第97話 よく出てくる猫の話
ひとしきり会話のドッヂボールを繰り広げた南雲と北条。
北条が質問の意図を理解する前に南雲は投球フォームに入った。
「茉希ちゃん……正直に言うね。出来ればワタシの事嫌わないで欲しいんだけど……」
「……嫌わねぇよ。約束する」
「実はワタシ……おねしょしちゃったの!!」
「えぇ…………?」
「き、奇遇ね! 私もよ!」
突然、ガバッと起き上がった西宮。
朝起きて一番最初の言葉が元気の良いおもらし宣言だった。
「…………おい」
不審に感じた北条は隣に居る東堂を揺する。
しかし、朝よわよわの東堂は中々起きない。
「う、うー……まだねむ……」
「おい。東堂、布団捲って股開け」
「え………ええっ!? ちょっ、北条! やめっ!」
北条の衝撃発言に東堂は掛け布団を抱いて後ずさりをした。
しかし、同時に股に違和感を感じた東堂が自発的に布団を捲る。
「え……、ぼ、僕。おもらししてる!?」
「わ、わー。みんなでおもらししちゃったね。えへへ」
「いや。そうはならんやろ」
***
「…………で。これは誰の仕業だ?」
「ぜ、全員おもらししっちゃた説は……?」
「ゆーちゃんそれは流石に……今すぐ全員病院に行った方が良いよ……」
「じゃあこの股間の染みはどう説明するのかしら?」
当然、これがおもらしとして処理される訳がなく原因追及が始まる。
「まぁ十中八九、水だろ」
「うーん、怖いけど。匂いを嗅いでみれば分かるかな」
東堂が自身のベッドの染みに顔を近づけようとする。
「や、やめなさいっ!!」 「ダメーーーッ!!」
「え……」
「あーちゃん。今、その染みはまだおしっこじゃないかもしれない。けど、もし匂いを嗅いでしまったらおしっこになっちゃうかもしれないんだよっ!?」
「……量子力学の話してる?」
「そ、それでもし本当におもらしだったどうするつもりなの!?」
「……それは素直に謝って病院に行くよ」
今、東堂がいるベッドではその染みがおしっこである可能性とそうでない可能性の両方が存在していた。
「……大体さ。俺らの年で、しかもお泊り会ではありえねぇだろ」
南雲の影で西宮は痙攣を起こしている。
「まぁいいや、どうせ水だろ? 俺が人柱になってやるよ」
南雲は北条の方なら大丈夫と、胸をなでおろす。
――が、北条は東堂のベッドの染みに顔を近づけた。
「……おい、東堂。お前……病院に行った方が良いぞ」
「えぇ!? そんなまさか!?」
北条は優しく東堂の肩に手を置く。
東堂は自分のベッドの染みに顔を近づけ衝撃を受ける。
南雲はその様子を遠い目で見つめていた。
そして、西宮は安らかに目を閉じた。
「ほ、北条の方も嗅いでみていい!?」
「あぁ、いいぞ」
「(スンスン)…………ほ、北条のおしっこってもしかして無臭?」
「現実見ろ。あぁ……なるほど。点と点が繋がったわ」
北条は自らの推理を披露する。
「ずっと南雲が誤魔化そうとしてるのが謎だったんだけど。多分、南雲が東堂のベッドに潜り込んで気付いたんだろ。それで東堂の染みを隠す為に細工した。そうだろ?」
「ちがっ…………」
東堂と北条に見えない位置で西宮が南雲の手をキュっと握った。
ここで南雲が西宮の味方をしたら東堂は犠牲になるだろう。
それでも力なく震える手が南雲の心を揺らす。
「………………ッ!!」
「ゆーちゃん……ありがとう。僕を庇ってくれて。でもいいんだ……」
必死に言葉を探そうとする南雲を見て東堂は勘違いをした。
「麗奈ごめん……僕は所詮、しがないおもらしあかりんだよ……」
「ごめん、説明よろ」
「茉希ちゃん……! 真面目な話の最中だよ!」
「東堂さん…………東堂さん、実は――」
「お嬢様。私から話をしても宜しいでしょうか」
重たい空気の中、元凶は名乗りを上げた。
***
「つ、つまり? すべての元凶は五味渕が私の飲み物に強力な利尿剤を入れたのが原因ってことかしら?」
「左様でございます」
五味渕は理恵の事は伏せて事の顛末を明かした。
「た、たしかに。言われてみれば僕と北条の位置が変わってる……!!」
「え、じゃあ南雲はどういう……」
「偶然起きちゃったんだよー。それで巻き込まれただけ」
五味渕は最敬礼で頭を下げ謝意を示す。
しかし、流石の西宮さんも今回の一件にはおこである。
「五味渕。今回は度が過ぎているけど、どう責任を取るつもりかしら?」
「はい。私は今回の件の責任を負って――」
4人は五味渕の執事として最後の仕事を見届ける為に謝罪の言葉を待った。
「私もおねしょをします!!」
「「「「 いや、そうはならんやろ 」」」」
その後、五味渕にはちゃんとした謝罪をしてもらった為、執事を続投を許す事に決まった。
***
4人で朝風呂に入っている最中に北条は東堂に耳打ちする。
「ズボン。洗えよ?」
「洗うよ! 流石に!」
こうしてまた一つ東堂のコレクションが増えた。
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