第81話 平和の使者、参戦


東堂と南雲から離れた一ノ瀬と美保はから離れようと校舎に向かって歩いてた。


「どうする? 屋台でも回る?」


「いや……、いいか、一ノ瀬? ここで敢えての転進。南雲の素行調査だ」


「えぇー……もういいじゃん、みほっちぃー。めんどくさい小姑みたいになってるよー」



一ノ瀬が素行調査を続けようとする美保を止めようとした、その時。



「あ。殺らなきゃ」



近くから尋常ならざる殺気を持った少女が動いたのを感じた。



「ちょっ! 十河! ハウス!」


少女の飼い主(?)が制止を掛けたが殺気は収まらない。


――事件が起きる。


そう思った一ノ瀬は少女が飛び出す前に、自身が彼女の前に飛び込んだ。



「ストップ。ちょっとお話しよっか」


「……え? 邪魔」


「ちょっ……一ノ瀬! ハウス! そんな事に首突っ込んでる場合じゃないぞ!」



こちらの飼い主も番犬を制止出来なかった。



「どいて……あの女から先輩を守らないと……」


「あの女って?」


一ノ瀬が十河の視線を追うとそこには先ほど別れた先輩達が居た。


「先輩の隣に居る……チャラ女を殺さないと!!」


「……シッ!」



そう叫びながら飛び出した十河。


――しかし、一ノ瀬だった。



「ッ!?」



十河は一ノ瀬が付き出した拳を間一髪のところで避ける。

顔面に躊躇ないグ―パンだった。



「……誰を殺すって? それってまさか、東堂先輩じゃないよね?」


怒気を全面に押し出す一ノ瀬が十河の前に立ちはだかる。


「…………へぇ?」



しかし、十河も十河でたじろぐ事無くファイティングポーズを取った。

対して後ろの飼い主たちは目を丸くする。



「う、嘘だろ……アイツ、一ノ瀬の拳を躱したぞ……!!」


「じょ、冗談でしょ、あの方、十河よりも先に踏み込むなんて……!」


「おい、お前。アイツ強いのか!?」


「強いなんてもんじゃありませんわ! 十河はボクシングとテコンドーの全国大会優勝者ですわ! あなたの友人の命の危機ですわ!」


「いや、それで言うと、一ノ瀬は空手・柔道・レスリングの全一だぞ! お前の友人、死ぬぞ!!」



超人同士の異種格闘技の開催に震える飼い主。

美保は咄嗟に対応策を考えて四方堂に指示を出す。



「悪い、お前。この女が襲おうとしていた先輩を呼んできてくれ。この状況を止められるのはあの人しか居ない」


「分かりましたわ。あなたは?」


「小粋なトークで時間を稼いでやるぜ」


「では、ご武運を」



そう言い残して急いで東堂と南雲の元へと向かう四方堂。

一方でこちらの狂犬同士の戦いは既に始まっていた。



「多少、格闘技に覚えがあるみたいで調子乗ってるね?」


「そちらこそ。さっきから外してるけど、得意なのは不意打ちだけなの?」



お互い数発攻撃を入れながら煽り合っている。

覚悟を決めた美保は穏やかな表情で二人の間に割って入った。



「こらこら。2人とも。喧嘩は良くないぞー。そんな事、天が許してもこの平和の使者北条さんが許すかな?」


「……なにこの女? あなたの子分?」


「……みほっち。冗談は後で聞くからどいて」


「いいかい、争いは良くない。罪を憎んで人を憎まず。全ての罪は南雲に――」


「みほっち危ないっ!」


「ぺぎょっ!!」



会話の途中で美保の顔面目掛けて蹴りを繰り出す十河に対し、一ノ瀬は美保に足払いをする事で蹴りから守った。

ただし、美保はビターン!と地面に倒れこむ。


実質2人からの蹴りを受けた美保はプルプル震えながらゆっくり立ち上がる。



「…………上等だコラ。てめぇ、ぶっ潰すぞ! クソアマァ!」



化けの皮が剥がれた平和の使者も争いに身を投じ始めた。

世に混沌が蔓延はびころうとしたその時、ようやく本物の平和の使者が登場する。



「ストップ! ストップ! ちょっとみんな冷静になろうか」


「東堂先輩! こ、この人が!」


「十河さん。ワタシの学校で問題起こさないで?」


「せ、せんぱぁい! だってこの女が先に!」


「ちょっとあなた! 小粋なトークはどうしたんですの!?」


「あ”ぁ? 知るかボケ! 何がトークじゃ、たわけ!!」



責任を転嫁する2名と、責任を放棄した1名。

やって来た3人は彼女たちを宥めながら事情聴取する流れとなった。



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