第103話 故に必中、故に必殺


圧倒的な戦術によって玉入れを制した1-A。

あまりにも見栄えが悪すぎて逆にかなり盛り上がったらしい。


こうして、二人三脚の茶番劇をチャラにする事に成功した。


そして次の競技は西宮が参加する『しっぽ取り』。

練習時点でどうやら西宮は謎の技術を習得したという噂だ。


こちらのしっぽ取りも通常のものとは少しルールが違う。

お互いのしっぽを取るのではなく『取る側(6人)』と『逃げる側(6人)』に分かれ、3分間で取ったしっぽの数で競い合う。

コートは10m四方で『逃げる側』はコートから出たら即失格である。


そして西宮は当然、『取る側』を選んだ。


今回の対戦相手は1-D。

先攻の1-D側に1-Aの『逃げる側』はしっぽを3本取られた。

そして後攻の1-Aの『取る側』がコートに入る。



「頑張ってね、麗奈! 応援してるからね!」


「任せなさい」


「なんか変な策あるみたいだけど、ただのセクハラとか即退場は止めてくれよ」


「まぁ碌な技術じゃないのは確かだよねー」



3人から声を掛けられたが応援していたのは東堂だけだった。

試合開始のホイッスルが鳴ると、先に策を講じてきたのはまさかの1-Dだった。



「おい。後ろ走りはありなのか。あれだとケツについたしっぽ取れなくね」


「ラリアットで倒せばいいじゃん」


「暴力は即退場だよ……普通に挟み込めばいいんじゃないかな」


「でも、ウチは実質5人だからな……」



しかし1-Aは1-Dの策をまったく気にせず、試合開始10秒ほどで西宮を中心に対角線に並ぶ。

そして対角線は5人で維持し西宮だけゆったりと歩みを進める。

似非笑いの西宮が両手を軽く広げると謎の威圧感があり、周囲に不可侵領域のようなものが出来上がる。



「あ、あれはッ!? 必中必殺の構え!?」


「普通に両手広げて歩ているだけじゃない?」



対角線に閉じ込められた1-Dの3人は西宮を避ける。

すると必然的に三角形の中にいた3人の間隔は狭くなる。


そこから逃さないように1-Aの5人は対角線を崩し包囲した。



「これが麗奈の習得した力ッ!?」


「いやこれ、ただの追い込み漁じゃねぇか」



西宮が近づく度に包囲網は狭くなっていく。

もはや1-Dが逃れる為には西宮の領域を突破するしかない。


意を決して1人が西宮の領域を駆け抜けようとした瞬間――



――ガシィッ!!



乳房が思いっきり西宮の手に吸い込まれる。



「おい。退場させろ。モロ行きやがったぞ、アイツ」


「……いや? 北条、よく見て。麗奈は掴んではいない。今のは、んじゃないかな?」


「えぇ……どゆこと? 揉まれに行ったってことー?」


「次の攻防をよく見ていればきっと分かるよ」



羞恥に膝折る1-D生徒のしっぽを容赦なく取る1-A生徒。

鬼畜の所業に震える残りの2名であったが、彼女らも覚悟を決めて今度は同時に飛び出した。


右側の生徒のフェイントも意に介さず西宮は掬い上げるように手を上げ、

左側の生徒はその隙に潜り込むことに成功した。


……ように見えたが、西宮の手はズボンのウエスト部分に引っ掛かっていた。

左側の生徒は勢いそのままにズボンごと行かれた。


右側の生徒は胸を揉まれる前に止まったが、左側の惨状を見て足を竦ませている間に別の生徒にしっぽを取られた。



「……なんだあの無駄な技術。1-Dのやつモロパンでヘッスラしてたけど大丈夫か?」


「あーちゃん、これってさ。普通はそこに手置いたら胸触りそうだからやめとこ、って言うのガン無視してるだけじゃない? ズボンも絶対確信犯。さいてー」


「丸女であれが出来るのは麗奈か万里先生くらいだよね……」



普通はそこに手出さないでしょ?という所に西宮は躊躇なく手を出す。

故に必中。


手に突っ込んできたなら、手のひらで押し返すくらいは許される。

西宮ほどの熟練度ならそのワンタッチで十分。

故に必殺。


これが西宮が習得した領域『合法セクハラ』だった。


領域が完成した高揚感に自然と口角が上がる西宮。

振り向けば残った獲物たちと自然と目が合う。

震えあがった獲物たちはすぐさまコートの外に出てギブアップをした。



「……まぁ結局、ただのセクハラって事でいいか?」


「私たちの聖戦を汚さないで欲しいわ」


コートから帰ってきた西宮が北条に苦言を呈する。


「聖戦はパンモロしないでしょ」


「お疲れ様、麗奈! だ、大活躍だったね!」


「あーちゃん、無理あるって」



玉入れで熱狂した空気は一瞬で冷えた。

温度差で風邪を引きそうになるくらいには。



***


一方、教師陣。


「そ、その……ごめんなさい! これも知らなくて……! 西宮さんを注意してきます!」


「ひゃ、百合ひゃくあ先生、待ちなさい。彼女は……ほら、今回の件は偶然だしね?」


「え……でも…………まさかとは思いますけど。寄付金の関係ではないですよね?」


「…………違います」


「叱ってきますっ!」



光の教師百合聡美はまだ私立の闇に染まっては居なかった。



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