第62話 絶望的なモテ期


本日のオフ会の為に南雲は『オシャレが出来る女』北条を自宅に招いた。

だがしかし、南雲の要望はクソダサファッションである。ついでにダサメイクも施してもらったのハズなのだが、



「おおー……? んー? 茉希ちゃん、これってダサいの?」


「……うん。ダサい、ダサい」


(……南雲ごめぇんんんん! 俺は南雲に恥をかかせる事は出来ねぇ……!)



スタイリスト北条の裏切り行為により、南雲はいつもより5割増しで可愛くなっていた。



***


集合する焼肉屋は自宅からそこそこ近くにあり、地下鉄で数駅のところだった。

丸井が何故そこを選んだのかはそこはかとない恐怖しか感じない南雲であったが、今はとりあえず目の前の問題に集中する事にした。


(大丈夫……、茉希ちゃんが頑張ってくれたんだもん。きっと現実のワタシを見て幻想は打ち砕かれるハズ……)


焼肉屋に入り店員に『予約した丸井の友人です』と告げると奥の個室へ案内された。

南雲は扉の取っ手に手を掛けたまま深呼吸をする。

店員は『はよ行け』みたいな空気を醸し出すが、南雲にとっては大会よりも緊張を感じる場面である。


そして、一息に扉を開けると、



美人な女優(?)と、ハリウッド女優(?)のような外国人が座っていた。


「あ……、部屋間違えましたー……」


(え、映画撮影の打ち上げかなんかかな?)



南雲はゆっくり扉を閉める。

しかし、店員さんに確認を取るとこの部屋で間違いないらしい。


今度は恐る恐る扉を開けると、



女優と外国人は南雲を見てツーと涙を流した。


「どういう感情!?」


「い、いえ……私の推しはこんなに可愛いかったなんて……」


「せ、先輩って、やっぱり天使だったんですね……」



彼女オタクたちは念願のナマ梅雨町に限界化していた。



***



「かんぱーい♪」


飲み物だけ頼んでチームリーダーの丸井が乾杯の音頭を取る。

オレンジジュースで喉を潤した南雲は、注文を始める前に対面に座った二人の自己紹介を促す。


「え、えーと……とりあえず、自己紹介からしない? ちょっと顔と名前が一致しないよ、君たちは」


「あ、じゃあから……! Sarah・Clevelandセーラ・クリーブランドです。夜咲星空よざきせいらという名義で活動してます」


金髪碧眼の彼女は本当に外国人だった。


「ちょっ、ちょっと待った! ツッコミどころが多すぎる……!」


眉間に指を当てた南雲が一つ一つ問題を考える。


「まず、実名は晒さなくていい。今日は名義で呼び合おうよ。あと……実名で配信活動やってんもマズくない? それと……」


「リリィちゃんにならむしろ実名を知られたいです!」


「は? 認知厨きも」



夜咲改めセーラに辛辣な言葉を吐く丸井。



「えーと、じゃあ次はそちらの方……?」


何故か面接形式となった自己紹介。

南雲は黒髪おかっぱで妖艶な雰囲気を纏う女性の方を見る。


「はい先輩♡ 丸井月まるいるな名義で活動してる十河灯そごうあかりです♡」


「実名はいいって……」


「あなたも認知厨じゃないですか!」



丸井改め十河に反論をするセーラ。

そして、二人の視線は自然と南雲に集まる。



「いや? 梅雨町リリィだよ?」


「えーん……せんぱぁい! なんで実名教えてくれないんですかー!」


「かーらーのー?」


「いや、そういうのいいから」


南雲こと梅雨町のガードは堅かった。



***


「あの、自分の肉は自分で焼くけど」



注文した肉が来るとファンガの二人がトングを放さなかった。


「セーラは生涯リリィちゃんのお肉を焼く事を宣言します!」


「わ、私が焼いたお肉を先輩の可愛いお口がモグモグ……」


「ホント怖いからトング貸して?」



拒否反応を示す南雲を無視して勝手に焼いた肉を勝手に南雲の皿に乗せる二人。

南雲が肉を二人の皿に移そうすると、視線が自身の箸に注目していた事に気づく。


尋常な目つきでは無かった。


恐怖を感じて移し替えを断念した南雲は話題を変える。



「セーラちゃんってさ。絶対ワタシより年上だと思うけど、リアルでちゃん付けで呼んでも大丈夫なの?」


「も、もし良かったら愛称で……『サリー』って呼んで下さい!」


「いやいや愛称とか聞いてないから。君ホントグイグイくるね」


「あ! じゃあ私も『灯』でお願いします!」


「じゃあ、じゃないんだよ。君は月ちゃん固定ね」



自らの想い人と同じ名前で十河を呼ぶことは断じてないだろう。

クソマロ処理と同様の心持ちで返答を続ける南雲。


しかし、十河はここで更にブッこんだ。


「えー、名前呼んでくれないんですかー? でも私……入学する予定ですよ?」



「――ごほっ!!」


南雲は激しく咳き込んだ。



(この反応、やっぱり先輩は……)


カマを掛けた十河はニタアと口角を上げる。



「……ちょっと待って。じゃあ月ちゃんはもしかして年下って事……?」


「せーんぱい♡ 学年は幾つですか?」


「今年一年生だよ」


「じゃあ、先輩の1個下ですね♡」


「えぇ……」


「せ、制服のリリィちゃん……? ごふっ!!」



南雲は彼女の容姿と声のギャップ、そして諸々の内容で脳がバグりそうだった。

尚、視界の端ではセーラが吐血していた。



「学園では灯って呼んでくださいね♪」


「その時はよろしくね……十河さん」



ただ一つ確かな事。

それはたった今、南雲は酷い絶望感に打ちひしがれているという事だ。



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