第96話 IQ.3の作戦 side 南雲優


「いい? 西宮さん。ワタシたちに残された時間はもう無いの。隠し通すならもうこの作戦を実行するしかない」


「で、でもこの作戦だいぶ頭わる……」


「これ以上考えてたら2人が起きちゃうよ!」


「そ、そうね……覚悟を決めたわ。やりましょう」



悲壮な覚悟と共にワタシたちは温水の入った霧吹きを握りしめる。


ワタシたちが立案した緊急作戦、その名も――


『おもらし四重奏カルテット


現在就寝中の2人の股にも霧吹きで大量の水を吹きかけおもらしを演出する。

その後、ワタシたち2人の股にも水をこぼして起床後、


『わー、みんなでおもらししちゃったね。えへへ』 


と、なる算段だ。

木を隠すなら森の中。

小水を隠すなら洪水の中である。


作戦に欠陥がある気がしないでもないが、ほぼ寝てないのだからしょうがない。

やっぱり睡眠は大事。



茉希ちゃんをそーっと運んで配置変更をした結果、

西宮さん⇒ワタシ⇒茉希ちゃん⇒あーちゃん の配置になった。


あーちゃんに手を掛ける事が出来ないワタシは茉希ちゃんの足元に立つ。

それに倣って西宮さんもあーちゃんの足元に立った。


ゆっくりと掛け布団を捲って震える銃口を茉希ちゃんへと向ける。

引き金に指を掛け、最後にお詫びの言葉を紡いだ。



「茉希ちゃん……ワタシもすぐに逝くから……! 御免ッ!」


ショワーーー!! ショワーーー!!



シュールな音と共に茉希ちゃんの寝巻に温水が染みわたっていく。

真剣な表情で茉希ちゃんの股間と向き合ったワタシは最後にシーツにも少し吹き掛けて、掛け布団を元に戻した。


額の汗を拭って隣を伺うと、西宮さんも無事に作戦を遂行していた。


そして、ワタシたちは自分のベッドに戻ってお互いの股間に銃口を向ける。



「西宮さん……これでみんな一緒だね」


「そうね。次に目覚めた時もみんなと笑顔で話せるかしら」


「「…………」」



「おやすみ」 「おやすみなさい」



ワタシたちは引き金を引いた。



ショワーーー!! ショワーーー!!



***


と、言ったものの約10年ぶりに股がビチャビチャの状態で寝られるワケがなかった。

五味渕さんに霧吹きを渡した時に確認した時間は6時前だったのでそろそろ茉希ちゃんが起きてもおかしくないだろう。


お泊りした時に茉希ちゃんが朝に強い事は知っている。

対して、あーちゃんは昔から朝に弱いから…………


……あれ? これ茉希ちゃんだけ起きたらその後どうするの!?


深夜のテンションで考えた作戦は冷静に考えたらヤバい気がしてきた。

と、取り敢えず茉希ちゃんが起きたら少し時間差でワタシも起きよう!



数分後――



「ん……」


お、起きた!

茉希ちゃんに背を向けているワタシは西宮さんがビクッ!と動いたのを目撃した。

おっけー。これなら西宮さんも起床のタイミングを合わせられそう。


「……ぇ? これ……嘘だよな……」


茉希ちゃんが掛け布団を動かす音と共にひとときの静寂が訪れる。


――今だッ!!


「ん、んーーーっ! おはよ、茉希ちゃん」


「……ッ!! お、おはよう。なな、な南雲」



「「…………」」



で。

こっからどうするの!?!?



「茉希ちゃん、ど、どう最近の調子は?」


「えっ……ま、まぁ……ぼちぼち……かな」



アホか、ワタシは!!

でも、どうやっておねしょの件を切り出そう……

まずはおねしょの事を連想させよう!



「な、なんか今日は(股間が)ジメジメしてない?」


「そ、そうかな?」


「雨降るのかなー。(ベッドが)濡れるのは嫌だよね……」


「だな……」



だ、ダメみたい……

かくなる上は、もうワタシからおねしょを白状する流れしかない!



「茉希ちゃ……」


「南雲っ! えっ、あっ……その、大事な話なんだ……俺からいいか?」


「あ、うん。 どうぞ、どうぞ……」



万策尽きかけたタイミングでの茉希ちゃんのこの表情。

起死回生のチャンスかもしれない。



「すげー言いづらいんだけどさ……」


「うんうん」


「南雲ってさ…………おねしょについてどう思う?」


「うん…………うん?」



そ、そう来たかー!!


てっきり茉希ちゃんがカミングアウトするのかと……


これじゃワタシが白状しても、

『じゃーん! これがおねしょでーす!』としかならない。


と、言うか茉希ちゃんも茉希ちゃんだよっ!

どう思う?って別に感想なんて無いよ!



「誰しも経験する事だし恥ずかしい事じゃないと思うよ? ……茉希ちゃんはいつまでおねしょしてた?」


「……だいぶ昔」



いや、今でしょ。


だ、ダメだコレ。茉希ちゃんは隠すタイプだ!

結局ワタシから白状しなきゃ……



「ま、茉希ちゃん! ワタシも……話いいかな?」


「あぁ……」




「…………おねしょする女についてどう思う?」




ワタシはこの時、茉希ちゃんの気持ちを完全に理解した。



――この問いは白状する前に行う神聖な儀式であるという事を。



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