第101話 呪いのラブコメ女
南雲はもちろん事、あの西宮ですら順調に体育祭の参加種目の練習をする中、練習どころではない女たちが居た。
「あのさ、東堂……」
「ほ、北条……」
2人は体を密着させ顔を近づける。
お互いが熱い吐息を吐きながら見つめ合った。
「ふざけんのやめてもらっていい? はよどけ」
「ご、ごめん! あ、あれー? 僕らってこんなに息合わなかったっけ?」
二人三脚で転んだ東堂は北条を地面に押し倒し床ドン状態になっていた。
お互いに息を切らしいるものの両者トキメキ等は一切感じない。
さっきからこの調子で二人は息が中々息が合わず転んでばかりだった。
「でも、麗奈やゆーちゃんに比べて北条は安心するよ。この状況でも緊張せずに済むから」
「え、どゆこと? こいつなら押し倒してもいいやって事?」
「ち、違うよ! 転んでるのはわざとじゃないから!」
気を取り直して再びスタート位置につく。
「……わかった東堂。俺らに足りないのは声出しだ。『1』、『2』としっかりリズム取っていこう」
「そうだね。リズム大事にしていこう!」
「行くぞ! いっ――」
――ズサッ!!
リズムを取る段階まで辿り着かなかった。
スタートで転がり今度は北条が東堂に覆いかぶさる形になる。
東堂は北条を庇おうとして伸ばした手が体操服の中に入り込み、ガッツリと胸を鷲掴みにしていた。
「スタートで転んだとしてもそうはならんやろ」
「ごめん北条! でも北条だからセーフか……」
「シバくぞ」
周りからは黄色い声が上がるが、その向こう、具体的には南雲の居るあたりからは黒いオーラが立ち上っていた。
起き上がって北条が下着を直している間に東堂が提案をする。
「北条。とりあえず一回、お互いに頭を冷やそう。水でも飲んで休憩しようか」
「そうだな。このままだと俺はお前を殴りそうだからな」
「わ、わざとじゃないからね?」
水筒が置いてある手洗い場についた二人は並んで手を洗う。
「よくよく考えてみるとさ。俺とお前って結構ペアになる事あってもお互いで協力した事ってあんまないよな」
「テニス、バイト、選挙管理委員会……た、たしかに。ん……あれ?」
「自分たちが思ってたより俺らって相性悪いのかもな……」
北条がしみじみと語る中、東堂が蛇口ハンドルを必死回す。
中々水が出て来ないのを不審に思った東堂が蛇口の様子を見た瞬間、
――ブシューーーッ!!
蛇口の根本から水が噴き出した。
……北条へ向かって。
慌てて蛇口ハンドルを元に戻した。が、時すでに遅し。
ビチャビチャに濡れた北条が水を滴らせながら無言で手を洗う。
体操服も濡れて下着が透け透けになっている。
「あっ、東堂さん……そこの蛇口壊れてたから今張り紙用意してたんだけど……」
親切なクラスメイトが東堂に言い訳を与えてくれた。
「……だ、そうです。北条。今回は僕は悪くないよね!?」
「あぁ。安心しろ。お前のお陰でしっかり頭も冷えたわ」
その後、体育教師に事情を説明して2人はシャワー室へと向かった。
***
「……あのさ。なんでお前までついてきたの? そんなに濡れてねぇのに」
「せ、せめてお背中を流させて頂こうかと……」
「いや、シャワー室なんだからそんなシステムないんだわ。てかさ……今日の傾向からお前と密室なのは恐怖しか感じないんだけど」
「僕だって怖いよ! この呪われた力が……!」
「じゃあ入ってくんなよ! 絶対事故起こるって!」
授業の間ずっと東堂に振り回された北条は東堂が使うシャワーと間を空けた。
北条は東堂の動向に警戒しながらシャワーを浴びる。
「……南雲や、西宮にやってやれよ。アイツらなら寧ろ喜ぶだろ」
「わざとじゃないからね!? あ、あとあの二人の時は気を付けてるから!」
「あ”? 舐めてんのか? 俺の時も気を付けろ。てか、常に気を付けろ」
髪が短い為、先に身体を洗い終わった東堂がシャワー室を出ようとする際に北条は声を掛ける。
「お前マジでお祓い行けな?」
「そんな大袈裟な。今回は事故起きなかったでしょ? ……ん? ……大変だ北条。扉が開かない!」
「もうコイツ……ホントやだ……」
こうして、全裸で監禁される事となった二人。
すぐに東堂が引き起こしたラブコメ事件を察知した南雲によって救出された。
但し、このレスキュー隊員は全裸の東堂に対して執拗に人工呼吸と心臓マッサージの必要性を語ったらしい。
起きている人間に救命措置を図るというまったく新しい医療のスタイルがそこにはあった。
尚、この一連の事件から北条はしばらく東堂と二人きりの状況を避けた。
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