第67話 お・は・し・も


文化祭の出し物であるコンカフェの準備をする1-Aの教室では百合ひゃくあを含む5人が話し合いをしていた。

主に西宮の担当業務についてである。


そして、その担当業務の評価はと言うと――


「うーん……0点!」


「麗奈……誰にでも苦手な事ってあるよ!」


「いや、西宮に接客させんのはギャグだろ」



本人たっての希望で選んだ業務はまさかの接客だった。

と、言っても調理か接客の2択になっているので、料理が出来ない西宮は必然的に接客担当になるしかない。

ちなみに、東堂と北条が調理担当で、西宮と南雲が接客担当である。



「改善点が見つからないのだけど」


「……では、私からいいですか?」



ここから始まる西宮へのダメ出し。

先ほど接客のシミュレーションをした際に客を演じた百合が先陣を切った。



(問題点その①:セクハラ)


「お客さんをお店に誘導する際に体を不用意に触らない事!」


「ソフトタッチで大袈裟な客ね。ちょっと手が触れただけよ」


「がっつりと私のお尻を揉んでました!! 完全にセクハラです!!」


「あんなのでセクハラと言われたら今後どうやって客と触れ合えばいいのかしら」


「触れ合いは要らねぇんだよ」



(問題点その②:接客態度)


「終始無表情で高圧的な態度はやめよ?」


「クール系お嬢様を演じているの」


「いや、ただのゴミ店員だったよー。『空いてる席に座りなさい』は流石にないかなー」


「そんなの店に入った時点で分かるじゃない。なんで態々わざわざ私が案内しなければならないの?」


「それが麗奈の仕事だからだよ……」



(問題点その③:注文ミス)


「伝票あるのに注文ミスるのはなんでだ」


「この店ってやけにメニューが多いじゃない。クレープの種類とか要らなくないかしら?」


「あ”? てめぇが全部コンカフェに詰め込んだ結果だろ!!」


「めんどくさいわね。じゃあもうバイキング形式にしなさい」


「それってもうただのレストランですよね……?」



(問題点その④:サービス内容)


「なんで麗奈が客のチェキを撮るの?」


「私、写真に撮られるのはあまり好きじゃないのよね」


「そういうサービスなんだけど……というか、客も自分の写真は要らないと思うよ……」


「可愛い店員に写真を撮って貰ってるんだからそれ以上を望むのは傲慢よ」


「ちゃんと仕事してから語ろ?」



大まかな問題点だけでもこれだけあるのに今から西宮に接客を教え込むのには無理があった。

かく言う西宮と言うと、



「はぁ……まったく。これが俗に言うクレーマーというやつかしら?」



謎に自分の仕事に誇りを持っていた。

他の4人も西宮が調理を担当すればそれはそれでまた問題が起こることが目に見えているので、何とか行動指針を定める事にした。



「麗奈。僕たちで麗奈に守って欲しい分かり易いルールを考えたんだ」


「言ってみなさい」



「『お』上品にしよう」


「『は』ラスメントは無しです!」


「『し』ゃべんな」


「『も』ち場は離れちゃダメ!」



「……子供向けの標語か何かかしら?? というより、後半2つは接客出来ないと思うのだけど」



前半2つは人間性の問題で後半2つは業務上の命令だった。

4人が熟考の末に見つけた西宮の業務内容。


それは――



「いいか、西宮。お前はまともな職には就けない」


「いきなり失礼ね」


「だけどワタシたちは西宮さんにしか出来ない仕事を見つけたよ!」


「私にしか……!?」


「まず、西宮さんはここの窓際の椅子に座って貰って……」


「……? 客席から遠いわね?」


「そして、麗奈は外の風景を見ているだけでいいんだ!」


「それってあなた、まさか……」



――『客寄せパンダ』である。



容姿だけはまともな西宮をまともなままで利用する為の最善策であった。

座っているだけの簡単なお仕事とはまさにこの事である。

流石の仕打ちに死んだ目で外を眺める西宮。



「おー、良い感じ、良い感じ。今までで一番働いてるわ」


「よっ! 看板娘ー!」


「こ、これは! 麗奈の天職だよっ!!」


「あの西宮さんが無事に仕事を……うぅ……」



4人の評価は概ね好評で百合に至っては泣いていた。

こうして無事に仕事に就いた西宮はを出しながらも当日も大活躍する事となる。



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