第78話 ほにゃがし堂なんとか杏樹 side ???
友人に連れられて来た文化祭にて、当の本人はオムライスに顔を埋めて昇天。
今
「僕の名前は東堂明里。君の名前を聞いて良いかな?」
「
「よろしく、杏樹ちゃん。可愛らしい名前だね」
簡単な自己紹介の後に慣れた口ぶりでサラッと名前を褒めましたわね。
一瞬ナンパかと思いましたが、この人はこれが素なのかもしれませんわ。
「えっとー……この子は君の友達なんだよね? その……普段からこんな感じなの……?」
背中に担ぐ十河についての質問。
「まぁ一言で表すなら……『狂人』ですわね」
「……友達なんだよね?」
「ええ。分類的にはそうなりますわ」
一応、十河は私の数少ない友人ですわ。
家の事情から他のクラスメイトとは距離が置かれている私にも物怖じしない稀有な存在。
アレな面も目立つけど意外と良いところが…………ありませんわね!?
よくよく考えるとなんで友人をやっているのかは分かりませんわ。
その後も幾つか聞かれた十河についての話をしている内に保健室に到着。
扉を開けると若い先生がいらっしゃって、東堂さんは事情を説明してくれました。
「すいません。ちょっと急に気を失っちゃったお客さんが居て」
「床でもいいから何処か置く場所を貸して頂けないかしら?」
「……友達なんだよね?」
カーテンが閉まっている奥のベッドから人が動く気配がしたような。
なので、東堂さんは空いている真ん中のベッドに十河を載せた。
「一応ベッドに寝かせておくね。これで僕は行くけど大丈夫かな?」
「はい。お手数をお掛けしました」
「いえいえ。じゃあね、杏樹ちゃん」
別れの言葉だけ残して爽やかに帰っていく東堂さん。
再び会う事があれば爪を頂いて十河に飲ませましょう。
事情を軽く説明すると保健室の先生はちゃんと十河を診察してくれた模様。
「どうも、養護教諭の万里愛衣です。彼女は君の友達かい?」
「先ほどから審議中ですが、今はまだかろうじて友人ですわ」
「……そうかい。まぁ、問題はないみたいだけど、この血はなんなの?」
髪で隠れていた額の部分にまだケチャップの拭き残しがあったらしい。
「……うっわ。
「……友達なんだよね?」
「それはケチャップですわ。ちょっと食べ方が変わってまして」
「どう食べたら額にケチャップが付くんだい?」
説明が面倒だったので彼女の出身地の伝統的な食べ方だと説明をしていおきますわ。
「……まぁ色々事情があるんだろうね。いいや、とりあえず利用者として控えるから君の名前を教えてくれるかい」
「杏樹ですわ」
「うん……一応、フルネームで書くから?」
「四方堂ガブリエル杏樹ですわ」
「……なんて?」
はぁ……本当に面倒ですわ。もう一度ハッキリと名乗りましょうか。
「
「だいぶ変わった名前……というか四方堂ってまさか……」
「ええ。おそらく万里先生の想像の通りですわ」
お母様が経営している会社は四方堂化粧品という大手化粧品メーカー。
その知名度から十河と通っているお嬢様学校でも私はクラスで浮いている。
フランス人とのハーフでミドルネームを挟んでいるのもよく話題にされるが、私はミドルネームを弄られるのがあまり好きではありませんわ。
なので、私は名乗る時はなるべくフルネームを避けて自己紹介をするようにしているんですけれど。
「はー。これまた凄いのが丸女においでなすって。西宮さんの関係者だったりするのかな?」
「西宮……? 存じ上げませんわ。 ……いえ、待ってください。もしかして、西宮さんというのはあの西宮グループのご令嬢がこちらにいらっしゃいますの?」
「本当に不思議な事にね。……本人はもっと不思議な人間だけどね」
幾ら私の家が大手企業だとしても、それは日本での話。
世界有数企業の西宮グループの令嬢となれば、きっと私よりも浮いているんでしょうね。
……しかも丸女ですし。
「……あっ。そうだ。君もしかして西宮さんに興味があるかい?」
「なんですの? 突然に。 ……まぁ少しありますけど」
分かりますわ。あれは悪い事を企んでいる人間の表情。
「では君にこれを授けよう」
そう言って渡されたのは普通のタブレット端末。
「はぁ……? これで検索でもしろと?」
「違う、違う。あと少ししたら丸井コレクションというファッションショーの中継が30分くらいあるんだ。そしてこの端末ではそれが見られるんだよ」
「はぁ……つまり?」
「西宮さんが大トリに出てくるから、それまで保健室で留守番して貰えないかな?」
……この人は約30分もの間、保健室を生徒でもない一般客に留守番させるつもりですの?
割と無茶苦茶な事をしますのね。
「患者が来たらどうするんですの?」
「病院に行けって言っておいて!」
「保健室の意味!?」
了承もしていないのに万里先生は出立の準備をしている。
「あ、そうだ! 大本命は29番の美少女だから注目しておいてー!」
「えぇ…………」
結局、万里先生は飛ぶように何処かへ行ってしまいましたわ。
***
私が仕方なくタブレット端末を眺めていると丸井コレクションが始まった。
(……ファッションショーというよりは仮装大会ですわね)
やる事もないので暇つぶしに見てはいたけど、正直見どころはありませんわね。
おそらく、普段から自社のモデルや十河のような一応、美少女を見慣れているからどうしても惹かれるものがないのかもしれない。
特に保健室に来訪者が来るわけでもなく、退屈な時間が過ぎていく。
気付けば噂の29番の登場。
「……えーと、万里先生ってもしかしてロリこ……」
万里先生が推していた29番はどうみても幼女ですわ。
とは言え、参加者は丸女に在籍していないと行けないはずなのでおそらく私より一つ歳上の先輩なんでしょうね。
あれが先輩……
丸女は一体どうなってますの?
会場は今までで一番の大盛り上がり。おそらく優勝は彼女ね。
しかし、私は忘れていた。
――まだ30番が残っていた事を。
少し目を話した間に端末から音が消える。
電源が落ちたのかと思ってタブレットを覗き込んだ瞬間、私の目は画面から離せなくなった。
静まり返った会場を優雅に歩き、怜悧な瞳で観客を眺めた黒衣の令嬢。
私の心臓はお姉様に鷲掴みにされた。
気付けば私の頬に涙が伝う。
お嬢様学校に通う私は周りで『お姉様』だのなんだのと繰り広げられる茶番をいつも冷ややかな目で見ていた。
でも、今なら分かりますわ。
私の人生であんな完璧な美女は見た事がない。
容姿端麗、品行方正、そしてあの瞳を見れば頭脳明晰である事も一目で分かる。
あれが西宮グループのご令嬢ともなれば、四方堂の令嬢などカスみたいなもの。
「か、完璧過ぎますわ……あれこそ
この瞬間、私の進学先は丸女に決まった。
『もっとお姉様について知りたい!』 『お姉様とお近づきになりたい!』
そんな思いが胸を駆け巡っている私は万里先生の帰りを今か今かと待っている――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます