第98話 ママのイチ推し
ドタバタ文化祭に続き、ドタバタお泊り会も遂に終わりを迎える。
3人は現在、自宅へと帰る準備をしていた。
「いやー、色々あったけど。なんだかんだで面白かったね!」
「うーん? ワタシはお風呂しか印象に残ってないけど」
「そりゃ、南雲は1泊で3回風呂に入ってるからな……」
「またいつでも来なさい。今度は五味渕を監禁しておくわ」
正直言ったところ、終始五味渕がやらかしていただけのお泊り会であった。
「……南雲様。最後に一つ宜しいでしょうか? 出来ればこちらへ」
そして、その主犯の五味渕が何故か南雲を呼んだ。
小声で耳打ちをするかと思い近づいたが、南雲はそのまま別室へと案内された。
案内された部屋は薄暗く、五味渕とこの密室に居るのは恐怖でしかない。
「あちらの壁をご覧ください」
「……?」
南雲が視線を向けると壁かと思っていたものは大型モニターだった。
そこにスーツ姿の妙齢の女性が映し出される。
状況と雰囲気から南雲はその女性が西宮の母親であることを察した。
「初めまして。南雲優さん。私は麗奈の母親の理恵です。よろしくね」
「……よろしくお願いします」
しかし、何故自分だけ呼ばれたのかは分からなかった。
***
南雲から見た印象では理恵はそこまで西宮に似てなかった。特に胸。
大きさは普通と言った感じ。
髪型も西宮の場合はストレートしか見た事がないが、理恵は所謂『夜会巻き』。
しかし、一番の差異は……
(あ、圧が……
理恵はフランクに話しているつもりだが、一般的な学生に世界レベルの社長の相手は務まらない。
「どうか気楽によろしくね。理恵さんって呼んで頂戴」
「……はい。理恵さん」
「ふふっ。まぁ、じきに慣れると思うわ」
(あ、笑顔は西宮さんと似てるかも……)
数少ない西宮の笑顔を見た事がある南雲は初めて共通点を見つけた。
「さて、南雲さんも気まずいだろうからもう本題に入るわね」
「は、はい……あ! 気まずいワケでは!」
理恵は愛娘の正妻ダービーについて説明をした。
当然、南雲は頭に大量の『?』を浮かべる。
「……それってワタシも含まれてるんですか?」
「もちろん。そして、あなたが優勝よ。だから呼んだの。おめでとう、南雲さん」
「は、はぁ。あんまり嬉しくないです。好きな人居るので……」
「ふふっ。これは麗奈も苦労しそうね」
「あの……一つ聞きたい事があるんですけど」
「いいわよ。どうぞ?」
疑問自体はいくつでもあるのだが、取り敢えず南雲が聞きたいのは一つ。
「最後の利尿剤のヤツって理恵さんの指示なんですか」
「……そうだ、と言ったら?」
「最低ですね。そう、言います」
南雲はモニター越しの理恵の目を見て言い切った。
理恵は机に肘を置いて目頭を押さえる。
「くくっ……南雲さん。私……あなたの事気に入ったわ。本当に麗奈と付き合わない?」
「あ、あの!? 話聞いてました? あと、はぐらかさないで下さい」
「そうね。具体的な指示はしてないわ。だから私のせいね」
「……? どういう……」
「私は五味渕に、好きにやりなさいと言ったの。その責任は私にある。つまり、私は『最低』な母親ね……」
その返答を聞いて南雲はなんとも言えなくなる。
この件に関しては、五味渕の暴走と言ってもいいのに理恵はそれを良しとしない。
だからこそ最低が当てはまるのは自分だと言い張る。
五味渕は何も言わずに頭を下げていた。
「ごめんね。あなたには本当に迷惑を掛けたわ。麗奈にも後で謝っておくから」
「その……西宮さんホントに泣いてたんで、反省して下さいね?」
「えぇ。あなたの麗奈を悲しませた事を本当に反省しているわ」
「もう……ホントにそいうとこ。親子そっくりですね……」
……だからこそ、南雲は理恵の事を嫌いにはなれなかった。
***
五味渕と共に寝室に帰って来た南雲を3人が迎える。
「五味渕と何を話したの?」
「……面と向かって最低ですね、って言ってやったよ」
「まぁ、最低だしな」
「大変だったもんね……ゆーちゃんも麗奈も帰ったらゆっくり寝てね」
こうして、長い長い約24時間がようやく終わった。
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