第80話 牛丼系Vtuber
昼食を食べた後、西宮と北条は1-Aへ向かい東堂と南雲はそのまま文化祭巡りをする事になった。
「ゆーちゃんは何処か行きたいとこある?」
「お化け屋敷と、このデジタル射的ってやつ!」
「うーんと……じゃあ、ルート的にデジタル射的から行こうか」
デジタル射的はコンピューター部の出し物で視聴覚室を借りて開催している。
室外の待機列でも中の様子が分かるようにモニターが置いてあるのだが……
モニターの上の看板には、
『的になるのはお前だ!! デジタル射的風ゲーム』
と書いてあった。
東堂は絶対碌なものじゃないとは思いつつもモニターを見る。
「デジタル射的『風』……って言うか、これただのFPSゲームだよね!?」
コンピューター部はただ視聴覚室を借りてネトゲをやっているだけだった。
しかも、コンピューター部は
一応、モニターの下の看板には、
『勝てればなんと豪華景品が……!?』
という胡散臭い一文まで添えてあった。
「ね? あーちゃん。おもしろそーでしょ?」
「あー……なるほど。そうかこのゲームって……」
結局、順番待ちの間に誰も巨悪を倒せないまま東堂と南雲の番が来た。
一緒のチームになったのは見るからにゲームをやった事がなさそうなぽわぽわとしたお母さんと小学生くらいの娘2人。
「頑張りましょうね~」
「よ、よろしくおねがいしますっ」
「します!」
「よろしくお願いします」
「よろしくー! 景品とれると良いねー」
挨拶をしながら南雲はマウス感度とキーボードの設定を確認する。
流石にデバイスまで小細工をするほど外道ではなかったらしい。
そして開幕。
初狩りさんチームが暴れる隙も無く開始直後に南雲がスナイパーライフルで一人倒す。
「え、ゆーちゃん。このゲームって銃弾が壁とか貫通するの?」
「うん。そーゆー武器もある。ちゃんとした仕様だよ」
話している間に顔を出した敵も倒れていた。
何も出来ずに次々と倒れていく初狩りさんチーム。
お母さんたちが『Wキー』で前進出来ることに気づいた頃には試合が終わっていた。
ドタドタと仕切り板の奥からはコンピューター部が出てくる。
「ち、チートだ! あんなにスナが当たる訳ない!」
「どう? 的になる気持ちわかったー?」
「ママー、チートってなに?」
「なにー?」
「うーんと、確か同じ牌が7つ揃う事だったかなー?」
「お母さん、それはたぶん
意味も分からずロンしそうになっているお母さんに東堂がツッコミを入れる。
「はい、もう言い訳いいからさっさと豪華景品出してー」
「くっ……!! 景品はこれだ!」
南雲に渡されたのは例の大会コラボの丸井月のキーホルダーだった。
まさかの2個目である。
「いるか! こんな汚物!!」
「ま、待ってください!」
床に叩きつけようとした南雲を止めたのは2児の母だった。
「実は娘が丸井月ちゃんのファンで……良かったらこちらのキーホルダーと交換してくれませんか?」
そういって渡されたのは梅雨町リリィのキーホルダーだった。
「ごふっ……べ、別に良いですけど……この人、知らないかなー?」
「知らなーい」
「誰ー?」
「たしか……つゆだくりりぃさんだったかしら?」
「お、お母さん。そんな牛丼みたいなVtuberは流石に……」
子供たちの純粋な疑問が南雲の胸を容赦なく抉る。
お母さんはお礼を言いながら娘2人と共に去っていた。
まったく需要がない自分のキーホルダーを貰った南雲の悲しみは深い。
***
気を取り直してお化け屋敷に行こうとした二人は中庭を経由して歩いている最中に後ろから声を掛けられた――
「東堂先輩っ!」
「え、紗弓ちゃん? 直接会うのは久しぶりだね」
「はい! 会えて嬉しいです!」
感動の再会を果たした二人は熱い抱擁を交わす。
「美保ちゃん久しぶりー……って、あーちゃん、引っ付きすぎだよ!」
「…………うっす」
対して、こちらの再会は二人の間にかなり距離感があった。
「紗弓ちゃんはどうして丸女に?」
「えーと……みほっちが『南雲をシバきに行くぞ!』って」
「おい! あくまで様子見だ! ……姉貴に手出したらシバくって趣旨」
「あ、初めまして南雲先輩。みほっちの親友の一ノ瀬紗弓です!」
「これはこれはご丁寧にー。私はあーちゃんの幼馴染の南雲優だよー」
早速、美保の用心棒は大悪女(個人の感想です。)と和解していた。
「やっぱりみほっちの偏見じゃん。南雲先輩はそんなに悪い人じゃなさそうだよ?」
「いいか一ノ瀬。こいつに隙は見せるな。じゃなきゃお前も姉貴みたいになる」
「え。それってもしかして単に茉希さんが…………」
答えに辿りついた一ノ瀬は口をつぐむ。
首を振った一ノ瀬は話題を変える為に北条の所在を聞くことにした。
「みほっちが茉希さんを探しているんですけど、今どこにいるか分かりますか?」
「あー、今北条はクラスの出し物で裏方やってるから2人の対応は出来ないかも」
「だってさ、みほっち。どうする?」
「しゃーねぇな。丸女の校風でも偵察するか」
「普通に遊ぶって言えばいいのに……」
特に別れを告げるでもなく背中を見せる美保。
呆れながらも一ノ瀬はその背中を追った。
「それではボクらはこれでー! お二人はデート楽しんでくださいねー!」
「きゃー! あーちゃん、デートだって! 一ノ瀬さんは凄くいい子だね!」
南雲はそう言ってちゃっかり東堂と手を繋ぐ。
「うん。紗弓ちゃんは来年、丸女に来るみたいだからよろしくね」
思わぬ二人組と出会ったが、こうして二人は今度こそ中庭から移動をする――
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