第100話 ねじ切れ!体育祭!


文化祭明けのロングホームルームLHR

教卓の前に立った西宮が挙げる今日の議題は、


「文化祭が終わったら何が始まると思う? 北条さん」


「いや、体育さ……」


「知らないようね。体育祭が始まるのよ」


「被せんなら聞くな」



丸女では文化祭の約2週間後に体育祭があるので9月、10月のスケジュールは過密だった。

そんな体育祭で一番重要なのは誰がどの種目に参加するのかだ。


体育祭で行われる種目は、

・100m走(4人)

・棒引き(12人)

・障害物競争(8人)

・しっぽ取り(12人)

・二人三脚リレー(8人)

・玉入れ(12人)

・リレー(4人)


あと、お茶濁しの教師対抗リレー。

各クラスの生徒は必ず2種目に参加しなければならず、逆に言えば運動自信ネキが3つ以上の種目に出る事も出来ない。

つまりそれは当然、西宮が補欠に入るという作戦が通用しないという事だ。



「今回は百合ひゃくあ先生の名誉が掛かっている訳じゃないから存分に足を引っ張らせてもらうわ」


「あ! じゃあ、はい! 僕、麗奈と二人三脚に出たい!」


「まさかの最速と最遅。西宮の足ねじ切れんぞ」


「はい、ダメー。ワタシが密着を許しま、せんっ!」



副委員長の南雲が勝手に二人三脚の欄に相合傘で自分と東堂の名前を書いた。



「じゃあ、お荷物同士、私は南雲さんと二人三脚に出るわ」


「ちっちっち。甘いよ西宮さん。ワタシが出来ないのは器用な球遊び……パワープレイならワタシの土俵だよ!」


「ゆーちゃん、球技を球遊びって呼ぶのは止めなよ……でも、ゆーちゃんは本当にフィジカルモンスターだからね」


「ん? じゃあ結局、西宮の足はねじ切れるってこと?」



とりあえず、四人以外はおとなしい1-Aのクラスメイトから種目の選択を行い、余ったものに4人は入ることにした。


結果――


東堂:玉入れ、二人三脚

西宮:玉入れ、しっぽ取り

南雲:玉入れ、棒引き

北条:玉入れ、二人三脚



「玉入れさん……どうして……。てか、二人三脚って、え、俺の足がねじ切れるってこと?」


「ねじ切らないよ! ほら、テニスでもダブルス一緒にやったしね」


「ほぼお前のシングルスだったけどな」



余った4人が二人三脚をどの組み合わせでやるか揉めた結果、匿名投票を行ってクラスで最も人気のあるカップリングで組むことになった。

ダントツで東堂と北条の組み合わせが多かったのだが、『僕×俺』なのか『俺×僕』なのかで争いの火種が燻っている。


二位は西宮と南雲の組み合わせで、南雲は嫌そうな顔をしていた。



「ちなみに、しっぽ取りというのはどこまでが許されている種目なのかしら?」


「しっぽ取るとこまでだよ。それ以上やったら腹パンね」


「何故だかは分からないけど、この種目で私が躍動する未来が見えたわ」



西宮は体の内側から力が湧いてくるのを感じた。


尚、人はその力を性欲と呼ぶ。



「ゆーちゃんは……まさに天職って感じの種目だね!」


「ケガしないようにな。相手が」


「大丈夫だよ! ワタシの前に立ったら死ぬ覚悟は出来てるって事だから!」


「どう考えても私よりあなたの方が危険な気がするわ」



東堂は天職と言ったが、明らかに南雲は対人種目に参加させてはいけない類の人間だった。



***


クラス全員の参加種目が決まり、西宮は百合ひゃくあに総括を頼んだ。



「結果はともかく、今回もみんながケガなく一生懸命にやってくれれば嬉しいです。あと……問題を起こさなければ尚、嬉しいです」



最後の一言には万感の思いが込められていた。

何も言わずにうんうん、とゆっくり頷く西宮に無性に腹が立つクラス一同。



「あ……! あともう一つ」


連絡事項を思い出した百合が付け加えて言う。


「この前測ってみたけど、私の50mのタイムは13秒くらいでした」


どのくらいの速度なのか分からないクラスメイトは最遅代表の西宮に視線を集める。


「私より少し速いくらいかしら」



1-Aはこの時点で教師対抗リレーの望みは捨てた。

……ちなみに50m13秒とはの体力測定で最低点を取るラインである。



もちろん、彼女たちは小学生ではない。



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