第106話 先生は信じてた side 百合 聡美


体育祭は1-Aの所属する紅組が勝利した。

私はあんまり貢献出来なかったけど、クラスのみんなはすごく頑張ってくれた。


……一部、突飛な行動をした生徒は居るけれど。


そこからはすぐにテスト週間に入り、あっという間に中間テストが終わった。


そして今、テスト結果を渡す私はある生徒に疑惑の目を向けていた。



「その……南雲さん。(カンニング)……やってないよね?」


「何をー?」


「あっ……いやいや、心当たりがないなら大丈夫! 先生は信じてるから!」



今回、南雲さん赤点を回避していた。

それどころか彼女はどの教科も平均点以上を取るという奇跡を起こした。

私の記憶が正しければ彼女が1つも赤点をとらなかったのは入学して初だろう。



「今回は勉強頑張りました! あーちゃんとデートするので!」


「へー、なるほどそういう……せ、先生は信じてたけどね!」


「何をー?」



純粋な努力による結果だった為、私はカンニングを疑った自分を恥じた。


(ダメよ、私! 生徒をしっかり信じてあげなさい!)


次は西宮さんの返却の番だが、彼女に関しては平常運転だった。



「西宮さんはもうちょっと勉強しましょうね」


「そんな……今回は少し頑張ったのだけど……」


「え……ご、ごめんなさい! 先生てっきり、西宮さんが遊び呆けているのかと思って……」


(せ、生徒の頑張りに気づけなかったなんて! 感じ悪い先生だって思われちゃったかな……?)


「今回は東堂さんとのデートがあるから出来れば赤点を回避したかったのだけど……」


「そっかぁ……、それは残ね……ん?」



私は西宮さんを慰めようとした時に違和感を感じた。



「そのぉ……西宮さんは東堂さんと2人でデートに行くの?」


「えぇ。まぁそうね?」


「そ、そうなんだ……デート行けるように追試頑張ってね!」


「……? はい。頑張ります」



(と、東堂さん2股掛けてるーーーッ!!)


西宮さんにはそのきらいがあったけど、まさか東堂さんの方も2股掛けてたなんて……!


で、でも何か事情があるのかもしれない。

次は北条さんに渡す番だからそれとなく聞いてみよう!



「はい。北条さんはいつも通り頑張ってますね」


「ありがとうございます。それじゃ」


「……ときに北条さん。東堂さんについてどう思う?」


「なんですか急に? テスト全然関係ないんですけど……」



見た目に反して真面目な彼女が言う事はもっともだ。

しかし今、事態は急を要する。



「……東堂さんって、よく女の子とデートするの?」


「あぁー……アイツから聞いたんですね。まぁ、なんか流れで。アイツとデートする事になりました」


「えぇっ!? そ、そそっ、そうなの!?」


「あれ? 違いました?」


「あっ、いやその…………デート楽しんできてね?」


「ん。あざます」



そう言い残して彼女は去っていった。


(さっ、3股なんて聞いてないよっ!?)


一番興味無さそうな北条さんまでその毒牙に……


このままじゃ入学式の事件の再来だよ!

もはや一刻の猶予もない。私は東堂さんを呼び出すことにした。



「東堂さん!」


「は、はい? なんですか? テスト結果ならさっき貰って……」


「後で話があるので生徒指導室まで来てください!」


「生徒指導室!? 僕なんか悪い事しました……?」


「よく胸に手を当てて考えて来てください!」



あくまでも罪の意識がない東堂さんは相当重度な浮気癖を患っているのだろう。

教師として私が彼女を正しい道に導かなければ!


――私は決意を胸に抱いて生徒指導室へと向かった。



***


「そーうだよねぇ!? 誕生日の記念に遊びに行くだけだよね!? 先生は東堂さん信じてたけどね!」



生徒指導室に来た東堂さんに例の3人から東堂さんとデートするという話を聞いた、と告げると彼女は丁寧に経緯を説明してくれた。

東堂さんを叱る気だった私は焦りまくっている。



「良く分からないですけど……ところでなんで僕は生徒指導室に呼ばれたのでしょうか?」


「…………」



(ど、どうしよう!? ホントは3股だと思って呼んじゃいましたって言うしかないのかな!?)


言おう。正直に言って謝ろう。



「東堂さん!」


「は、はい!」


「……最近調子はどうですか?」


「え? まぁいつも通りですけど……」



「そうですか……では、話は以上です」



「いやいやいや! 絶対何かありましたよね!? そんな理由で生徒指導室に呼ばれる事あります!?」


「た、体調が悪そうだったので声を掛けただけです」


「えぇ……? 先生、悩み事があったら何でも言ってくださいね。相談ならいつでも聞きますから」



そう言って彼女は椅子から立ち上がる。


(わ、私のバカーーーッ!! こんな優しい子を疑って嘘までついて……)


さ、最低だ。こんなの教師のあるべき姿じゃない。

やっぱりちゃんと謝ろう!



「ご、ごめんなさい! 東堂さん! 実は私、東堂さんが3股軽薄浮気女だって思ってました!」


「軽薄……浮気女……どうしてそんな事に……」



私は彼女に勘違いをした経緯を説明した。



「あぁ……まぁ、その。誤解が解けたようなら何よりです。それでは失礼します」



去っていく彼女を見ながら私は改めて心に誓う。

『生徒はちゃんと信じてあげよう!』



……もう何度目か分からないけど。



こうして改めないと意志の弱い私は流されてしまうから。



***


「お、帰って来たか東堂。何やらかしたんだ?」


「うん……実はかくかくじかじかで……」


「ふーん。つまり3股はゴミと……感想聞かせて? 西宮さん?」


「ならば6股するまでよ」



百合の投げた暴言は何故か西宮へと刺さっていた。



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