第112話 女の勘


と、言う事で東堂と最後にデートするのはこの女。



「行くわよ」


「おい。誘う相手間違えてるぞ」



……なのだが、西宮は東堂のデートの前に重要な問題を抱えていた。

全員で下校したと見せかけて、車を使う西宮は電車を使う北条の先回りをして待ち伏せしていた。



「デートに着ていく服が無いわ。付き合いなさい」


「ロリコン忍者に聞けばいいだろ」



「――お呼びでしょうか?」


北条の無防備な耳元に口を寄せて五味渕が囁く。


「ひッ!?」



背後には当たり前のように忍者が立っていた。



「五味渕、下がりなさい」


「かしこまりました」


「マジで心臓止まるかと思ったわ! 何処に潜んでんだよ……」


「1匹いたら100匹は潜んでると思いなさい。じゃあ、行くわよ」



なし崩し的に車に乗せられた北条は改めて服についての話を伺う。



「……なんで俺なんだよ。服くらいでも分かるだろ?」


「前回当てにならなかったからクビよ。2度も服選びのセンスが無いとは思われたくないの」


「前回はなに着て行ったんだ?」


「ドレスよ」


「アホか。社交界じゃねぇんだよ」


「そういう事よ。期待しているわ。今日はよろしく」



実例を挙げられると確かに悲惨な未来しか浮かばないので北条は西宮の服選びを手伝う事にした。

南雲には悪いと思いながらも打算的な思考も込みで。


早速、着いた店は高級ブランドショップ――



「チェンジだ。同じ轍を踏む気か?」


「ブランド服を着ているのはダサいの?」


「ダサいっていうか、学生のデートでゴリゴリのブランドもん着て来たら引くわ。何デートかは知らんけど東堂も動きづれぇだろ」


「博物館デートよ。プラネタリウムが見てみたいの」


「……意外とまともなとこ来たな? 俺はてっきりラブホデートとか言い張るかと思ったが」


「北条さん……下ネタはちょっと……」



苛立ちを覚えた北条は西宮を無視して運転手に近くのショッピングモールに向かうように要望を出した。



***


「東堂さんってどんな服が好きなのかしら?」


「知らんがな。それこそ本人に直接聞けよ。今回俺が選ぶのは無難な服だぞ」



ショッピングモールに着いた2人はファッションフロアを目指して歩く。



「……というか、東堂さんは私のどこが好きなのかしら?」


「そりゃ胸だろ……いや、そういやこの前なんかしょーもないこと言ってたな。まぁ、本人に聞いてやれ」


「じゃあ北条さんは私のどこが好きなの?」


「…………」



聞き流しても良かったのだが北条は検証してみたい事があった。

さっきから調子に乗っている事に対しての意趣返しも兼ねて。


北条は西宮の肩をグッと抱き寄せて彼女と目を合わせる。



「外面と内面のギャップは可愛いと思うぞ」


「えっ!?!?」


(やっぱりコイツって思ってるよりクールじゃないのかもな)


「嘘だよ。お前がいつもやってるタチの悪いイタズラをリスペクトしてみただけ」



肩から手を離した北条は特に興味もなそうに体を離す。

西宮は顔を無表情に戻したものの顔に極僅かな怒りの色を滲ませた。

そして彼女は北条の腕に抱きつく。



「おい、離れろ。カップルだと思われたくない」


「へぇ? あなたから舐めた真似をして来たのにそんな事を言うのね? 本当は内心照れているのかしら?」


「んな訳ねぇだろ。そんなあっせぇ挑発には乗らん。腕組続けようとすんな」



駄々っ子のように『んー!』と腕に抱きつく西宮と、呆れながらそれを振りほどこうとする北条。


――傍から見ればただのバカップルだった。



結局、諦めた北条は西宮とそのまま買い物をした。



***


その夜、東堂に北条から謎のメッセージが届く。



『東堂、やっぱりアイツは押しに弱いぞ』

『?』

『あと、アイツが好きな理由ちゃんと考えておけよ』

『?』 『聞かれる事あるの?』 『と、言うかなんで北条がそれを?』


――5分後。


『女の勘』



「いや、そんな訳ないでしょ」


これには流石の東堂さんも思わず画面越しにツッコミを入れる。


「北条……また麗奈と何かあったのかな……?」



北条の言うように、『女の勘』が働いた東堂は北条に対して不信感を抱いた。



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