1年生 -2学期編-

第64話 9月が涼しい世界線


8月が終わり、夏休みが終わった。

残暑はまだ残るが天気予報では来週あたりから多少過ごしやすくなるらしい。


そんなフィクションのような世界観で始業式を済ませた生徒達は、夏休み明け最初のホームルームLHRにて9月末に開催される文化祭の出し物を決めていた。


しかし、『夏休み明け』+『本日は授業が無い』という事で生徒達の気は緩み切っている。



「静かにしなさい。久しぶりの学校だからと浮かれるのはやめなさい」


「そうだよみんな! ほぼ毎日学校来てた人だって居るんだよっ!」


「いや、自業自得だろ」


「まぁ……自主的に参加してた人も居るし、ね?」



そんな空気に喝を入れるのは頼もしい学級委員の二人だ。

勤勉な彼女たちは夏休み中もだいたい週4日くらいの頻度で学校に来ていた。

だからと言って決して、夏休みを謳歌していた人間への八つ当たりではない。



「はい、そこ。1日も補習に来なかった北条さん。罰として意見を出しなさい」


「八つ当たりじゃねぇか! ったく……クレープ屋とかか?」


「はいはい。南雲さん、コンセプトカフェと書いておいて」


「言ってねぇよ!! やれやれみたいな言い方やめろ!」


「はい。他に意見のある人」



副委員長の南雲が黒板に、「コンセプトカフェ(クレープ)」と書いた。

次の意見を促した西宮の目に止まったのは東堂だった。



「はい。一日も補習を受けなかった東堂さん。意見を出しなさい」


「えぇ……? 僕、アシスタントを……もしかしてこれ、補習受けてない人全員当てるつもり? じゃあ……カレー屋とかどう?」


「またコンセプトカフェ? 南雲さん、追加でカレー入れておいて」


「言ってないよね!? 謎の引力働いてない!?」



閉じ括弧を拡張した南雲が「コンセプトカフェ(クレープ、カレー)」と書いた。

その後も続いた西宮の吊るし上げにより、コンセプトカフェの後ろの括弧には各種メニューが揃っていく。

そして、その静かな怒りの矛先は担任にも向いた。



「そこ。自分は無関係だと思っている、担任。夜道を一人で歩けない事をバラされたくなかったら意見を出しなさい」


「あ、歩けるよ! それに無関係だなんて思ってません! 最終的にいつも怒られるのは私なんですから!」


「安心しなさい。1学期の私たちはもう居ないわ」


「……それは良い意味として受け取っていいの? じゃあ、質問なんだけど。コンセプトカフェというのはなんなのかしら?」


「なるほど。では今回はちょうど専門家の2名がここに居るから説明させるわ」


「……おい」



正直、あまりバラされたくないマキにゃ北条が西宮にガンを飛ばす。

仕方なく西宮はアキラ東堂に視線を移すと全力で顔を背けていた。



「仕方ないわね……まぁ、そうね。端的に言うならコスプレをした店員さんに如何いかがわしい事をしたり、されたりするお店よ」


「ちげぇよ!!」 「違うよ!!」


「……その説明で私が許可すると思いますか?」


百合ひゃくあはプルプルと怒りに震えていた。


「まったく……文句しか出ないわね。いいわ。じゃあコンセプトの部分も括弧で括りなさい」



黒板には『(コンセプト)カフェ(いろいろやる)』とか言う詐欺みたいな内容で表記された。

結局、百合への説得は裏で東堂と北条が行った。



***


1-Aの出し物は無事決まり詳細はまた別日に決める事となった。

LHRが終わり、集まったいつもの4人の中で西宮が提案をする。



「この4人で何か出し物をしたいわ」


「いいね! おもしろそー」


「麗奈は何かやりたいものとかあるの?」


「私の知っているゲームでは大体文化祭と言えば……バンドよ」


「うっわぁ……お前音感なさそー……」



当然、西宮が楽器もボーカルも出来ないので却下である。



「……じゃあダンスとかどうかしら?」


「いや、西宮さん踊れないでしょ」


「馬鹿にしないで頂戴。社交ダンスなら踊れるわ」



4人で社交ダンスは地味すぎるので却下となった。



「あなたたちは本当に文句ばかりね」


「いや、お前のポテンシャルが低すぎんだよ」


「麗奈のポテンシャル……そうか! ファッションショーの参加とかどうかな? あの学校側が開催するやつ!」


「あー、確かに。それなら西宮を活かせるか」


「いいんじゃない? ワタシ達は裏方担当で。演出とかは任せてよー」


「……待ちなさい。あなたたちは出ないのかしら?」


「出る訳ねぇだろ」 「そうだね」 「うん」



3対1の構図に珍しく丸め込まれそうになる西宮。



「……こんなの、酷いわ。ぐす……私だって、傷つくのよ……」



西宮の涙(嘘)を見て3人の心は――



「よし! メイクは俺がやってやるよ。いやぁ、西宮にやりたい放題出来ると思うと……正直、心が躍るわ」


「仕立ては任せて! 裁縫とかは百合先生も居るし!」


「ワタシは広報頑張るよー! やるからには優勝だー!」



――揺らぐ訳も無く。



西宮お得意の演技も、2学期ともなると反応は違った。


後に、快く引け受けてくれた百合と共に完成した西宮包囲網。

全員乗り気で出し物という名の意趣返しが始まった。


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