第92話 忍者の手は滑りがち
風呂から上がって身支度を済ませた4人は西宮の部屋に戻った。
「えぇ……なんでベッドそう並べたんだよ……」
麻雀牌を並べるが如く、横一列にびっちりと隙間なくベッドが4連結されていた。
Produced by 五味渕である。
「てか、西宮さんもこっちのベッドで寝るんだ。あっちに天蓋付きベッドあるのに」
「せっかくだし皆で一緒に寝たいよね!」
「粋な計らいね。組んず解れつしましょうか」
まだ寝るには早いのだが、それぞれがなんとなくベッドのポジショニングをしようとする。
両側で事故を起こしたい西宮は真ん中へ、
もらい事故を起こしたい東堂は西宮の隣へ、
衝突事故を起こしたい南雲は東堂の隣へ、
南雲とだけは事故を起こしたくない北条は余った西宮の隣へ。
配置は左から『北条⇒西宮⇒東堂⇒南雲』の順番になった。
「なんか意外にすんなり決まったな。もっと荒れるかと思ったわ」
「皆様、配置にお困りのようですね」
例によって何の前触れもなく現れた忍者、五味渕。
「……いや五味渕さん。北条の話聞いてましたか? 僕らは意外とすんなり……」
「そこで今回私がご用意したのがこちら」
「この人、人の話聞く気ないよ!」
五味渕とは違いちゃんとノックした後に入って来たメイドたちはテレビ台に乗ったクソデカモニターを搬入する。
4人にゲームのコントローラーが配られ、モニターの電源を点けると『真理子パーティー』と表示されていた。
「皆様にはこの『
「提案が可決されてからコントローラーを配りなさい」
提案(強制)をしようする五味渕に対して4人は冷ややかな視線を送る。
「今回は皆様にご満足頂けるようなペナルティを用意したつもりですが……おっと」
「ペナルティに満足って……ん?」
何やらわざとらしく五味渕が落とした写真が北条のベッドの横に落ちる。
それを見た北条の顔が青ざめる。
――文化祭で北条が西宮を抱きしめている写真だった。
五味渕は事も無げに写真を拾い上げた。
「お、俺はやってもいいかなって気がしてきた」
「何があったの北条!?」
「何もありません、東堂様。北条様はただパーティーに参加したくなっただけです……おっと」
「茉希ちゃん大丈夫!? 弱みを握られ、て……」
またもや五味渕はわざとらしく南雲のベッドの横に写真を落とす。
それを見た南雲の顔に影が落ちる。
――西宮の下着を洗濯する東堂の写真だった。
五味渕はまたも事も無げに写真を拾い上げた。
「ワタシも参加しようかな。今の写真を貰えるんだよね?」
「ゆーちゃんまで!? 一体何が……」
「東堂様、お嬢様。如何なさいますか? 現在、私の手はローションまみれで滑りがちなので早めに決めて頂きたいのですが……」
「手を洗ってきなさい。そんな脅し文句は聞いた事がないわ。まぁいいわ、おもしろそうだから私は参加するわよ」
「み、みんなが参加するならじゃあ僕も……」
「満場一致で参加とは……この執事五味渕、恐悦至極でございます」
熱い涙を流すそぶりを見せる五味渕を見た参加者は完全に冷えていた。
真理パというゲームのルールはシンプルに言えばすごろくである。
サイコロを回して止まったマスに応じて様々なイベントが発生し、ミニゲームや選択肢によってコインがゲット出来る。
その後、ランダムな位置に出てくるムーン引換所にて一定コインを支払ってムーンの引き換えを行う。
誰かが引き換えを行う度にムーン引換所の位置はランダムに変わる。
そしてこれを一定ターン数繰り返した後、最終順位をムーンの所持数で決める。
ムーン所持数が同一だった場合はコインの所持数が多かった方が順位が高くなる。
そしてここからが五味渕ルール。
・最終順位順に左からベッドの配置が決まる。
例)一位⇒二位⇒三位⇒四位
・ムーンを取得する度に五味渕が用意した豪華景品デッキから写真を一枚ドロー出来る。ドロー前に、ドローする人物に不利益が生じる写真はデッキから除外してシャッフルされる。
・写真の公表は自由。
「憎たらしいぐらいに用意周到だな……」
「そうだね……ルール自体は単純だからよかったよ」
「フッフッフ……ゲームと名の付くものでワタシは負けないよ!」
「でも南雲さん。これ順位調整しないとあなた、東堂さんと離れる事になるわよ」
「その通り。順位と景品を天秤に掛けながらゲームをお楽しみ下さい」
すし職人のように両手を広げた五味渕がゲームの開始を告げる。
もちろんこれは理恵に中継されていた。
今回はしっかりと音声付きで。
***
「流石は五味渕。これで正妻ダービーが捗るわね」
「(ノック音)しゃ、社長、そろそろ本日の予定を……」
「まったく仕方ない。予定表を見せなさい」
社長室に入って来た秘書がタブレットから本日の予定表を送信して打ち合わせを開始する。
「……ふむ。なるほど。今日の会議は全部キャンセルね」
「ぜ、全部ですか!? その……19時からのA社とのお食事は……」
「最悪、キャンセルよ」
「そ、それほどの案件を……かしこまりました。出来るだけ直前まで対応出来るように連絡しておきます」
生唾を飲む秘書が部屋を出る前に見た理恵は顔の前で指を組んで真剣な眼差しでモニターを見つめていた。
凛々しい姿の理恵に尊敬の念を送る秘書は知らない。
彼女はただ娘の真理パの配信を見ているだけという事を。
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