第102話 このチームには必勝法がある


修行回が終わり体育祭当日――


本番では安心・安全を貫いた東堂・北条ペアは余裕の最下位だった。

ムカデ歩きのように大地をしっかり踏みしめて歩いたのが原因だろう。


とは言え1-Aは別に体育祭を捨てている訳では無い。

それは、ここからの種目『玉入れ』を見て貰えば分かるだろう。


1-Aでは不人気……と見せかけてただ単にクラスの半分近くが参加するので偶然に4人分の枠が開いていた種目である。

総勢12人という多めの参加人数には訳があり、『攻め』と『守り』という概念があった。


『攻め』と『受け』ではないのでそこは絶対に間違えてはならない。


通常より低めの位置(約3m)の籠から半径1m以上~半径2m以内が守り側の行動エリアで、守る側はラクロスのラケットを使って防衛を行う。

そこから半径4m以上離れたラインから攻め側は玉を投げ入れるというルールだ。


次に、対戦形式だが、

紅組 : 白組

1-A VS 1-B

1-C VS 1-D

1-E VS 1-F


であり、この場合、


1-Aの『攻め』の人員 VS 1-Bの『守り』の人員

1-Aの『守り』の人員 VS 1-Bの『攻め』の人員


となる。

4人の配置は『攻め』が東堂・西宮、『守り』が南雲・北条になっている。


そして、



――このチームには必勝法がある。



***


これは玉入れの予行練習をした際の話。


まずは『攻め』側の適正を図る為に各員10球ずつ玉を投げてみた。

結果、


東堂:10/10

北条:5/10

-----壁------

西宮:1/10

南雲:0/10



4mラインからの投球なので北条の5得点という結果はかなり高い方である。



「あなた……玉が絡むとホントに弱いわね。コツを教えるわよ」


「西宮さんだって1個は絶対まぐれじゃん! 一緒に防衛いこっか」


「いや、ちょっとその前に試してみたことがあるのだけど。南雲さん、あの玉が入った箱を持って来て」


「んー。……ほいさ、持ってきたよー」


「……東堂さん。この箱の玉をあの籠に外すまで投げてみなさい、出来れば速く」


「任せて!」



4mラインでとなりに箱を置いた東堂は両手で交互にテンポよく投げ始めた。


10/10

30/30

50/50

100/100



「玉無くなったよ! どうかな?」


「……これよ」


「流石あーちゃん! カッコいい!!」


「こいつマジなんでも出来るな」



百発百中とはまさにこのこと。

しかも異常に速い。両手で交互に投げる事により他の人間の3倍くらいの速度で投げていた。

サーカスでも見ているかのようにクラスメイトからは拍手喝采を浴びる。


これが西宮博士の考案した最強戦術『東堂システム』。


四方に設置してある箱から全員で東堂の元へと玉を運搬して投げさせるという狂気の発想である。

しかし、実際にやってみると6人で投げるより遥かに高い点数が出た。



「見栄え、わっる……会場激冷えだろ。これ」


「ほ、北条。その中心に居る人物の気持ちも考えてよ……」


「大丈夫! あーちゃんが投げるだけで熱狂だよ!」


「ありえるわね。そこにもう一輪の華である私を添えれば完璧ね」


「えー! じゃあワタシも攻め側に行きたい!」


「南雲さん、そして北条さん。実はあなたたちにも試してもらいたい作戦があるの」



西宮はまず南雲にゴール防衛用のラクロスのラケットを2本渡す。



「振り回せるかしら?」


「……まぁ、余裕だけど」



まさかの2刀流である。

他の人間が両手でそれなりに扱うものを南雲は片手で軽々と振っていた。

いくら球技が苦手でも、流石に扇風機のようにラケットを振り回す南雲が防衛している側に投げたがる相手は居ないだろう。


前門の虎は完成した。次は後門の狼だが、



「北条さん。こっち側でしゃがんで。そして、ラケットを肩に置きなさい」


「釘バット肩に担いでるヤンキーじゃねぇんだわ。俺をオチに使うな」


「まぁいいわ。最悪、立ってるだけで怖いから」


「は? おい、みんな。俺ってそんなに怖いか……?」


「……その質問が一番怖いわよ」



こうして、攻守最強の完璧な布陣が完成した――



***


このような経緯で1-Aは玉入れで圧勝した。


「いやぁー……あれはあんまり良くないね。あれ考えたの百合ひゃくあ先生? そんなに勝ちたいんだ?」


「い、いえ。私も見るのは初めてでして……」



その弊害として、他の教師陣から百合聡美は冷ややかな視線を送られる事となった。


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