第82話 やっぱ土下座でしょ


東堂と南雲は中庭の空いている所に4人を誘導してさっそく取り調べを始めた。



「紗弓ちゃん……暴力は良くないよ。どうしてこんな事しちゃったの?」


「ごめんなさい、東堂先輩。あの人が東堂先輩を殺害しようとしてたから止めたくて……」


「さ、殺害!? 僕を? え、急に事件性が……?」



見てないところで自身の命のやりとりをされていた事を知った東堂は困惑する。

南雲は容疑者のの方に視線を向けた。



「って、言ってるけど。どう? 十河さん、なにか異議はある?」


「大アリですよ先輩! だって先に手を出して来たのはあっちです!」


「へぇー。じゃあ、殺害の意思は無かったと?」


「それは…………未遂です! なので無罪を主張します!」


「はい。有罪」



しかし、自身も西宮殺害未遂の前科を持っている南雲刑事はあまり強く出れない。

自分が若い頃もこんな感じだったんだろうなぁと思いに耽る。


一方で、喧嘩していた2人以上に何故かキレ散らかしている美保に四方堂は事情聴取していた。



「……つまり? ついカッっとなってやってしまったと?」


「人を犯罪者みたいに言うんじゃねぇ! それで言うならお前の監督不行き届きじゃボケ!」


「あなたは何がしたいんですの……? どうなったら満足しますの?」


「土下座じゃ土下座! 誠意と謝意を見せろ!」



顎に指を当て頷く四方堂。



「なるほど。ではこちらは解決ですわね。ちょっと十河!」


「何、杏樹? こっちは今、身の潔白を証明するのに忙しいんだけど」


「時間の無駄よ。そんな事より、十河。土下座しなさい」


「は!? ヤだよ! なんで私がこんな奴に!」


「あ”? 誰がこんな奴だって? 誠意見せろコラ!」


「あー、あー、もう……君らホントあっちこっちで争うじゃん。なに? ここは幼稚園? 十河さんと美保ちゃんは何があったの……?」



隙あらば低俗な争いを繰り広げる後輩組に南雲は呆れていた。

十河が怒る理由はなんとなく想像がついていたが一応事情を聞く。



「この女は先輩を貶めました! 侮辱罪です! 死刑です!」


「はいはい。大体そんなことだろうかと……流石に今回は十河さんは手を出してないんだね?」


「…………未遂です! 当たってないので無罪です!」


「はい。暴行未遂も追加と……これで前科2犯だけど。どうなってるの、君は?」



ここまでの話を纏めると十河はただの凶悪犯でしかなかった。

そんな凶悪犯の元に東堂刑事が裏で教育を施して更生した一ノ瀬が訪れる。



「その……十河さん、ですよね? さっきは急に手を出してごめんなさい!」


「あなた……名前を聞いても良いかな?」


「一ノ瀬紗弓です」


「そう、一ノ瀬さん。こちらこそ、ごめんなさい」



お互いに謝罪をした二人は仲直りの握手をする。

これには東堂さんもホッと胸をなでおろした。



「よかった! これで二人は仲直りだね」


しかし、十河が握手を解こうとするが一ノ瀬は手を離さない。


「これでもう東堂先輩に手を出さないって事で良いんだよね?」


「………………………………ええ。」



返答にびっくりするぐらいの遅延が発生したが、もしかしたら通信状況が悪かったのかもしれない。

両者、推しの先輩を前に作り笑いを浮かべて二人は表面上だけ仲直りをした。


こうなってくると、忘れてはならないチンピラがあと一人。



「おいおいおいおい? こっちも忘れてねぇよなァ? 仲直り土下座はよ」


「は? 無理だけど。そっちが先輩に対して土下座でしょ」


「こっちに関してはなぁ……、美保ちゃんは止めようとした側だしなぁ」


「南雲よく言った! ほれっ! 土下座ー! あ、ほれっ! 土・下・座!」


「…………小学生ですの?」



大義名分を手に入れた美保は完全に調子に乗っている。

しかし、十河はそんな事知った事ではないと依然謝罪を拒否していた。


このままでは一向に話が纏まらない=東堂とのデート時間が減る、と感じた南雲はワイルドカードを切った。



「十河さん。上手にごめんなさい出来たらヨシヨシしてあげ

「本当に申し訳ございませんでした。反省しています。もう2度としません。」る」



先ほどの通信障害は解消されたのか十河の反応はあまりにも早く、何の躊躇いもなく美保の目の前で額を擦り付けながら土下座した。



「お前さ…………もうちょっと悔しいとか恥ずかしいとか無いわけ? なんか思ってたのと違うわ」


「不肖、私めに謝罪の機会もとい、先輩のヨシヨシ権を授けて頂きありがとうございました」


「全然謝意はねぇな!? 完全に利己的な理由だな、おい!」


「ほら。十河さんもこんなに謝ってるから。もう許そ?」


「お前の目は節穴かよ! こいつの謝罪はハンバーグに『一応、軽くパセリかけとくか』くらいの添え方だったぞ!?」



美保が駄々を捏ねる=西宮と会う時間が減ると感じた四方堂も加勢する。



「ほら、もう後はあなたが許すだけですわ。いつまで意地を張ってますの?」


「え? なに!? もう、こいつのみそぎは終わってる感じなのか!?」


「うわぁ……凄い土下座だね。流石にこれ以上の要求は……」


「みほっち、もういいんじゃないかな。先輩だって土下座して貰ってないのに……」



そこに東堂と一ノ瀬も加わってこれで1:4の構図が生まれた。

結局、数の暴力に丸め込まれた美保は十河の謝罪を受け入れる。


そして、6人は事件解決と見るや否やそれぞれの目的の為に潔く速攻で解散した。



***


「……いや。よくよく考えてみるとやっぱ納得いかねぇー! なんか後半みんな適当だったろ!!」


「もう、みほっちー。思い出すとまた怒っちゃうからやめよ?」



美保を宥める一ノ瀬は彼女と共にまた文化祭を巡る。


ただ、今回に関しては美保の怒りは真っ当で彼女の主張は正しかった。

しかし、南雲と四方堂の胸中にあった思いはこうだ。



――めんどくさ。



めんどくさかったのだからそれはもう仕方がない。


こうして、文化祭で起きたこの事件は美保という犠牲を出しながらも未解決事件として歴史の闇に葬られる事となった。



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