第91話 リスクマネジメント


臨死体験をした北条と南雲は最終問題に入る前に五味渕を制止する。


「ちょ、ちょっと待った! 次の問題にもペナルティはあるのか?」


「ええ。好評につきその予定です」


「余裕の低評価だよっ! せめてペナルティは選ばせて!」


「往生際が悪いわね。素直に心臓を捧げなさい」


「なんかみんな大袈裟じゃない……?」



こうして、最終問題に入る前にまず最終問題の選定から始まった。

五味渕が提示した問題は3つ。


①次の4つの内、お嬢様のフェチはどれでしょう

②次の4つの内、お嬢様の思春期の恥ずかしいエピソードと言えばどれでしょう

③お嬢様のカップサイズは何カップでしょう


いずれも外した場合のペナルティは問題と同じ自身の情報が公表されるというもの。



「分かったわ。じゃあ①にしましょう。私の情報を公開するわ。断腸の思いでね」


「絶対イヤ! 西宮さんにだけは知られたくない!」


「なんでお前が決めようとしてんだよ。てかどうやって調べてんだよ!」


「企業秘密です」


「というかこれ……麗奈は正解・不正解に関わらず情報公開されるんだね……」



①は反対2票で即却下。ついに東堂はこのクイズの闇に気づいてしまった。



「②の恥ずかしいエピソードってなんだろう? あんまり思い当たらないけど」


「例えば東堂さんで言えばスカートを履かない理由とかですかね」


「え……もしかしてスカート履いてる自分を鏡で見て悶えた話とかかな……?」


「クソどうでもいいわ」


「いいよね! あーちゃんはリスク少なくて!」


「やめなさい。真っ当な生き方をしてきた人間を責めるのはやめなさい」



②も概ね不評だった。

東堂の恥ずかしいエピソードがあまりにもショボかったせいでもある。



「てかさ、俺気づいたんだけど。なんで西宮の情報知るのにこんなリスク背負わないと行けねぇんだよ」


「そうね。でも一応言っておくけど、私なんてほぼリスクしか背負ってないわ」


「……じゃあこれって誰が得してるのー?」


「ん? 僕は結構楽しんでるよ?」



③を検討しようとする際、問題を選ぼうとしている時点で五味渕の術中にハマっていた事に気づく3人。



「という事で、五味渕。もういいわ下がりなさい」


「かしこまりました。最終問題を出題出来なかったのが残念です」


フリップとマーカーを回収した五味渕はどこか寂しそうに脱衣所へ向かう。


「……なんか俺らが悪い事したみたいになってるけど」


「というか、なんで帰る時は消えないの?」



敢えて哀愁の漂う背中を見せて同情を誘う汚い忍者。

脱衣所の扉を開けて浴場を出る直前、



「……ちなみに、お嬢様のカップサイズは『Iカップ』です……」



――カラララ



それだけ言い残して静かに扉を閉めた。



「何故私は今暴露をされたのかしら」


「知らんがな。ヤベーなあの執事。つか、でっか」


「執事変えた方がいいんじゃない? というか、でかー」


「A,B,C……I!? あれってそんなに……!?」



少なくとも2人の記憶には五味渕は危険人物として刻み込まれる事となった。



***


『何故3問目が無くなったのかは分からないけど、お疲れ様』


「ありがとうございます」



実は五味渕がフリップを用意したのはカメラで見ている理恵が分かり易いようにする為であった。

風呂場でクイズをチョイスした理由がこれである。



『謎に悶えていた2人は置いておくとして、あの落ち着きよう……東堂さんが現状は一歩リードね』


「そうですね。基本的には誠実で清廉な方です」


『ほう……では基本的では無い部分に何か?』


「はい。彼女はお嬢様の制服・下着一式を入手しております。それらで何かをしている訳ではございませんが、返却する訳でもなく保管しているというのは謎ですね」



東堂は一度、危うく匂いを嗅ぎかけたがそれ以降はしっかりと洗濯した後、スーツケースに入れて厳重に保管してある。

別に後ろめたい事に使っている訳でもないので、五味渕が返却すればいいのでは?と思うのも当然だろう。



『なるほど。でも、麗奈の私物を大切に保管しているのもポイントが高いわ。流石は麗奈ガチ恋勢、これは相当な正妻指※1数よ』


(※1.正妻として能力を数値化したもの。現在の日本ではあまり使われておりません。)


「それでは理恵様。私は次の準備に取り掛かります」


『ご苦労。出来れば他2名も掘り下げて欲しいわ』


「お任せください」



ガチ恋勢でもなければ妻になるつもりもない北条と南雲。

彼女たちの正妻指数は一体どれくらいになるのだろうか。


正妻ダービー第二弾、乞うご期待!



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