第88話 忍法ロリコンの術


脱衣所にて手ぬぐいで目隠しをしてゾンビのように両手を上げて歩く北条と東堂。

おもしろそうだったので進行方向だけは西宮が指示していた。



「そこで左に曲がって、真っ直ぐよ」


「いやだからスイカ割りじゃないんだから」



無駄にコツを掴み始めた東堂は普通に扉まで辿り着く。

一方で東堂のような才能(?)が無い北条の方はよちよちと歩いている。


南雲は北条を介護しようと傍に寄ったのだが……



「あーちゃんはともかく、なんで茉希ちゃんまで」


「す、すまん宗教上の都合で風呂場では目隠しを……」


「でも美保ちゃんは目を隠してなかっ……あー、そっちじゃないよー。わぷっ」


「……わぷ? この感触まさか……」



北条が恐る恐る目隠しをズラすと自分の胸に南雲の顔が接触していた。

見上げる南雲のジト目と視線が交差する。



「目隠し、外そっかー?」


「……はい。スイマセンっした」


「まったく……あなた達は何をやっているのかしら? 私も混ぜなさい」


「な、何が起こってるの!? 僕も混ざろうか?」



状況をより混沌とさせようとする2名を置いて、南雲と北条は大浴場への扉を開く。

観念して目隠しを外した策士北条だったが、実はまだ奥の手を残している。



「わー、やっぱりすっごい広いし綺麗ー」


「ゆーちゃん、ごめん。形状とか配置を詳しく」


「……あーちゃん。目隠し外そう?」



ちなみにこちらの女は未だ目隠しに全幅の信頼を置いていた。


そんな微妙な空気が流れているのはこちらだけではない。

北条と西宮の間にもまた不思議な空気が漂っていた。



「北条さん。あなたはかつて入浴時のマナーを私に説いた事があったわね」


「覚えてねぇわ」


「あの言葉の意味が今ようやく分かった気がするわ」



目隠しをキャストオフした北条に残された秘策。

それは――



「そんなに穴が開くほど見つめられると困惑するわ」


最終手段、西宮ガン見である。


「うるせぇ。こっちは今集中してんだよ」


「わ、私の裸体に……?」



見るのは東堂でも良かったのだが、出来るだけ南雲が居ない方に全集中しなけば意識が持っていかれる。

なので現在北条は特殊な呼吸法を使い真顔で西宮の乳を見ていた。



「ふぅ……ありがと、西宮。だいぶ気持ちが落ち着いたわ」


「え……? 落ち着く? 興奮とかではなくて……?」


「いや、お前の身体見て興奮したらマズいだろ」


「…………」



女としてのプライドを傷つけられた西宮はスタスタと東堂の元へと行く。

そして目隠しに手を掛けてガバッと外した。



「ちょっ!? 目隠しは外さないで!! って、麗奈!?」


両手で東堂の顔を押さえて自分の方へと固定する。


「見なさい。 ……どう? 興奮するかしら?」


「れ、麗奈。せめてタオルを……ひゃぁぁぁ……」


「なんで悲鳴を上げるのかしら? せめて感想を……」


「西宮さんッ! あーちゃんが嫌がってるから離れて!!」



見かねて間に割って入って来た南雲が東堂を保護する。


と、言うか抱き着いてスリスリしているので捕獲と言った方が正しい。

隙あらばである。

東堂も未だ悶えているので南雲にとっても都合が良かった。


一方、東堂にも褒めて貰えなかった西宮のHPが減っていく。



「な、南雲さん……私の身体ってそんなに魅力ないのかしら……?」


縋る思いで南雲に答えを求めた。

お気持ち程度に胸を寄せて谷間を見せつける。


「うーん。私は興味無いかな」



一刀両断。即答だった。

瀕死状態の西宮が尊厳を取り戻す方法はもはやたった一つ。



「五味渕……」


「はっ、お嬢様。お呼びでしょうか」


「うおっ!? どっから出てきた!?」



忍者のように現れたのは髪を結って競泳水着を姿の五味渕である。



「私の身体ってエロいわよね? 五味渕は興奮するかしら?」


「はい、エロいです。世間一般的には概ねそのように評価されるでしょう。しかし、私は6才ごろのお嬢様が一番興奮しました」


「えっ……この人もしかしてロリコ……」


「具体的には初潮を迎える前までですかね。あの頃のお嬢様が恥らうお姿は……」


「もういいわ。下がりなさいゴミ渕」



最後の砦もあっさりと崩壊する。

自身の性癖ロリコンという爪痕だけ残して忽然こつぜんと消えていた。


未だどういう技術なのかは分からないが、とりあえず北条は彼女の事をロリコン忍者と敬称する事にした。



「こうなったら白黒つけましょうか。直接聞けばいいわ。この浴場での映像を配信して誰が一番魅力的なのかを」


「絶対にやめろ」



***


脱衣所へと移動した五味渕はインカム越しにある人物と通信していた。



『五味渕、12番のカメラの映りが悪いわ』


「はっ、直ぐに取り換えを行います」



北条が絶対にやめろと言っていたお風呂場配信。

実は五味渕によって盗撮され、ある人物にのみ配信されていた。


その指示を出し、モニターに食いついているのは……



――西宮理恵。



そう、西宮の母親である。



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