第73話 西宮さんのNGワード


文化祭が始まり、1-Aの教室を離れた北条と西宮。

特に目的もなくパンフレットを見ながら二人は歩いてる。



「どっか行きたいとこあるか?」


「そうね……まだ朝だから食べ物の店以外がいいわ」


「……てか、そうなってくると朝から俺らのコンカフェ来るやつなんて居るのか?」


「それはあなたが一番詳しいんじゃないの?」


「たしかに。じゃあ、居るわ」



目的も無ければ会話の中身もない。

現在の二人の関係性を示しているようだった。



「食い物以外ってなるとそこらへんの展示会とか体育館のライブとかか?」


「あなたは展示会とか興味無さそうね。ちなみに私はあまり音楽とかは分からないわ」


「まぁ正直、無いわな。俺はライブの方なら多少は興味あるけど」



絶望的に趣向の合わない二人。



「せっかくなら二人で楽しめるものに行きたいわ」


それでも西宮は可能性を模索した。


「うーん……じゃあ、この脱出ゲームかお化け屋敷なんてどうだ?」


「……! 脱出ゲームにしましょう」



余程興味があったのか西宮の体が跳ねた。

北条は西宮との密室状態にはやや不安が残ったが脱出ゲームへと向かった。


店に着いた二人は脱出ゲームから出てきた二人組とすれ違う。



「脱出ゲーム難しかったねー!」


「ヒントなしでやってたら絶対出られなかったよねー!」



それを見た北条は脱出ゲームの受付を済ませながら西宮に問いかける。



「……お前って脱出ゲーム得意なのか?」


「百合ゲームではプレイした事があるけど、そんなに得意ではないわね」


「いいか? 絶対に問題は起こすなよ?」



――しかし、北条の予想は違った形で裏切られる事となる。



密室に入った二人は扉の暗証番号を探さなければならない。



「まぁ大体机のあたりに……この机の足の下とかになんかあるんじゃね?」


「鍵があるわね」



部屋を見渡すが鍵を使うロッカー等は無い。



「カーテンが2重になっていたりしないかしら」


「……なってるな」



2重カーテンの裏にあったロッカーから出てきたのは白紙のメモ用紙。



「こういう紙って大体水に浸すと……」


「……文字。出てきたわ」



西宮が入口の横に置いてある花瓶にメモ浸したら文字が浮かび上がった。

そして、北条がその文字を打ち込むと扉が解錠された。


扉を開けるとスタッフが二人を出迎える。



「す、凄いですね! 現状の最速タイムです! 脱出おめでとうございます!」


「あ、あぁ。あんがと…………」


「え、えぇ。どういたしまして…………」



二人は静かに店を離れ、距離を取った所で北条は心の叫びを口に出す。



「――クッッッソ簡単じゃねぇかっ!!」


「ほ、ほぼ机とカーテンをズラしただけね……」



もはや西宮が何かしようとした頃には脱出が終わっていた。

奇跡的に嚙み合っただけかもしれないが、前の客は一体何に苦戦したのだろうかと北条は思わざるを得なかった。



「マジで一瞬で終わっちまったな。そうなってくると……あとはか」



再び西宮の体がビクンと跳ねた。

北条はその様子を今度は見逃さなかった。



「……ん? お前まさか……」


「そ、そんな訳ないじゃろ……べ、別にっ、お化け屋敷が怖いとか全然そんなのじゃないんだからねっ!!」


「キャラ崩壊してんじゃねぇか!! 語尾メチャクチャだったぞ!!」



いつも無表情の西宮が珍しくあたふたして視線を彷徨わせている。


(そういえばこいつ……一人で帰ってるとこ見た事ねぇな……)


西宮は大体、みんなで帰る時は駅まで行くがそれ以外の時は学校のすぐ近くに送迎車を呼んでいるのを目撃した事があった。



「さっきの脱出ゲームも部屋は割と暗めだったけど、それは大丈夫だったのか?」


「暗いのは平気なのよ……べ、別にお化けも平気だけど?」


(お化けがダメなのか)


初めて明確に西宮が苦手なものを見つけた北条は嬉しさのあまり彼女の手を取る。


「西宮! 俺さ……案外、お前とのデート楽しめるかもしれない」


「……やめなさい」


「お化け屋敷、行こうぜ!」



西宮はこんなに清々しい笑顔の北条は未だ見た事がなかった。

北条は今、最高にデートをしていた。



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