第76話 休憩がてら修羅場。


丸井コレクションが終わり西宮の着替えやメイクが終わった後、4人は体育館を出る。

そこには西宮さんを一目見ようと人だかりが出来ていた。


西宮はいつもと変わらない無表情で会釈して歩き出すが、ランウェイでの悪役令嬢を彷彿とさせたのか観客には大ウケである。



「お疲れ様、麗奈! 本当に凄いよ! これで麗奈が丸女一の美女である事が証明されたね!」


「あーちゃん浮かれすぎ。あーちゃんいちの幼馴染として恥ずかしいよ」


「そこで張り合うなよ……。まぁ今は褒めてやろうぜ。おめでとう西宮」


「違うわ。北条さん。これは全員で仕上げたんだから、この勝利は全員のものよ」


「麗奈……」 「ふーん……」 「西宮……」



みんなが勝利の余韻に浸ってしみじみとした雰囲気になる。



「まぁ、私の活躍が9割でしょうけど」


「お前さぁ……」


「さっきのは謙遜よ。一学期の私とは違うの。どうかしら?」


「じゃあ今学期は我慢を覚えよっかー」


「なんか逆に安心したよ」



一時高騰した西宮株もすぐに下落する事が予想された。



***


「お昼ご飯何食べるー?」


現在4人は飲食系の出し物が立ち並ぶエリアへと足を運んだ。


「せっかくだからお祭りでしか食べれないものを食べたいわ」


「んじゃ、まぁ焼きそばとかチョコバナナとかか……えーと」


地図を確認する北条に東堂が小声で呟く。


「……おばあちゃんに道案内してたわりには地図に疎いんだね?」



冷汗を流す北条。今日のには凄みがあった。

チクチクとナイフの先端でつついてくる東堂に、後ろめたさ全開の北条の地図を持つ手は震える。



「あ、あっちだな! 焼きそばヨシ! チョコバナナヨシ!」


例のネコを再び憑依させた北条がみんなを先導して歩く。

やがて辿り着いた焼きそば屋で西宮は目を輝かせる。


「ゲームで見た事があるわ。本当にチープな感じなのね……! 衛生面は大丈夫なのかしら?」


「はい、西宮さんイエローカード。次失言したら肩パンね」



焼きそば屋の店員はヘラを逆手で持って青筋を浮かべていた。

西宮の失言を必死に謝罪しながら東堂が焼きそばを4つ買う。



「ポテトフライとかも買っとくー?」


「それは食べた事あるから遠慮しておくわ」


「そうだよね! 僕とのデートの時に食べたもんね!」


「そ、そうか。それは良かったな……」



何故か北条に勝ち誇った様子を見せる東堂。

ちなみにこの時、南雲の目からはハイライトが消えかけた。


買い物をするだけでちょっとした修羅場を展開した仲良し4人組は、最終的にベビーカステラとチョコバナナを買い足して中庭で食べる事にした。


東堂が持ってきたシートの上に座り、和気藹々と食事を――



「で。麗奈と何があったのか聞こうか。北条?」



する訳がなかった。



「えぇ!? 茉希ちゃん、西宮さんに何かされたの!?」


「い、いや! されたっつーか、その……」



尋問を始めた東堂と心配する南雲の間に揺れ動く北条は、


『もうムリだって!! なんとしてくれ!!』


と、西宮にアイコンタクトを送る。

これに見かねた西宮はやれやれと言った様子で助け舟を出した。



「……実は、私達。自由時間の間に2人でお化け屋敷へ行ったの」


観念した西宮は事を語り始める。


「えー! あの超大作の? すごーい! どうだった? 面白かった?」


ホラー好きの南雲は興味津々で感想を尋ねる。

そんな南雲から視線を外した西宮は言いづらそうにした後、決意とともに顔を上げた。



「ええ……でも北条さんは泣き喚いてしまって。ね?」


「…………おい」



歪曲された事実を認識するまでに北条のツッコミも若干の遅れが生じた。



「えー! 茉希ちゃんホラー苦手だったんだー! 意外ー!」


「あっ……だから北条は気まずそうにして……ごめん。言いづらかったよね……」



沈痛な面持ちをした西宮の表情が事の深刻さを物語っていた。

プルプルと怒りに震えている北条に対し、勘違いした東堂は気遣いの言葉を贈る。


こうして感動の和解を果たした北条だったが、腹の虫が収まらず西宮に一石投じる。



「そ、そうだよなぁ、言いづれぇよなぁ!? だから今日俺は家で一人、枕を濡らして寝るんだろうなぁ!?」


「……!?」



必然的に今夜は一人で寝る事になった西宮が震え始める。

悟られないように取り繕い、一つ咳ばらいをした後に提案をした。



「……そうね。せっかくだし、今日はみんなを私の家に招待するわ。みんな一緒なら北条さんが震える事も無いでしょう?」


「れ、麗奈の家!? 行こう! ……あ、そうだ。北条の為に!」


「へー、いいとこあるじゃん。ワタシも行くよ。 ……あーちゃんの監視の為に」



こうして北条を包み込んだ暖かな友情の元、お昼ごはんはつつがなく進んだ。

北条は西宮の耳元でこっそりとお礼のお気持ちを述べる。



「……ありがとな? 西宮ァ……これでチャラって事でいいよなぁ?」



引き攣った笑みの西宮がコクコクと高速で頷いた。



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