第105話 抱き合わせ商法


自分たちの参加種目が終わっている為、4人の午後の部は雑談タイムとなる。

東堂がお手洗いに行ったタイミングを見計らって南雲はある提案をした。



「ねね! もうすぐみんなご存じ、あーちゃんの誕生日なんだけど……」


「私は知らなかったわ」


「俺もだわ。 ……誰も存じ上げてないぞ」



現在は9月末だが、どうやら東堂の誕生日は10月中旬らしい。



「アイツって何が好きなんだ? 意外と謎の女だよな」


「そりゃもちろん……ワタ……」



『ワタシ』と言おうとした所で西宮と目が合う。

目に涙が浮かべ言葉を失う南雲を見て北条が焦った。



「あー!! 分かってる、分かってる!! もちろん西宮ソレ以外な! ほら、西宮も謝れ!」


「何故私が……落ち込ませてごめんなさい(?)南雲さん」


「うん……許す」


「よし。話の続きに行こう」


「……納得いかないわ」



あまりコントに時間を割きすぎると東堂が帰ってきてしまうので北条が調停役を担い、さっさと話を進める。



「今回はサプライズじゃなくて、あーちゃんに直接欲しいもの聞くのってどうかな?って提案」


「あー、なるほどな。いいんじゃないか。俺は賛成」


「私も異論はないわ」


「それじゃ決定! あーちゃん来たらさっそく聞いてみよー!」



3人がまったく競技を見ていない間、裏で担任が必死に最下位を走っていた。



***


お手洗いからの帰り道、東堂は衝撃の人物を目撃する。



「ちょ、ちょっと……! 君たち、なんでここに居るの?」


「あら? こんにちは。東堂さん」


「東堂ッ! ……さん」



そこには何故か丸女の体操服を着用した四方堂と十河が居た。

文化祭と違い体育祭は部外者の参加が認められていない。


つまり、これは……不法侵入である。



「お姉様の勇姿をこの目に焼き付ける為に馳せ参じましたわ!」


「……次の先輩の出番っていつですか? さっさと教えてください」



まったく罪の意識が無い2人は我が物顔で体育祭を観戦していた。

なんだったら弁当も持参して普通に丸女で食べていた。



「まぁ僕らが参加する種目はもうないけど……」


「ふーん。じゃあもう見る価値なし。帰ろ、杏樹」


「そうですわね。それでは東堂さん、ごきげんよう」



南雲と西宮の出番が無いと見るや否や2人は潔く帰っていった。



「……えっ、それで終わり?」



本当に何事もなかったかのように東堂だけその場に取り残された。



***


東堂が持ち場に戻ると3人は心配していた。



「長かったな。やっぱ森弁当食い過ぎて腹壊したか?」


「失礼ね。アルコールスプレーで消毒済みよ」


「西宮さんアルコールで野菜洗ったの!? あんまり食べなくて良かった……」


「い、いや、お腹は大丈夫だったんだけど、不審者を見つけてね……」



東堂は四方堂と十河の目撃情報を伝える。



「もう十河さんに関しては学校とかじゃなくて警察に通報していいよ。遅かれ早かれ逮捕されるもん」


「声を掛けてくれれば会話くらいするのだけど。ガブは結構奥ゆかしいのね」


「いやぁ……奥ゆかしい人間は学校に潜入しないと思うよ……」


「そういや、ウチの妹も今日俺の体操服着て学校来ようとしてたわ」



来年に不安が募る一方ではあるが、南雲はそんなムードを変える為に東堂の誕生日の話題を出した。



「まぁ、もう不審者たちの話は一旦置いといて……あーちゃん! 誕生日に何が欲しい?」


「おー、今回はサプライズじゃないんだね。みんなに任せるよ」


「そういうのが一番困るんだわ」


「えぇ……じゃ、じゃあ! 麗奈と……」



三度みたび、南雲の顔が曇る。



「おい、西宮。謝れ」


「なんでよ! 東堂さん。みんなであげられるものがいいわ」


「う、うーん……? そう言われても特に欲しいものはないんだけど……」



ピキーン、とここで南雲に天啓が降りた。



「いい事考えた!! じゃあ、3人分の1日デート券でどう!?」


「なるほど。それなら確かにみんな平等ね」


「……ちょっと待て。別に東堂も俺とはデートしたくないだろ」


「ま、まぁ麗奈とデート出来るなら北条のデート券も貰うよ」


「抱き合わせ販売みたいになってるじゃねぇか。別に使わなくてもいいんだぞ」


「それはダメ! 1ヶ月以内に全部使わないといけないルール!」



『お願いを聞くチケット』とかにしなかったのは南雲が東堂とデートする為だ。

そして、北条のチケットを使わないとなると自分のチケットも使わない可能性が出てくるので、それを先に阻止した。


かなり強引ではある。

もはや、東堂の誕生日に便乗してデートに行きたいだけである。



「あ! あと、一日一枚しか使えないルール!」


「追加ルール多いな……」


「勝手に色々決まっていくのだけど。別に構わないけど」


「要するにみんなと一緒……というか2人で遊ぶ権利を3回手に入れたって事だよね? じゃあ、誕生日プレゼントはそれにするよ」


「決まり! 中間テストが終わったら発行するね!」


「発行て。別に口約束でいいだろ……」



こうして東堂は西宮デート券1枚を手に入れる為に2枚のデート券を抱き合わせ商法で押し付けられた。



ちなみに、そんな押し売りが繰り広げられる中、裏ではクラスメイトが必死にリレーで走っていた。



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