第83話 マシュマロの錬金術師
終了まで残り約1時間となった文化祭で、それでも西宮に一瞬でもお目通り頂こうと四方堂は必死に1-Aを目指す。
ちなみに、南雲にヨシヨシされた時点で十河の文化祭はフィナーレを迎えていた。
「まったく! あなたは本当に面倒しか起こしませんわね!」
「まぁまぁそんなにカリカリしないで? 私だけご褒美貰っちゃってごめんね?」
「……本当ですわ。あの状況でなんであなたが一番得をしているのかが今でも謎ですわ」
罪状を2つ貰ったはずの十河のまさかの逆転劇。
あの場で誰もゴネなかったのは奇跡と言えよう。
そんな奇跡を無駄にしない為になんとか辿り着いた1-A。
あさイチで来た時とは違いそこそこの待ちが発生していた。
「結構並んでるね。大丈夫かな?」
「何故こんな……ハッ!?」
窓から店の中を覗いた四方堂は雷に打たれる。
そこには愁いを帯びた瞳で外を眺めている麗しい令嬢の姿があった。
外から様子を見た客は皆一様に彼女に目を奪われていた。
「お、お姉様……なんとお美しいお姿……!!」
「え、杏樹も遂にお姉様デビュー? どれどれ? へー。ああいうのが杏樹の好みなんだ」
品定めするように西宮を観察する十河。
「……ねねっ! 黒髪でクールな感じとかちょっと私に似てない? 杏樹ってもしかして私の事も……」
「は? 殴りますわよ? お姉様のような清廉なお方をあなたみたいな犯罪者と一緒にしないで」
十河がキメ顔で髪を軽くかき上げると周りの客から注目を浴びた。
対して、微塵も興味がない四方堂は西宮をガン見している。
「十河。見て見なさいあのお顔を。あれはこの世の全ての罪を嘆き悲しんでいる顔ですわ。きっとあの方は罪とは最も無縁な所に居る聖女のようなお方なのよ」
「そうかなぁ? 案外裏ではヤる事ヤッてたりして」
「お姉様は処女ですし、排泄もしません!」
「いやいや。アイドルじゃないんだから。夢見すぎ」
過激なドルオタと化した四方堂の西宮像は神格化の一途を辿る。
実質的にアイドル業に携わる十河は『あー、いるいる。こういう人』という生暖かい目で見ていた。
「大体あなたがそれを言いますの? ……南雲さんは東堂さんとデートしてたけど?」
「先輩は私以外に恋はしない! おしりからはマシュマロしか出て来ない!」
「バケモノじゃない。腸内に錬金術師が住み着いてますの?」
四方堂は文化祭の間、十河の事を友達かどうかをずっと審議している。
しかしこの瞬間、傍から見れば二人は間違いなく
ここで2人は教室の調理室側の扉から出てきた店員に声を掛けられる。
「……あのさ。店の前で処女とか排泄物の話とかやめてくんない?」
金髪で目つきの悪い店員だった。
***
怒られた2人が大人しく待つこと数十分。
ようやく店の中に入ることが出来た。
「おかえりなさいませ~! こちらの席へどうぞ~」
「いえ、それには及びませんわ。十河、机をあちらに」
「りょうかーい」
本来接客をする予定のない西宮は机から離れた場所に居た。
しかし、四方堂たちは勝手に西宮の前に席を増設する。
「お、お嬢様方困ります! そちらは看板ですので!」
とうとう『娘』も剥奪されて物のような扱いを受けている西宮。
店の備品に手を出す厄介客に店員は制止を掛けるが、
そんな事お構いなしの西宮信奉者は勝手に自己紹介までし始める始末であった。
「お姉様。初めまして。私は……」
「あの、お客様ー? ……って、また君たちか。営業妨害しに来てんの?」
騒がしいホールの様子を見て厨房から現れたのは金髪ヤンキーこと北条茉希、その人であった。
「チッ……また、あなたですの? あなたこそ邪魔しないで下さいませ」
「え……俺いま舌打ちされた?」
「ごめんなさい。この子ちょっと変わってて。代わりに私から謝罪をしておきます」
終了まで残り時間僅かな西宮とのひと時を邪魔された四方堂は不快感を露にする。
隣に居た十河が北条に対し友人の暴挙を謝罪した。
一応、十河に関しては南雲が絡むと狂人になるだけであって、常時頭がおかしいわけではない。
なので現状、北条視点では十河はとても礼儀の正しい少女だった。
「邪魔が入りましたが……お姉様、私の名前は四方堂ガブリエル杏樹と申します」
「……なんて? つか、西宮。お前も妹居たのか?」
「……天網恢恢疎にして漏らさず」
「あ、やべ」
「お姉様? 意味は分かりませんが頭が良さそうな響きですわ!」
「……年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」
「杏樹、大丈夫? この人壊れてない?」
遠くの景色を見つめながら壊れた機械のようにそれっぽい事を言っている西宮を見て北条は冷や汗を流す。
西宮は喋るとボロが出るという事で事前に渡されていた『かっこいいことわざ10選』から適当に発言していた。
看板扱いに拗ねた西宮のささやかな抵抗である。
北条は表面上は無表情だが内心ではむくれている西宮を裏に連れて行き謝罪した上で、協力を申し出た。
「てか、お前も妹居たのか」
「居ないわ。おそらくあれはスピリチュアル的な意味の姉妹よ」
「あぁー……なるほど了解。めんどくさそうなのは理解した。残り時間もそんなに無いから、得意の演技であしらってくれ」
「任せなさい。月に叢雲花に風よ」
「いや、もうそれはいいから。頼むぞ、マジで」
アディショナルタイムを乗り切る為に遂に
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