第114話 3点バースト side 東堂 明里
「見て、東堂さん。あれが、ベガ、デネブそしてアルタイルよ」
「いや、シリウス、ベテルギウス、プロキオンだね……」
麗奈が指さす冬の大三角は全問不正解だった。
逆に何故彼女が夏の大三角を知っていたのかはよく分からない。
堪えた笑いが漏れている後ろのカップル。
ややウケだったのが少し恥ずかしかった。
上映が始まると秋から冬にかけての星の話と星座にまつわる話を解説し始めた。
隣の麗奈は映し出される星空に感動……しているのかどうかはよく分からない。
そんな中、僕はいつ麗奈の手を握るのがベストなのか。
そのタイミングの事だけを考えている。
かの金髪ヤンキーはかく語りき。
――『アイツは押しに弱いぞ』
待っていてもロマンティックな内容が来るとは限らないのでもう覚悟を決めた。
(ぼ、僕は行くッ!!)
……ちょん。
麗奈の小指に僕の小指が被さる。
決めた覚悟のわりにそんなに勢いはつかなかった。
(あ、あれぇー??)
ここからどうればいいのか手を震えさせていると、
シュルルッ!!
麗奈は僕の手を恋人繋ぎに変えた。
食中植物のように僕の指を捕食した麗奈の指はビクともしない。
(て、手が幸せ……)
と、いうか僕の指が動く気を無くしていた。
そこから先のプラネタリウムの内容は覚えてない。
***
「面白かったわね。行きましょう」
「……う、うん。そうだね」
上映が終わった後、しばらく感動の余韻に浸っていた僕は動けなかった。
やっぱり北条が言った通り、押して正か…ぃ……
(はッ!? いつから僕は自分が押していると錯覚していた!?)
気付けば麗奈に主導権を奪われていたような気がする。(※1)
※1.奪われてます。
ここから帰り道につく前に頼れる女としての見せ場を作らなければ……!
周りの客は退出して誰も居ないこの状況を活かして僕は今度こそ覚悟を決めた。
かの金髪ヤンキーはかく語りき。
――『アイツが好きな理由ちゃんと考えておけ』
暗い通路で出口に向かう、今こそその時!
ドンッ!!
壁ドンである。
今度は上手く行った!
僕は暗がりで麗奈の耳に顔を近づける。
「れ、麗奈。今日は本当に楽しかった! 僕はそういう一緒に居ると楽しいとこ、大好きだから……!」
「…………」
(ど、どう? 結構いい感じだと思うんだけど……)
「……少し、屈んで貰えるかしら?」
「?」
膝をついた僕を麗奈は正面から優しく抱き寄せる。
必然。僕の頭は麗奈の胸に埋まった。
「今日はありがとう。私も楽しかったわ。日々、削られていく私の自尊心を取り戻せたみたい」
「はわわわわわわぷ」
麗奈の豊満の胸の中で僕の意識も沈み始めた。
麗奈の手が僕の頭を撫でる感覚すら遠のいていく。
「えらい。えらい。ほーら、女の子になーる、女の子になーる……スパダリよりもメス堕ち……」
「あ、あのー……! 上映終わってるんで早く出て貰っていいですかー?」
「!? す、すいません! 失礼しましたッ!」
沈みゆく意識の中からスタッフは僕を現実へと引き戻してくれた。
とりあえず、僕は麗奈の手を引いて颯爽とプラネタリウムを後にする。
胸の中にいた間、麗奈が何か言ってたような気がする。
……何て言ってたんだろう?
***
「……という、感じだったよ!」
「俺は押せって言ったよな? やる気あんのお前?」
その後、特に何事も無く終わったデートの一部始終を朝の登校中に話した。
辛辣な北条だが彼女の境遇考えれば、まぁなんとなく気持ちは分かる。
心なしかゆーちゃんは安心しているようにも見えた。
そして、麗奈は麗奈でごそごそとカバンの中身を探っている。
「はい。これ、あなたたちへのおみあげよ」
「こッ……これは!!」
「恐竜アクリルキーホルダー!?」
包みを開けたゆーちゃんと北条が驚愕する。
「おいおい、ブラキオサウルスかっけーなおい」
「見て見てー、ステゴサウルスかわいいー見てー」
「好評なようね」
「って……なるかボケ!」
「って……ならないよ!」
見事なノリツッコミが炸裂する。まぁそうなるよね……。
一応、優しい2人はつける場所を考えていた。
「そうだ。あの時バタバタしていて東堂さんにプレゼントを渡しそびれてしまったの。はい、誕生日おめでとう」
「えっ、ありがとう。開けていい?」
「もちろん。2人ほど気の利いたものではないかもしれないけど」
突飛な考えが多い麗奈からはどんなプレゼントが……
ま さ か の イ ヤ リ ン グ 。
可愛らしく少し目立つデザイン。
ここに来て何故か急にまともなチョイスで魅せた麗奈。
これでプレゼントはピアス、ピアス、イアリングという見事な3点セットとなった。
これってもしかして……三つ穴開けろって事なのかな!?(※2)
※2.違います。
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