第109話 このデートに名を付けるなら
喫茶店を出た2人はのんびりと散歩しながら公園へと辿り着いた。
公園の入り口に停まっていたキッチンカーでメロンパンを購入して座る場所を探す。
この公園は大きな池を囲む散歩道とその池を渡す橋で構成されている。
とくに目的もないのでただただゆったりと池を見ながら2人は歩く。
「……熟年夫婦のデートプランみたいになってるけど大丈夫か?」
「北条は僕と遊園地に行って大はしゃぎする方が良かった?」
「たしかに。それよりはマシか」
時は休日の昼下がり。
北条が言うように周りには東堂たちと同じような熟年夫婦の姿も見られた。
「しかし、北条がゆーちゃんに、かぁ……ライバルは多いよ?」
「お前とかな。てか、南雲にとってそれ以外は眼中に無いだろ」
「それもそっか」
「自分で言うな。腹立つわー……」
北条は口を尖らせながら怒って見せる。
もちろんフリである。
自分が南雲に恋愛対象として見られていない事は分かっている。
東堂とは立っている場所が違うことは重々承知の上だ。
「告白とかはしないの? 先に言っとくけど。仮にフッたとしてもゆーちゃんはそれで対応は変えないと思うよ」
「フラれる前提かよ。……いいんだよ。俺はアイツが折れるまではアイツを支えるって決めたから。だからって俺に変に気を使うなよ」
北条は東堂を睨んで真剣な声色に変えた。
「だから次のデート、南雲と真剣に向き合ってやれ」
「それはもちろん。でも、ふふっ……それってさ。北条が楽になる為にゆーちゃんへの対応を変えろって要求でしょ? ちょっと自分勝手じゃない?」
睨まれた東堂はそれをヒラリと受け流して反撃をした。
少しの毒を織り交ぜて。
「……たしかに。それは俺の願望だったわ。ごめん、今の言葉は取り消す」
南雲が東堂にフラれれば北条にはチャンスが回ってくる。
南雲が東堂と付き合えば北条は諦める事が出来る。
南雲と東堂の恋が進展欲しいと願う事、それはまさしく自分の都合だった。
だから東堂は、南雲を大切に思うからこそ北条に厳しく忠告をした。
北条は橋の途中にあるベンチにフラフラと腰を掛ける。
「はぁ~~~……これが恋煩いってやつか。まさか俺がこんな事になるなんて……」
東堂はその近くの手すりにもたれ掛かる。
「北条はさ。ちょっと自分に厳しすぎるんじゃないかな。もっと欲望に身を任せていいんじゃない?」
「……流石。出会って秒で西宮に告白した女が言う言葉には重みがあるな」
「あ! というかそうだよ! 僕はもう一個聞きたい事があるんだ! 北条の恋に口出してる場合じゃないんだよ!」
「はいはい。じゃあ俺の恋愛相談タイムは終わりな」
北条に聞きたい事リストにあった項目を思い出した東堂が若干身を乗り出す。
「麗奈ってさ。なんでゆーちゃんと北条にはアプローチするのに僕にはしてこないのかな!?」
「そうかぁ? 俺にはそう見えねぇけど」
「ゆーちゃんはお泊り会の時、麗奈と秘密を共有してたし!」
「偶然だろ」
「北条は文化祭のお化け屋敷で絶対麗奈となんかしてたし!」
「……気のせいだろ」
厳密に言えば『なんか』をしていたので北条はメロンパンを食べながら誤魔化す。
「夏休み中になんか進展とか無かったのか?」
「睡眠薬で眠らされて縄で縛られたくらいだよ!」
「何してんのお前……?」
あの事件で東堂が受けた仕打ちを要約するとそうなる。
遠い目をした東堂は千切ったメロンパンをパラパラと池に落として鯉のエサにする。
「アイツは一番ワケ分かんねぇヤツだからなぁ……ただまぁ、急にしおらしい一面を見せる時あるからそん時に押せばワンチャンあるかもな」
「そんなとこ見たこと無いよ。 ……と言うか、待って! 北条はワンチャンあったんだ!?」
「い、いや、例え話な」
「あったんだ!」
「うざっ!」
そこから、あーでもない、こーでもないと喚き散らしながら誘導尋問を行う東堂をウザそうあしらう北条。
メロンパンを食べ終わると彼女は早々にベンチから腰を上げた。
「まぁ、なんか良かったわ。お前も苦労してるみたいで」
「良くないよ! どうしたらワンチャン掴めるのか教えて!」
「知るか。お前も悩め。そして煩え。俺のように」
さっさと橋を歩き始めた北条に東堂がついていく。
その距離感は相変わらずの微妙な距離だった。
***
別れ際に北条は駅前で東堂にプレゼントを渡す。
「ほい。これプレゼント。あんま目立たないピアスが入ってるから。普段着けてないならギャップを演出出来るだろ」
「ありがとう! 麗奈はピアス着けてる方が好きなのかな……?」
「知らんわ。着けた状態で直接聞いてみろ。ダメなら外せ」
「そうだね。うん、それじゃ今日は楽しかったよ。また一緒に出掛けようよ」
「俺も意外と楽しめたわ。だからまぁ……また誘ってくれ。じゃあな」
こうして2人の『他の女の話しかしない』デート(?)は終了した。
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