第72話 まさかの南雲vs杏樹
1-Aが経営するコンカフェにて記念すべきお客様一号は
そんな厄介客に対して南雲は
ウッキウキでメニュー表を眺める十河を放置して、南雲は東堂の元へ向かった。
(あーちゃん! もうアイツ殺っちゃって!)
(いやいやいや、まだ何もしてない彼女を僕が取り押さえられたら大問題になるよ! せめて現行犯とかじゃないと……)
(えぇ!? じゃあこのまま接客するの!?)
(僕はここで証拠写真を撮るから犯行を犯そうとするその瞬間まで耐えて!)
南雲はてっきりヒーローのように現れて十河を成敗してくれるものかと思ったが、現実的に考えたらそれはそうである。
証拠も無しに客を取り押さえたら怒られるのは間違いなく東堂だ。
それに現状、確かに十河はまだ何もしていない。
(わかった! 十河さんの性欲を煽ればいいんだね!)
(いやぁ……誘うのマズいんじゃないかなぁ……? 多分、そんな事しなくても彼女は……)
全てを言う前に南雲は十河たちの席へと走っていった。
東堂は大きな不安を抱きながらもカメラを構える。
そして、影でコソコソやっていた二人とカメラを構える東堂を杏樹は席に座ったまま遠目で視認していた。
(ま、マズいですわ……私達、というか十河が監視されていますわね。こんな状況で十河がやらかそうものなら私まで晒し首に……)
暢気にメニュー表をめくる友人を傍目に杏樹は冷や汗を流す。
そしてそんな杏樹の不安をよそに、さっきとは打って変わってニコニコの南雲が二人の席に戻ってきた。
「ご主人さまー♡ ご注文は決まりましたー??」
(あ、明らかに誘ってますわーーーッ!!)
「えっ……そうか。今日は私が先輩のご主人様なのか……」
「違いますわよ」
こうして、絶対に犯罪を起こさせたい南雲と絶対に犯罪を起こさせたくない杏樹の戦いが始まった。
***
「せっかくの初風俗なんだから……脱衣ジャンケンやりたいです!」
「風俗じゃありませんわ」
杏樹はこれを否定するが、かつてコンカフェで十河と同じセリフを吐いたお嬢様も居た。
「えー、じゃあ……ご主人さまがワタシを脱がせてくれる??」
「いえ! 私が脱ぎます♡」
「そっち!? おやめなさい! なんであなたは毎回全裸になりたがるんですの!?」
ジャンケンをする前から脱衣しようとする友人を何とか押さえて、杏樹は東堂を確認する。
判定はセーフ。
尚、南雲の顔は青ざめていた。
「じゃ、じゃあ定番のチェキ撮ろっか!」
「え、是非! 撮りましょう! 家宝にします!」
「じゃあ十河さん私にピッタリくっ付いてー……こ、腰とかに手を回していいよ……?」
そう言ってしれっとチェキのカメラを撮りに来たのは先ほどから別のカメラを構えていた東堂である。
問題を起こしたら『証拠チェキ』にする気満々だった。
「そ、十河!! ……あなた確か奴隷願望をお持ちでしたわよね? 私があなたの手を縛って差し上げますわ」
「杏樹……褒めて遣わす。 あっ、先輩! 私を縛って下さい♡」
当然、お客様緊縛のサービスなど無いので杏樹が十河の手を縛り付けた。
その状態で撮ったのは、両手を縛られ頬を染めながら南雲をガン見している十河のチェキだった。
判定は限りなくアウトに近いセーフ。
尚、南雲の顔は青ざめていた。
「それなら! これでどうだ! 萌え萌えオムニャイス!」
「ケチャップで絵を描くやつですか!? 持って帰って家宝にします!」
「じゃ、じゃあ一緒に描いてふっ、ふた…ふたふた、二人の思い出にしよ??」
そう言って十河と手を重ねてケチャップを持つ南雲はブルブルと震えていた。
矢継ぎ早に南雲の萌えを摂取した十河の方も過呼吸気味で十河の限界はすぐそこだ。
しかし、杏樹は今が好機と攻めの一手を打つ。
「十河。オムライスに相合傘なんてどうかしら?」
「杏樹……!! 先輩! 『りりぃ』『るな』の相合傘でお願いします♡」
「い、いいい、いいいくよ? おいしくなぁれ、おいしくなぁれ……!」
相合傘を描く南雲の限界も近い。
「萌え萌え~…………キュン!!」
「ごふぁっっっ!!!」
――ブシュッ!! グシャッ!!
説明しよう。
この擬音語の間、何が起きたのかを。
①南雲からの萌えを過剰に摂取した十河が気を失った
②キモさに臨界点に達した南雲がケチャップを握り潰して『ブシュッ!!』
③そのまま十河がオムライスに顔面ダイブで『グシャッ!!』
判定は……K.Oだった。
尚、南雲の顔は(以下略
(ふぅ……なんとか十河を守り抜きましたわ……!)
「失礼。友人の体調が優れないようなので保健室に運ぶのを手伝って欲しいのだけれど」
「う、うん。じゃあ僕が運ぶよ……」
奥から出てきた東堂が十河の安らかな顔面を拭きとり、背中に担ぎ上げた。
支払いを済ませた杏樹は最後に南雲に向き直る。
「今日はご無礼を致しました。出来ればお互い、もう出会わない事を祈りましょう」
「……ありがとね杏樹ちゃん」
一礼をした杏樹は東堂と共に保健室に向かった。
そして、東堂は心の中で思っていた。
一体、自分は何を見せられていたんだろう、と。
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