第60話 先輩の勇姿


連日配信で夜咲の猛特訓に付き合う二人。

大会の前日を迎えるころには無数の切り抜きが作られる事となった。

配信裏では3人がそれぞれの所感を述べる。



星空せいらちゃんはよく練習してくれたよ。るなちゃんもよく耐えた。明日はベストを尽くそう」 


「先輩……! 夜咲さんとは明日が最後の共演になると思うけど、みんなで有終の美を飾りましょう!」


「二人ともありがとうございました! 明日は優勝目指して頑張りましょ!」


「優勝……そうだね。日和ってた。ベストとかじゃない、目指すのは優勝だ」


「まぁ、夜咲さんが宣言する事じゃないけどね。その前向きだけが夜咲さんの取柄なんだから、本番もよろしくね」


「任せて下さいー!」


未だ若干のギスりを見せつつもチームは団結していた。



***


――そしてURカップ当日。


夜咲はガチガチに緊張していた。

大会慣れしている二人は、夜咲の口数の少なさと呼吸の震えからすぐにそれを察した。


「だ、大丈夫。大丈夫ですから。配信つけたらきるかれれ切り替われますっ……!」


「……初めての大会だもんね。無理に喋らなくていいから呼吸だけは落ち着けよう」


「夜咲さん……放送事故に始まり、放送事故に終わるのだけは勘弁してくれる?」



この状況だけ変に優しくしないのは丸井なりの気遣いだった。


大会は全5試合行われ、生存順位とキル数の合計ptで競う。

優勝賞金として150万円が出る為、各チームには気合が入っている。

参加者全員が必ずしも賞金の為にやっている訳では無いが、初出場者からすれば賞金の重圧があるのは確かだった。



「……それじゃ星空ちゃんにワタシからの命令。配信つけてからワタシが良いって言うまでコメントは見ないこと」


「え、あのそれじゃあ星空は何処を見れば……」


「毎秒、先輩の可愛い顔を拝みなさい。気づいたら大会終わってるよ」


「ふふっ……まぁそうだね。それじゃあ、配信つけるよ――」




「お待たせ、皆。梅雨町リリィです。まずは早速こちらをご覧ください、挨拶どうぞ星空ちゃん」


「えっ……こ、こんにちは……夜咲星空ですっ! きょ、今日は優勝しますっ!!」


「こんにちはー! 丸井月です♪ この通り夜咲さんは配信裏でもガチガチで……。みんなはこの緊張を解せるような熱い応援よろしくねー!」


「ワタシが星空ちゃんに最初はコメント見るなって言ってあるからさ、星空ちゃんのスーパーチアーはワタクシ、梅雨町が代行して読ませて頂きます」


「え! じゃあじゃあ! 先輩のスーパーチアーは私が読みます!!」


「面白そうだから採用。月ちゃんに読んで欲しいスパチはワタシによろー」



この時、夜咲は二人がチームメイトで本当に良かったと感じた。

自身の緊張も相まって涙が溢れそうだった。


試合開始直前には、ふー、ふーと何度も音を立てて深呼吸をした夜咲。

そんな姿を見た梅雨町は本気モードに切り替える。



「月ちゃん、ハイリターンのエリアに降下しよう。他パーティーが居ても強行する」


「はい、先輩」


「星空ちゃん、最初は視界を動かして索敵を。最悪撃たなくていい。生存優先で。何試合かやれば落ち着くよ」


「は、はい」


「そんじゃ、まずは一位で」



試合開始。

降下地点には他のパーティーが一組。宣言通り、梅雨町と丸井は迷わずに着地する。

素早く物資を集めた二人が早速戦闘に入ると、遠くの物陰でおろおろとする夜咲。


梅雨町のダブルキルと丸井のキルで1パーティーを壊滅させたのは良かったが、他2パーティを巻き込んだ乱戦となった。

結果、1パーティを道連れに二人は倒された。



「ありゃー。結構集まったねー」


「流石先輩! キルは結構取れましたよ!」


「えっ? えっ!? 星空はどうすれば!?」


「生存チャレンジ頼んだよー。今こそ星空ちゃん覚醒の時だー!」


「無理ですー!!」


「ごめんね、みんな! ちょーっと画面つまんないかもだけど、夜咲さんのステルスチャレンジ見よっか!」



その後、意外と粘った夜咲のお陰でそこそこの順位になった。



「ないふぁい、ないふぁい。ありがと、星空ちゃん。いまコメント見てみな」



『夜咲めっちゃ頑張った!』

『これはマジでデカい』

『GGWP』



「…………っ!」



「どう? 夜咲さん、次の試合から行けそう?」


「分かりません……でも、頑張ろうとは思いました!」


「よし、次は先輩達もカッコいいとこ見せたいなー」



***


そして、試合は最終第5試合。

梅雨町たちのチームは現在20チーム中8位。

仮にこの試合で1位を取っても最終結果で1位を取ることは難しい。


そんな試合で夜咲はミスをして丸井も巻き込まれて梅雨町一人となる。

夜咲の今大会のプレイは終了し泣いていた。


「うぅ……ひくっ……すいません。足引っ張って……ぐす」


「どんまい、星空ちゃん」


「夜咲さんは頑張った方じゃないかな? でもね……」



丸井は溜めを作って言葉を絞る。



「――まだ先輩が生きてる」



梅雨町は最初の試合同様にハイリターンな選択肢を選び続ける。

負けている状況で負け筋を潰すのではなく、勝ち筋を求め続けた。

そうして、勝利は目前のところまで来ていた。


(自分を含め残り4パーティかぁ。1パーティだけ3人居るからそこの潰し合いには参加したいな)


そして、撃ち合いが始まる。

梅雨町はこのまま静観をしても良かったのだが、を取る為に動いた。


なんと、全員が同じ考えだったのか同時に全パーティが入り乱れた。

最初に倒れたのは集中砲火を受けた3人パーティ、そして仕切り直す前にもう1パーティが倒された。


残ったのは梅雨町1人と2人生存している1パーティ。

コンテナ越しににらみ合いが始まる。



(……と、見せかけて速攻!!)



電光石火の梅雨町が1人仕留めると、もう1人とのタイマン勝負になる。

梅雨町が1人倒した隙に横から先に仕掛けたのは相手の方だった。


有利状況で近距離からトドメのショットガンを放つ。



――が、外した。


(緊張するよね! 大会にはこれがあるんだよ!)



「星空ちゃん! これが! 先輩の勇姿だ!!」


夜咲は号泣し、丸井は発狂する。



そして、



梅雨町はショットガンを外した。



***


「あ”ぁ”ぁ”、恥”す”か”し”い”!!」


大会の結果発表画面で顔を手で塞ぐ梅雨町。


「いやいや先輩はカッコよかったです! ほら! 大会での総合キル数は1位ですよ!!」


「あの状態からの大逆転……シビれました! リリィちゃんの勇姿、目に焼き付いたよ!」



最終結果は20チーム中3位だったが、見どころ満載だった梅雨町たちはなんと大会特別賞に選ばれた。

大会運営にも弄られた『先輩の勇姿』シーンは今大会で最も再生されたシーンとなった。



そして大会特別賞だが、この中身でもうひと悶着あるのはまた別の話。



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