第115話 神ゲー確定 side 北条 茉希


かの銀髪チャラ女はこう言った。


――『もっと欲望に身を任せていいんじゃない?』


今朝の話を聞く限りアイツら2人の進展は無さそうだがイチャついてたのは確か。

好きなヤツとそうやって過ごせるのは羨ましいと素直に思った。


故に、俺は今。スマホを握りしめている。


南雲と共通の話題で盛り上がる為に人気そうなゲームをダウンロードしてある。

昼休み、東堂が担任に呼び出されて席を外している今が好機だ。



「な、南雲。ちょっと教えて欲しい事があるんだけど……」


「んー? なになにー?」



自分の席でスマホを触っていた南雲がトコトコ歩いてくる。

名前を呼んだら近寄ってくる小動物みたいで可愛い。


俺の作戦はこうだ、

『南雲にゲームを教えて貰う』からの『操作の補助や説明の為に密着』。


もはや作戦というかは思いつきのレベルかもしれない。



「南雲ってこのゲームやった事あるか?」


「え! ゲーム? どれどれー? ぬぬ……?」


「あれ? やった事なかった……感じ?」



難しそうな顔をする南雲は顎に指を当てて首を傾ける。



「いや、やった事もあるし得意だけど……その……」


「?」


MOBAは……ちょっと、初心者にはおススメ出来ないというか……」


「そ、そうだったのか……スマン」



まず最初の一歩から間違っていたらしい。

欲望に身を任せて思いつきで行動したのが敗因だろう。



「ご、ごめん! そんなに落ち込まないで! じゃあ、ちょっとプレイしてみて合うかどうか試してみよう?」



失敗したと思ったが肩を落とした俺を見て南雲はフォローを入れてくれた。


このチャンスを逃してはならない!

南雲の優しさに付け込んでいるようで若干気は引けるがチャラ女の助言に従う事にした。


俺の席は一番後ろの列なので後ろ側にスペースがある。

なので、南雲が後ろから教えやすいように俺はスマホを構えた。



「どのキャラ使うー?」


「!?」



声は後ろから掛かるものかと思ってスマホ見ていたが、なんと声は

南雲は俺の肩に顎を乗せ、腹のあたりに腕を回して抱きついていた。


(え? この距離? やば。MOBA最高かよ)


幸せを噛み締めながら震えていると南雲は俺がキャラ選択を迷っていると勘違いしたらしい。



「うーん……ちょっと待ってね。茉希ちゃん、もうちょっと椅子引いてー」


「ん? ほい」


「ちょいと失礼」


「!?!?」



なんと、椅子を引いた事により出来たスペースの中に南雲が潜り込んで来た。

俺の膝の上に座り、今度は俺が南雲の肩越しにスマホを見る。


つまり俺は今、南雲を抱きながらゲームをしているという事だ。


(神ゲーか? つーか、これ……!!)


これだけ密着すると体温や匂いまで伝わるわけで。

そうなってくるとちょっとムラムラもしてくるわけで。



「これはCPU戦だから好きなキャラ選んでー。でも、初心者におススメなのは一応、上レーンかな?」


「うんうん、うんうん。上な。上レーンと……」



(いや! もう欲望しかねぇよ!!)


欲望に身を任せた結果、俺は欲望に支配されていた。


正直、話の内容は全然入ってこない。

せっかく南雲が教えてくれてるのにこのままじゃマズい。


――そんな矢先、意外な救世主が現れる。



「ちょっと。面白そうな事をしているわね。私も混ぜなさい」



トイレかなんかで席を外していた西宮がエントリーを希望した。



「えー。西宮さんMOBA分かるの?」


「少しならね。だからそのガチ百合空間に混ぜなさい」


「言い方やめろ」



俺の背後に回った西宮は俺と南雲を両方抱きしめるような形を取る。

西宮との間には背もたれ、俺、南雲と3つあるので腕は周りきって無いが。



「どう? ドキドキする?」


俺の肩に顎を乗せた西宮が耳元で囁く。


「いや、だいぶ落ち着いた。さんきゅな」


「……どういう事かしら?」



まったく興味の無い女が後ろに居るだけで2人きりの時よりは集中出来そうだった。


――と思った矢先、神ゲー講習は突然の終わりを迎える。



「ただいまー……んん!? ちょっと、北条何してるの!? 僕も混ぜて!」



担任との用事を済ませた東堂が帰ってきてしまった。



「え! じゃあ私、あーちゃんの前がいい!」


「僕は麗奈を抱きしめたいというか……」


「なるほど。ではみんなで保健室に行きましょうか」


「いや、もうお終いだよ」



ゲームという目的は消え去り、誰が誰を抱くかの争いが始まった。


……まぁ最初からゲームは手段だったけど。すまんな、神ゲー。



こうして今日、俺は一つ学んだ事がある。


『安易に欲望に身を任せてはならない』



***


その後、話題作りの為に俺はMOBAを少し触ってみたがボコボコにされて萎えた。

南雲にスコアを見せた所、サブ垢(?)による初狩り(?)が横行しているらしい。


よく分からんが、俺はしばらく神ゲーと距離を置く事にした。



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