第95話 【悲報】おもらし
先に言っておこう。
今回、五味渕はとんでもない事件を起こした。
それは、深夜のこと。
五味渕に就寝前の飲み物に利尿剤を盛られていた為、起きてしまった西宮。
ここまでは五味渕の計算通りだった。
さぁ、ここからは昼間のお化け屋敷のトラウマから一体誰をトイレへと誘うのか?
――そうなるはずだった。
西宮は自身の股のあたりに違和感を感じて掛け布団を捲った瞬間、血の気が引いた。
お ね しょ で あ る。
疲れもあったのか利尿剤の効果が発揮した後に起きる事が出来なかった西宮はおねしょをしてしまった。
この年になって、しかもお泊り会というタイミングである。
現実を受け入れられず硬直していたのだが、ここで更なる悲劇が彼女を襲う。
「う、うみゅー……んー? 西宮さん、どしたの?」
隣で寝ていた南雲は物音に反応して起きてしまったのだ。
南雲が自分自身の股を凝視している西宮に声を掛けた、その時。
「……ひぅっ! ちっ、違うの……グスッ……南雲さっ……ううっ!」
「(小声)えぇ!? ど、どしたの西宮さん! 体調悪いの!?」
突然泣き始める西宮に困惑する南雲。
西宮は電気を点けようとする南雲の手を止めて、スマホの明かりで自身の股のあたりの惨状を見せる。
「あわー、こりゃ大惨事だー……と、とりあえず。着替え持ってお風呂行こっか? ワタシも付き添うから!」
「……うん」
ガチ泣きしてすっかり凹んでいる西宮はしおらしい反応で南雲と浴場へ向かった。
***
どうせ気づいているであろう五味渕には白状して、濡れたズボンと下着を洗濯に出してもらった。
西宮が下着を渡す際、五味渕は珍しく動揺している様子だった。
しかし、そんな彼女の異変に気付けるわけもなく2人は浴場へと足を運んだ。
西宮は髪を洗った後、身体を洗う際に自身の股を見て再び悲しみが湧いてくる。
「違うのよ南雲さん……ひっく……本当にいつもは違うの……」
「あー! もう分かってる、分かってるから……泣くのはやめよ?」
「絶対嘘よ……どうせ私の事、尿道ガバガバおもらし女だと思っているのでしょう……?」
「思ってないよ!? よくそんなワード出てくるね!?」
奇しくも『真理パ』の際にも自身のおねしょ写真を暴露された西宮にとって今回の一件はあまりにもタイムリー過ぎた。
西宮は南雲にはおもらしお嬢様と思われても仕方無いと卑屈になっている。
「今日は色々あったもんね……西宮さんも疲れてたんだよね?」
「そうよ……おもらしなんて10年ぶりよ……」
念入りに股を洗った西宮は南雲と一緒に湯船につかる。
「どう? 少しは落ち着いた?」
「ええ……南雲さん。ありがとう……」
「じゃ、じゃあ……辛いとは思うけど、ここからは隠蔽の話をしよっか」
流石にこれ以上おねしょがバレるのはマズい。
そこでこのベッドの染みを隠さないとならない訳なのだが、当然マットレスごと変えるのは無理があるだろう。
東堂と北条が起きてしまう。
かと言って、今現在濡れている所にそのまま寝るのはあり得ない。
なので今日のところは濡れた部分に敷物をして隠し通すしかないだろう。
話がまとまり風呂から出ようとした南雲を西宮が呼び止める。
「約束して欲しいの……これは2人だけの秘密で、絶対に2人には言わない事を……」
「いいよ。指切りでもしよっか?」
「うん……」
南雲は利き手の左小指を西宮の右小指と絡める。
「指切りげんまんー嘘ついたらは……」
「結婚して責任とーーーる、指きった」
「……責任重すぎない?」
目撃者に過ぎない南雲は一生重たい十字架を背負うことになった。
解放されるには西宮と結婚するしかない。
とりあえず、それだけは絶対に嫌なので秘密を守る事を誓う。
2人は風呂から上がって身体と髪を乾かす間に隠し通す決心を固める。
五味渕から吸水性のある敷物を貰った西宮は南雲と手を繋いで寝室に戻った。
――しかし、ここで更なる悲劇が西宮を襲う。
扉を開けると、何故か東堂が西宮のベッドでぐっすり眠っている。
西宮は胸に抱えていた敷物はポトリと落ちた。
***
説明しよう。
この東堂明里という女、天然ラブコメ体質を保持している為、非常に寝相が悪い。
部屋を出る前のベッドの位置を表すなら、
東堂⇒北条⇒南雲⇒西宮 となっていたはずが、
空き⇒北条⇒空き⇒東堂 となっていた。
どう移動したらそうなるのかは謎だが、東堂の進行ルート上にいた北条の服はかなりはだけていた。
しかし、北条も北条で疲れているのかぐっすり寝ている。
本来はいま西宮の足元に転がっている敷物で吸水する算段だったのだが、その役目は現在進行形で東堂の股ぐらで行われていた。
「(小声)と、とりあえず。あーちゃんには事実を話そうよ!」
「(小声)だ、ダメよ! 約束したじゃない! それとも私と結婚するの!?」
東堂が再び大移動をする事に望みを託したが、彼女は西宮の枕を抱いてそこに住み着いてしまった。
結局、打開策を考えている間も東堂は動かず、2人は最終手段を取ることにした。
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