第93話 吐き気を催す現実
半ば五味渕の強制で始まった『真理子パーティー』。
特にすることも無かったので企画としては4人とも賛成だったが、得体の知れないペナルティがある事だけは納得がいかなかった。
ゲーム内の抽選にてサイコロを振る順番は、
南雲⇒東堂⇒西宮⇒北条となり、奇しくも現在のベッドの配置と同じ順番となった。
開幕のムーンの位置はスタートから20マスくらいの位置になった。
早速、南雲がサイコロを振るのだが、
「まず、マップを見てー。1、2、3……。この5マス目に止まりたいので……ほい!」
南雲は宣言通り『5』を出した。
「えぇ、すげぇ!? そんな事出来んの!?」
――目押しである。
目押しとは、
回転しているルーレットやサイコロの回転パターンやリズムを把握してタイミングよくボタンを押すことで任意の数字を出すテクニックである。
ちなみに、この真理パに関しては目押しがかなり難しい部類だった。
この技術を持つ南雲はすなわち、任意のマスに止まれるという事である。
「流石にこれはゆーちゃんの独走かな?」
「そうとも限らないんじゃないかしら」
含みのある言い方をする西宮。
彼女もこのゲームを一人で何回か遊んだことがあったので、このゲームの運用素の強さに理解があった。
と、言うか本来はその運用素でわいわい盛り上がるゲームである。
南雲が止まったのはハイリスクハイリターンのマスで、今回は10マス戻るという内容だった。
「うわー! いきなりマイナスだよっ」
「なるほど。ああいうマスもあるんだ。逆に10マス進むこともあるって事?」
「あるわ。だから普通はピンチになってから踏んだりするマスなんだけど……まぁ人間性が出るわよね」
一般的なプレイヤーの場合、ルートの分岐の際に止まるマスを選ぶ事がある。
その時にリスクを取るか安全を取るかでそれぞれの人間性が出てくる。
南雲の場合は開幕から博打の傾奇者だった。
「へー。じゃあ僕も目押しやってみようかな。とりあえずムーンも欲しいから『6』を……ふっ!」
東堂も宣言通り『6』を出した。
「マジかよ……異能バトルに俺ら一般人入り込んじまってるけど……」
東堂はコインが貰えるだけの安定のマスに止まる。
特にイベントも無いので早々にターンが終わり西宮のターンとなる。
「北条さん。申し訳ないけど、その『俺ら』に私は含まれないわ。私も『6』で行くわ……ここね」
なんと経験者西宮も2人に続き出目コントロールのイカサマ使いだった。
「……西宮さん。『1』って書いてあるけど。だいじょぶそ?」
「まぁ一般人は大地をしっかりと踏みしめてもろて。次、俺の番な」
西宮も東堂と同様の安定マスに止まり、一応コインは貰ったが尊厳は失っていた。
北条は西宮のような恥をかかないように出来ない事は最初からやらず適当にサイコロを振る。
『4』マス進んだ北条が止まったマスは損失マスだった。
単純にコインを失うだけのマスである。
「ぐあー! ツいてねー……ん? なんか足元からブロック出てきたぞ」
「え!? 茉希ちゃん、それレアイベントだよ!」
本来イベントの無いマスでも北条のように極稀に突発イベントが発生する場合がある。
今回はなんとムーンが直に手に入るという激レアイベントだった。
「はい。という事で、これが基本的なゲームの流れよ。では一度リセットしてここから本番に……」
「おい、ふざけんな」
今のは練習でした、みたいな空気でちゃっかりやり直そうとする西宮。
当然そのままゲーム続行である。
コインこそ失ったもののムーンを手に入れた為、北条の順位は暫定一位となった。
そしてムーンを手に入れたという事は……
「お待ちかねのわくわく景品抽選でございます」
「お、おぅ。1ターン目だし言うほど待ってねぇけどな」
激ヤバ個人情報を紙切れのように扱いデッキシャッフルする五味渕。
デッキを机の上で扇状に広げ好きなものを1枚取るように促す。
一体何が出てくるのか、恐る恐る捲った北条はまずは一人で確認する。
「???」
「何か北条の反応が微妙だけど?」
「いやぁ? よくわからん写真だったから公開するわ」
北条が公開した写真。
それは五味渕がハッキングして入手した監視カメラの映像のスクショ。
その中で十河と
「十河さんと……もう一人は誰かしら? 確かに良く分からないわね」
それを見た南雲は真っ先に焼き肉オフ会の事を思い出して状況把握をする。
自分が写っていない
↓
焼き肉は焼かれているので食事の最中
↓
これは途中、自分が離席している間の出来事
↓
十河は両手にコップ、セーラは両手にタレ皿を持っている
↓
お手洗いから帰ってきた後の2人の反応
その時、南雲に電流が走った。
厄介ファン2名の盛大なやらかしに吐き気を感じて口を押える。
「ど、どうした南雲!? 大丈夫か!?」
「も、もしかして箸も……う、うぇぇ、気持ち悪すぎるよぉ……」
「ちょ、五味渕! 流石にこれはやりすぎよ!」
「い、いや今回に関して無罪かも……むしろ知る事が出来てよかったよ……」
「大丈夫、ゆーちゃん? もうゲームやめる?」
青い顔でやつれた表情の南雲が力なく首を振る。
南雲を労わる五味渕が一礼をした後、水の入ったペットボトルを優しく渡す。
ちなみに元凶はコイツである。
「ううん……続けるよ。ワタシはさっきのあーちゃんの写真を手に入れるんだ……」
水を飲んで再び画面を見つめる南雲。
震える手でコントローラーを握りなおした彼女を見て東堂の手もまた震える。
一体最初に南雲が見た自身の写真はどんな写真だったんだろうか。
他の3人も五味渕がシャッフルするデッキを見てごくり、と唾を飲み込んだ。
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