第79話 巨乳、金持ち、髪が綺麗


着替え終わった百合聡美ひゃくあさとみが千堂と万里を連れて急いで保健室に向かう。

扉を開けると食い入るようにタブレット端末を見る四方堂が居た。



「ごめんなさい! 保健室を留守にしてしまって……」


百合が謝ると彼女が振り向く。


「あなたは29番の……結局、誰も来ませんでしたわよ。そんなことより……」


四方堂はタブレット端末を持ったまま万里に詰め寄った。

見せつけられたタブレットには西宮の登場シーンがエンドレスリピートされている。



「万里先生! お姉様について教えてくださいっ!!」



「お、お姉様?」


「えぇ!? 万里先生! この方は西宮さんの妹だったんですか!?」


「ほぅ……あれの妹か…………似てないな」



食い気味に問い詰める四方堂に三者三葉の反応を見せながら指名された万里が質問を返す。



「ちょっと整理したいんだけど……もしかして、西宮さんって君の生き別れのお姉さんだったりするの?」


「違いますわ。運命のお姉様です」


「ああ、了解。概念的なやつだ」



万里は西宮という女の解説をする為、四方堂に着席を促した。



「今回は偶然にも西宮さんに詳しい有識者がここに居る」


ホワイトボードを用意してマーカーを百合に渡す。


「……そうですね。私は西宮さんが在籍する1-A担任の百合聡美と申します」


「え!? あなた教師でしたの!? 私はてっきり1年生かと……え、妖怪?」



幼女と評したがまさかだったという事に衝撃を受けた四方堂。

思わず物の怪の類である可能性を疑ってしまった。



「お、お嬢様って皆さんこんな感じなんですかね? 名前を伺ってもいいかな?」


「はい。四方堂ガブリエル杏樹ですわ」



若干の西宮イズムを感じる百合は青筋を浮かべ自身の胸に彼女の名前を刻み込む。



「なに堂だって? ガブリア……? ん??」



ややこしい名前に千堂の口からは思わずサメを彷彿とさせる名前が出かけた。



「……それでは四方堂さん。あなたが後悔をしない為にハッキリと申し上げます。西宮さんはあなたが幻想を抱くような方ではありません」


「容姿端麗、品行方正、頭脳明晰であんな完璧なのにですか?」


「何故タブレット端末で頭脳明晰か分かるんだい、君は」


「そうですね。では容姿端麗、は認めましょう」



ホワイトボードに書いた容姿端麗を丸で囲った百合。

次に品行方正と書くと千堂が挙手をした。



「そいつの日常はセクハラ三昧だぞ……そこの養護教諭と一緒でな」


「どうせ自分からお姉様に触られに行ってる当たり屋では?」



百合は品行方正の上に×を書く。

次に頭脳明晰と書くと万里が挙手をした。



「いつも赤点だらけだよ。小賢しいという点では頭が良いけど……そこの化学教師みたいに」


「教師陣の教え方が悪いんじゃありませんの?」



頭脳明晰の上にも×が書かれた。

それを見ていた四方堂がため息をつく。



「あなた方のお姉様への寸評は悪い所ばかりで面白くありませんわ」


「……何故そうなっているのかをよく考えるんだ、四方堂さん」


「これじゃあまるでお姉様が丸女のヤベー奴みたいじゃありませんか」


「『みたい』じゃないんだな、これが」


「せ、千堂先生! 一応、オブラートに包んであげてください……!」



相変わらず失言が多い百合。

発言内容から彼女も西宮の事をヤベー奴だと思っている事が確定していた。



「……分かりましたわ。じゃあ、あなた方が思うお姉様の一番良いところを教えてください」


「「「…………」」」



3人が熟考すると急に静寂が訪れる。

それぞれが違うポーズで苦しそうに表情を歪めた。



「そんなに考えます!? いいですわ。頭に思い浮かんだ最初ものを言ってください!」



「おっぱいが大きい」 ⇐万里

「……髪が綺麗?」 ⇐百合

「実家が金持ち」 ⇐千堂



「小学生ですの!? あまりにも中身がありませんわ!?」



万里の意見は賛否両論。

百合に関していえば、とても半年間見てきた生徒への感想とは思えない。

千堂に至ってはもはや本人の良いところでは無かった。



「もう、お話になりませんわ! お姉様に直接会って確かめます!」


四方堂はベッドの横に置いてある花瓶を傾けて十河の顔に水を掛ける。


「起きなさい、十河。もう一度1-Aに行きますわよ」


「……はっ、冷たっ!? え、あれ? ここは? 先輩は??」


「そ、その方は四方堂さんのお友達なんですよね……?」



四方堂は零した水はちゃんと給水して元の場所に花瓶を戻す。

その後、叩き起こされて混乱している友人(?)を連れて保健室を出ていった。


尚、枕はビチャビチャのまま。



***


「ちょ……っと、杏樹! まだ私は状況が理解出来てないんだけど?」


「ここからは私に付き合いなさい。もう一度1-Aに行きますわよ」


「えー。でも先輩居ないんでしょ? 行く価値…………ん?」



四方堂に手を引かれた十河が中庭に目を向けると彼女はとんでもない場面を目撃してしまった。

そこには、南雲が歩いていた。



――南雲が。



移動の際に浮かべていた疑問も、戸惑いの表情も一切合切が抜け落ちる。

そして、たったいま胸に沸いた感情を自然と口に出す。



「あ。殺らなきゃ」



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