第107話 例え話の失敗例
中間テストが終わってすぐに東堂は北条のデート券を使うことにした。
『りりあん☆がーてん』でのバイトの休憩中、東堂は北条の予定を聞いた。
「北条。空いてる日を教えて」
「俺が最初か。じゃあトリが西宮になるんだな。どうする? パパっと終わらせるなら平日とかにするか?」
「うん? 北条はあんまり僕とはデートしたくない感じなの?」
「うん? いや、お前こそ別に俺とデートしても楽しくないだろ?」
相変わらず嚙み合わない2人はお互いに疑問符を浮かべる。
北条としては自分のデート券は東堂にとって紙切れ以下の存在だと思っていた。
しかし、ここでデートをしないと南雲のデート券もうやむやになってしまう。
それを避ける為には東堂との義務デートは必須、北条自身はそう思っている。
「僕は北条のプライベートを知らないからゆっくり話してみたいけど?」
「まぁ、たしかに。俺もお前が普段何してるとか全然知らないわ」
「ちなみに何してると思う?」
「うーん。盆栽? それか女漁り」
「どっちも違うよ。北条が抱く僕の人物像が相当にブレていることはわかった」
盆栽と女漁りの落差が凄いのはやはり、北条が東堂という女を理解していない表れだった。
「え? お前って普段は女と遊びに行ったりしないのか?」
「いや……誘われたら断らないから……よく遊びに行くけど」
「じゃあ趣味は女遊びって事?」
「言い方……友達と遊んでるだけだよ」
「その遊びって告白とかされたりしてないよな?」
「…………」
「女遊びじゃん」
東堂はただただ普通に遊びに行ってるつもりだが、誘う側は大体東堂に恋をしているケースが多い。
誘われた時になんとなくそういう雰囲気だったとしても、その気持ちを無碍には出来ないので誘いを断れない東堂であった。
まぁ、結局フッて余計めんどくさい事になるのだが。
東堂の悪い噂で最も多いのが『思わせぶり』とか『脈アリかと思ったのに弄ばれた』というものなので、そもそもがほいほいとデートの誘いに乗るというのが問題なのだろう。
そして人はそれを『女遊び』という。
「ぼ、僕は麗奈一筋って公言してるのにどうして皆告白してくるんだろう……?」
「そりゃお前……じゃあ、仮に西宮が俺の事が好きだって公言したらお前は西宮のこと諦めるのか?」
「それは……僕は身を引くよ」
「……いや、そこは諦めないって言ってくれねぇと話繋がらないんだわ」
「い、いやだって好きな人には幸せになって欲しいから! じゃあ北条だったらどうするの!?」
「それは……まぁ、俺も身を引くな。……あれ? 話繋がらねぇな!」
『仮に~』から説得力のある話が展開されると思いきや、全然グダグダだった。
変な女が好きな人間同士で通ずるものがあるのだろう。
「ま、まぁ、ともかく俺が言いたいのは、世の中色んな考えの人間が居るって事だ! そして俺らはきっと少数派ってことよ!」
「なんか強引……要するにみんな僕が誰を好きだろうが関係ないって事?」
「だろうな。南雲なんてその典型的な例じゃねぇか」
「たしかに……え、じゃあゆーちゃんが世間一般側って事なの?」
「それはそれで……あれ? なんかおかしいな! てか、これなんの話しだっけ?」
デートの予定の話である。
気付けば2人の会話は迷子になっていた。
「す、すごい話が逸れたね……つまりはデートどうしようって話だよ!」
「そ、そうだったな。まぁ俺はバイトの日以外だったら大体いつでも時間作れると思うぞ」
東堂がバイトのシフト表を指でなぞりながらうんうんと頷く。
「うん。じゃあ明日にしよう」
「明日!? いつでも良いとは言ったけど、予想以上にすぐだな」
「僕たち2人が休日のシフトに入ってないことって中々無いからね」
店としても人気キャストである2人を客の多い休日に持ってきたいのは当然だろう。
つまり、2人とも休みの明日は奇跡であるという事だ。
「おっけ。じゃあ明日の午後からでいいか? 午前は家事をしたい」
「了解。じゃあ午後からの予定で。詳細は僕が決めていい?」
「え? 誕生日なのにお前がエスコートすんの? いや、俺は別にいいけど」
「たぶん、麗奈もゆーちゃんも僕がエスコートする側になるでしょ? だから、北条もその流れで」
東堂は大体のデートコースを頭の中に思い描く。
しかし、そこでふと思い出した。
「そういえば、北条って普段は休日に何してるの?」
「そうだな……何してると思う?」
「うーんと……って! さっきもこの流れで話逸れたんだよ!」
「そ、そうだったな! すまん、すまん」
気が合うのか合わないのか分からない2人はこうしてデートプラン、もとい遊びに行く予定を立てた。
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