第84話 本日2度目の快挙


北条と短い作戦会議を交わした西宮が四方堂に相対する。

一応、有事の際に備えて北条も同伴した。



「待たせたわね。もう一度あなたの名前を聞かせてくれるかしら?」


西宮は椅子に腰かけながら足を組んだ。


………ちなみに、彼女の本来の業務コンセプトはメイドである。

開始2秒で既にコンセプトは崩壊していた。



「四方堂ガブリエル杏樹ですわ」


「すげー名前だよな。ハーフかなんかか?」


「……私、ミドルネームを弄られるのがあまり好きではありませんの。あとハーフだと何か問題でもありまして?」


「ガブって呼んでいいかしら」


「もちろんですお姉様! ガでもブリエルでも何とでもお呼び下さい!」


「おい。温度差おかしいぞ」


「ごめんなさい。この子ちょっと恋に走ると周りが見えないタイプみたいで……」



塩対応にピキつく北条に謝罪を入れたのは十河。

やれやれと言った感じに呆れている彼女にも北条は話を伺った。



「俺は北条茉希、君の名前は?」


「十河灯です。よろしくお願いします、北条先輩。一応、彼女の友人やってます」


「……君の方はまともなんだな。友人はいつもこんな感じなのか?」


「いえ、今日は狂ったようにテンション高いですね。私もちょっと彼女との付き合い方を考えてる最中です」



友人と距離を置こうとしている所を申し訳ないが、何かあったら彼女に四方堂を押し付けようと北条は決めた。



「あの……お姉様の名前を伺っても?」


「あぁ、まだ名乗って無かったわね。麗奈・西宮よ」


「おい。なんで入れ替えた? ややこしいぞ」


「麗奈……お美しい響きですわ!」


「西宮、お前ってさ……人を狂わす変なフェロモンでも出してんの?」



既に2名を一目惚れさせている西宮の生態は未だ謎に包まれている。


そんな中身の無い自己紹介をしている間にラストオーダーの時間が訪れた。

軽食系は既に売り切れているので北条はドリンクメニューから注文を促した。



「……じゃ、じゃあ! お姉様にこのスペシャルドリンクを注文してもよろしいでしょうか?」


「得意よ、任せなさい」


「お前がドリンク作るとこ見たことねぇよ……」



北条が不安を抱きながらシェイカーを持ってくると、西宮は受け取ったシェイカーを谷間に挿入


……する直前で北条は自然な所作でシェイカーを奪った。

笑顔を引き攣らせた北条は2人に背を向けて西宮に事情聴取する。



「……おい。お前今なにしようとしてた」


「谷間に挟んで彼女に下乳を触らせてシェイクを……」


「風俗じゃねぇんだよ! 頼むから普通にやってくれ」



振り返るとキョトンとした顔の四方堂と顔面蒼白の十河が2人を迎える。



「……? 何か問題が発生しましたの?」


「え……今、西宮先輩……えぇ……?」


「い、いや? ちょっとセリフの確認をしてただけだ」


「萌え萌えエクスプレス出発準備OKよ」



西宮のヤバさの片鱗を感じ始めた十河の椅子は少し引き気味だった。

シェイカーに氷とドリンクを入れた西宮はいつもと変わらぬ無表情で呪文を唱え始める。



「ガブも一緒に。しゃか。しゃか」


「振り♡ 振り♡」


「おいしくなーれ。おいしくなーれ」


「萌え萌え♡」


「きゅん」


「ごふっっっ!!!」



――ガシャンッ!! ザーッ!!




説明しよう。

この擬音語の間、何が起きたのかを。


①西宮からの萌え(?)に耐え切れず四方堂が気を失った

②本来注ぐはずのコップを突き飛ばして『ガシャンッ!!』

③唖然とした西宮がそのまま四方堂の頭にジュースを注いで『ザーッ!!』



「えぇ……どうすんのこれ? お前もお前でなんで客の後頭部にジュース注いじゃったわけ?」


「と、突然の事で……愛情注入ってこと出来ないかしら」


「後頭部から!? 杏樹! おーい、杏樹ー!」



西宮の愛をその身に浴びた杏樹は安らかな顔で眠っていた。



「と、とりあえず。保健室に行った方が良いんじゃないかな?」


最悪の予想が当たってしまった北条は予定通り十河に四方堂の撤去を頼んだ。

十河は四方堂を背中に担ごうとするが……


「……くっさ!! てか、きったな!!」



普通に友人を床に転がした。

やたらフルーティーな香りがする上にベタベタしていたのが嫌だったらしい。



「……友達、なんだよな? 分かったよ、俺が持ってく」


「小汚い友人ですがどうかよろしくお願いします」



礼儀正しくペコリと挨拶をした十河。

彼女は教室を出る前に西宮とも一言交わした。



「友人がご迷惑をお掛けしました。来年、私達は丸女に入学するつもりですので、その時はまたお願いします」


「こちらこそ、迷惑掛けたわね。それでは私も来年会えることを楽しみにしているわ」



そう言って西宮は最後だけまともに締めくくった。



***


保健室に辿り着いた3人を見て万里はこめかみを押さえる。


「あのさー……どう暴れたら1日2回も保健室にお世話になるんだい?」


「えぇ!? お前ら2週目なの!?」


3時間ぶり2度目の快挙に万里は呆れていた。



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