第89話 マナ娘正妻ダービー


娘と娘に出来た貴重な友人との入浴を親として見守る母、西宮理恵。

16面のモニターを同時視聴する離れ技で現場の状況を確認しているのだが、流石に雑音の多い浴場を隠しマイクで収音する事は出来なかった。



『ちなみに、麗奈たちはどのような会話を?』


「お嬢様の身体の魅力について話しておられました」



五味渕は目の前に理恵が居るかのように恭しく頭を下げながらインカム越しに報告をする。



『そんなの麗奈は超絶美少女なんだからみんな夢中に決まってるじゃない! そうよね、五味渕?』


「はい。もちろんでございます」



そう、この西宮理恵という女。相当な親バカであった。

たった一人の愛娘である西宮を昔から大層可愛がっており、度々五味渕を使っては盗さ……観察を繰り返していた。


親バカ昔話を一つ例に出すなら、

もともと理恵には社長としての才覚が無く、自身の能力の限界を感じていた。

そんな理恵はせめて娘の育児だけは、と思い社長の座を譲る決意をする。


しかし、当時4才の西宮に、


『ママ。ちゃんと、お仕事しなきゃ、メッ!』


と言われたのをきっかけに奮起した結果、覚醒。

あの頃、自分の背中を押してくれた娘には感謝してもしきれない。


その後、理恵は西宮グループの世界時価総額ランキングTOP10入りを果たすという偉業を成すまでに至った。


現在は理恵の手腕に疑念を抱くものはおらず、むしろ西宮グループに更なる躍進をもたらした天才として世界でも称賛を浴びている。


当の西宮はそんな発言を覚えておらず、寂しさを感じながらもいつも忙しそうな母親に気を使って距離を置いていた。


そして今、日本の反対側に滞在していて物理的にも距離が離れているママ宮は社長室で娘の入浴を視聴している。

16面モニターで。



『今のところ、あの金髪の子が一番麗奈の事を見ているようだけど……あれが噂の東堂さん?』


「いえ。あちらは北条茉希様にございます。他2名の個人情報も送信致します」


『流石に仕事が早いわね。ふむ……』



五味渕が送信した個人情報は何処から入手したのか、誕生日、身長・体重、家族構成に至るまで全て記載されたヤバい代物だった。

3つの個人情報を一瞬で、しかも同時に確認した理恵は浴場に視線を戻す。



『この情報を見る限り北条さんと南雲さんは麗奈に興味無さそうだけど?』


「はい。ただ、お嬢様は本気で彼女たち2人も堕とそうとしておられます」


『なるほど、では時間の問題ね。流石は麗奈。彼女たちも世界一可愛い我が愛娘の誘惑に耐えられないでしょう』



全肯定、親バカの呼吸をしている理恵は3股に関して一切気にしていない。

ここで理恵は机に両肘をついて顔の前で軽く手を組む。



『……しかし、何事にも一番というものが存在するわ。五味渕、あなたも4才児が一番言っていたわね?』


「発言をお許しください理恵様。流石に4才は犯罪です。私が好きなのは6才から10才頃までの女児でございます」


『安心しなさい。そこも余裕のライン越えよ』



重大な欠陥を抱える執事ではあったが仕事が出来るので黙認されている。

彼女がもし理恵にその才覚を発掘されていなかったら今居た場所はきっと暗くて狭い檻の中だっただろう。



『話が逸れたわね。つまりは現状の一番を決めましょう。誰が麗奈の正妻なのかを』


「かしこまりました。私はどのようにすればよろしいでしょうか」


『そうね。ラッキースケベあるいは、麗奈を意識させる場を作りなさい。浴場以外でも構わないわ』


してもよろしいでしょうか」


『許可するわ。それでは……』

『(ノック音)社長、本日の予定のお話を……』

『後にしなさい。今大事な案件中よ』

『それは申し訳ございませんでした! 時間を改めます!』


『さぁ、そんな事より……プリティ愛娘の正妻ダービー開始よ』



4人のあずかり知らない所では勝手に正妻争いが開幕していた。



***


身体を洗う際に、

西宮⇒北条⇒東堂⇒南雲

と、横一列に並ぶ事によって全員の利害関係は一致した。


無事に身体を洗い終えた4人はお風呂に向かう。

入浴剤が入ったお湯の色は乳白色に濁っており、バラの花びらが浮いている。



「湯舟浸かっちまえばこっちのもんだろ」


「こっちのもん? なにがー?」


「ほら麗奈。しっかり肩まで浸かって」


「半身浴してやろうかしら」



やっと普通にお風呂を堪能出来る。東堂と北条がそう思った矢先――



「第一回 お嬢様わかり手クイズー」


「ねぇ、なんか始まったってー……」


「えっ……どこから……? 今、入水音すら聞こえなかったけど……」



相変わらず音もなく現れた競泳水着の忍者は突然フリップを持って現れた。

本当に何の脈絡もない力技である。



「五味渕、これはどういった趣旨なのかしら?」


「皆様にお嬢様の事をもっと知って頂きたいという執事の粋な計らいです」


「タイミングおかしいだろ。それと急に自己主張激しくなったな」



五味渕は3人に解答用のフリップとマーカーを渡し、西宮を3人に対面させる形で自身の隣に移動してもらった。

実際、多少おもしろそうなので3人は湯舟に浸かりながら五味渕に注目してマーカーを持つ。



「それでは第一問。メジャーな部分以外でのお嬢様の性感帯といえば耳ですが……」


「一問目からどゆこと!?」


「ですがじゃねぇよ! 知らねぇ情報を前置きに来たわ!」


「えぇ!? せいか……えっ!?」


「ゴミ渕。問題を変えなさい」



1問目からアクセル全開でぶっこんで来た五味渕に対し4人の反応は様々だった。

こんな事もあろうかと、と五味渕はどこかから別の問題集を出してきた。


しかし、これはまだ正妻ダービー第一弾の第一問目の話である。



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