第113話 お嬢様 with 恐竜


今度こそ東堂と西宮のデートの当日、2人は駅のバス停付近で待ち合わせをしていた。


当然、先に待ち合わせ場所に居るのは東堂。

相変わらず余裕で待ち合わせ時間を千切りながら優雅に現れる西宮。


ただ、数々の経験を積んだ東堂はこの程度の遅れは織り込み済みである。



「待たせたわね。行きましょう」


「うん。でも、麗奈……なんか、その……」



しかし、そんな彼女にも想定外の出来事があった。



「何か問題でも?」


「いや、その恰好……だなと思って……」


「あの頃とは違うのよ。私も日々進化しているの」


「……北条に選んでもらったとか?」



数日前に送られてきた北条からの謎のメッセージから彼女は素早く答えを導き出した。



「ええ。出来ない事はやらない。これが私の進化の証よ」


「う、うん。良いと思うよ。ちゃんと似合ってるし。可愛いよ、麗奈」



これがもし他の2人なら、

『まったく進歩ねぇじゃん』とか『退化でしょ』とか言われていたかもしれない。

しかし、東堂なら全肯定。


これには西宮さんも上機嫌である。


上手にご機嫌取りが出来た東堂は自然な形で彼女と手を繋ぎ、博物館へと向かった。



***


博物館デートを提案したのは西宮だが、そのスケジュールを考えるのは当然東堂の役目だ。

プラネタリウムを見たいという西宮の要望から、既にプラネタリウムの前売り券は購入してある。


問題はプラネタリウムの上映開始時間までの間。

現在開催されている化石展を見る事にしたのだが……



「…………」



無言で化石を見つめる西宮が楽しんでいるのかどうかがよく分からない。

東堂は西宮の趣味すらよく分かってないが、正直なところ化石に興味があるとは思えなかった。



「……ど、どう?」


「楽しいわ」


「楽しいんだ!?」



興味あったらしい。



「東堂さん。トリケラトプスの名前の由来を知ってるかしら?」


「え? 麗奈は知ってるんだ。凄い! 教えてよ!」


流石の東堂も、まさか西宮の引き出しから恐竜豆知識が出てくるとは思わなかった。


「私も知らないわ。知らないから聞いてみただけよ」



違ったらしい。



「き、気になるよね!? すぐに調べてみるよ!」



音速で『トリケラトプス_名前_由来』で検索を掛けた東堂が西宮に解説を入れる。

会話の流れからはどう考えても西宮が解説を始める流れだったが、本人は至って真面目に質問したつもりだった。


何故か化石に興味を持ったり、こういった謎の言動をしたり。

これこそ彼女が『ワケ分かんねぇヤツ』と言われる原因だろう。



「東堂さんはヴェロキラプトルという恐竜を知ってるかしら?」


「えっ? ……あぁ! すぐ調べるね!?」


「いえ。私が解説してあげるわ。ヴェロキラプトルは小型で猛禽類の鉤爪のような形状の手足を(以下略」


「す、すごーい!」



東堂は展示物の看板を極力見ないようにして西宮の棒読みを称賛した。


その後もテンポを崩し続ける西宮の一挙手一投足に東堂の興味は尽きない。

『ワケ分かんねぇヤツ』も好きになってしまえば『おもしれー女』なのである。


傍から見れば全く噛み合っていないが、2人はとても楽しんでおられる模様。



***


プラネタリウムを見た後は解散の予定なので、化石展のおみあげコーナーで西宮は南雲と北条におみあげを買っていく事にした。


とは言え、懸念点が一つ。



「これなんてどうかしら?」


「きょ、恐竜えんぴつ……? 使う……?」



そこにあるのは恐竜えんぴつに恐竜クリアファイル、そして恐竜缶バッチ。


まぁ、化石展なので当然と言えば当然だろう。


東堂のイメージとして、

『北条&南雲 feat.恐竜』のインスピレーションはまったく沸かなかった。


結局、無難な……ものなどは無いが、恐竜アクリルキーホルダーを買う事になった。



「せっかくだから今日の記念も買いたいわね」


「……! じゃあ、このお揃いのマグカップを……」



東堂が指を差す頃には西宮は博物館のロゴの入った恐竜Tシャツを手に取っていた。



「こっちにしましょう。お揃いで着て歩いたらカップルに見えるわよ」


「いや、博物館のスタッフにしか見えないよ……」



しかし、西宮たっての希望という事で強く出れない東堂は最終的に恐竜Tシャツを選んだ。

普通にダサT寄りではあるので普段使いはないとして、2人が謎の恐竜ペアルックでデートする日は来るのかもしれない。


こうして意外にも恐竜三昧を堪能出来た2人はメインディッシュのプラネタリウムに向かう事にした。



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