なる情報提供者がここには居た。
「じ、実は僕、昼休みに百合先生からその話を伺ってて……」
「「!?」」
そう。東堂が昼休みに席を外していたのはこの件が原因である。
ここからは2人が記憶を失った後の話――
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