第65話 ストーカーの定義 side 東堂 明里


学校中が文化祭の準備で忙しそうしている放課後、僕は北条を教室の隅に呼び出した。


「最近、ゆーちゃんの様子がおかしい」


「そうかぁ?」


二人で隅からゆーちゃんをこっそり観察すると、服のサイズ測定を装ってクラスメイトにセクハラした麗奈にアイアンクローしている最中だった。


「……西宮の方がおかしいと思うぞ」


「いや! 麗奈はあれが普通なんだよ!」


「それはそれでどうなんだ……」



僕はここ最近感じるゆーちゃんへの違和感を北条に打ち明ける事にした。

詳細を話した僕の推察を北条が反芻する。



「つまり、6月末か7月くらいからストーキングの頻度が減って、お前に対しての対応も変わってきた、と……?」


「そうだね。北条は何か心当たりないかい?」


「い、いやぁ?」



あるらしい。

明らかに声は上擦って視線が泳いでいた。



「で、でも、ほら! 夏休みとか何回もお前の部屋に侵入してたんだろ?」


「いや、いつものゆーちゃんだったら週6で侵入してたはず。それが週2くらいのペースでしか来なかったんだ」


「……十分多くね?」


「他にも、最近は洗濯物をした時に服から発信機が出てくる頻度が減ったよ」


「お前の感覚が壊れた説ない?」



確かに、ゆーちゃんの精神攻撃で僕のメンタルにもダメージが来ているのかもしれない。


しかし、もし。


万が一、変わってしまったのがゆーちゃんだった場合。

それがゆーちゃんにとって良い方向なのか、それとも悪い方向なのか。


僕はそれを知りたかった。



「僕らでゆーちゃんの内偵捜査しよう」


「え? お前それ、ストー……」


「違うよ。ゆーちゃんに何かあってからじゃ遅いんだ。大切な幼馴染を守る為だよ」


「まぁ、確かに?」


北条の了承を得た僕は教室の隅で盗聴器ブツを出す。


「おぉい!? 大分物騒なもん出てきたな!? 本格的にスト……」


「万里先生にお詫びとして貰ったんだ。夏休み色々あってね」



こうして、僕たちは教室の隅からゆーちゃんを観察する事にした。



***


『なぐもさーん、この服なんだけど……』


『南雲ちゃん! メニューの相談いいかな!』


「えっさ、ほいさー」



ゆーちゃんはクラスメイトからヘルプに忙しなく動く。



「……おい。西宮何もしていないぞ」


「ほ、ほら! 今は僕たちも似たようなものだから!」



裏方(主に調理担当)の僕と北条は先ほどメニューの話し合いが終わり現在はフリーだ。

何もしていないという観点からみれば、現在は僕らも麗奈と変わらない。



「やっぱこうやって見ると、南雲ってお前の事が絡まなきゃまともな一般人だよな」


「えっ!? も、もしかして、ゆーちゃんに一番の悪影響を与えているのは……」



や、やめよう。まだ結論を出すには早すぎる。



『なぐもっち! お前さんは今日も可愛いなぁー! ほーれ、ヨシヨシ』


「ちょっとー、まだお仕事中だからー」



クラスメイトの子が後ろからゆーちゃんに抱き付きながら頭を撫でる。



「や、やっぱり僕が絡まなければゆーちゃんは人気者なのでは……!?」


「落ち着け。仮にそうだとしても問題があるのは南雲の方だろ」


「北条……ありがとう。その部分以外のゆーちゃんは良い子だし、可愛いんだけどね……。 北条はどう思う?」


「かわっ……えっ!? あ、あぁー、まぁ。 ………………可愛いんじゃね(小声」



何故か北条の歯切れが悪い。

少しムッとした僕は北条に食って掛かった。

僕は北条と面と向かう。



「北条はゆーちゃんを可愛いとは思わないの?」


「べ、別にそういう訳じゃ……」


「北条の好みでは無いと?」


「なんでそんなに食いついてくるんだよ! ちょっと恥ずかしかっただけだ! 南雲はかわ 「やっほー、おまたせー!」 アァァーーーッ!?」


「なんで奇声をあげているのかしら。彼女はおかしくなってしまったの?」



学級委員の仕事が終わりゆーちゃんと麗奈がこっちへ来ていた。

気づかれないようにさりげなく盗聴器のスピーカーをオフにする。



「そ、そうだね。ちょっと最近北条の様子がおかしかったから相談に乗ってたんだ」


「そう。私たちが必死に汗水垂らしている間にあなたたちはコソコソとサボっていたのね」


「いや、お前は働いてなかっただろ」


「私が働かないという事。それが一番の働きよ」


「へー。わかってるじゃん」


「麗奈……それはもはや学級委員長じゃないよ……」



結局、ゆーちゃんの変化の原因はわからないままだった。

何かを知ってそうな北条を巻き込んでまた調査をしようと思う。



***


ちなみにその日。

ポケットに盗聴器が入っていたことに気づいた南雲は、GPSの一件と併せて本気で東堂に相談しようか悩んだ。


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