第57話 セット装備の入手


サプライズパーティーの舞台裏。


時は、西宮が家庭科室で二人の被害者を出した後である。

特別準備室までの運搬は、百合の方は万里が丁重に運び、東堂は西宮が必死に引きずった。


本来の予定では万里が西宮の変装をする手はずだったが、今回は活きのいいマネキンが手に入ったのでそれを利用する事にした。

西宮が二人に接触する前の会議では東堂に協力を申し出るという案もあった。

しかし、西宮から『おもしろそう』というパワーワードが出たので一緒に誘拐することなった。



「ふぅ……これで二人の配置は終わったわね」


「次は会場の準備だね。食事の方は任せていいのかな?」


「執事が既に外で待機しているわ。今から連絡して搬入させるつもりよ」


「それじゃあ私は千堂先生と接触するかなー」



西宮が執事に連絡するとバタバタとお手伝いさんがやってきて会場の設営を始める。

普通に学校関係者以外が侵入しているが、そこは安心安全の丸女の警備員。

事前買収により、本日はフリーパスポート発行済みである。



「さてと、後は東堂さんの変装だけども……」



実はこの変装にはかなりの時間が掛かる。


その説明の前にまずは丸女の制服のシステムを説明しよう。

丸女では夏の上着はブラウス、ポロシャツ、ベストなど。冬ならジャケット、カーディガン、コートなどの用意された制服から自由にコーデしても良いシステムだ。

ボトムスに関してもスカートとスラックスが選択でき、その他にもリボンとネクタイが選べたり、靴下やストッキングも選べる。


とにかく自由度の高い制服システムを採用している丸女では、西宮と東堂の制服選択にもかなりの差異があった。

東堂が半袖ブラウス、ネクタイ、ベスト、スラックスに靴下を履いているのに対し、

西宮は長袖ブラウス、リボン、ベスト、スカートに黒タイツを履いていた。


結論として西宮は、東堂をガッツリ脱がせる必要があった。



「流石に寝ている女性の服を剥ぐのは初体験ね……」


まずはスラックスから、そして靴下。状態としては、着崩れた半袖ブラウスとショーツ姿の東堂が出来上がる。


「……ん……んぅ」


「妙にエロいわね……まるで犯罪を犯している気分※注1だわ……」


※注1:犯罪です。



次にブラウスを脱がせると、東堂は下着姿となる。

東堂の胸はトップとアンダーの差で言えば南雲より平らであった。

西宮は現物を目の当たりにして、改めて自分の胸と見比べる。


訂正、『も』み比べた。



「……んあっ」


「だ、ダメだわ。これ以上は※注2法に触れてしまう」


※注2:既に触れてます。



東堂のブラの上から自分のサイズのブラを着け、空いた空間には詰め物を入れる。

用意した黒タイツを履かせようとした西宮は突如、自分の中で謎のサービス精神が湧いてくるのを感じた。

巻き込まれた東堂にせめてものお詫びを、そう思い西宮は自らが脱いだ生タイツを東堂に履かせる。


その後、西宮は脱いでは東堂に着せ、脱いでは東堂に着せを繰り返す。

出来上がったのは生西宮一式装備を手に入れた東堂の姿であった。


仕上げに猿ぐつわとアイマスクをした後、黒髪ウィッグを添えて完成である。

縛るのは複数人のお手伝いさんに任せた。



「ふぅ……やりきったわ」



心地よい達成感と共に西宮は額の汗を拭く。

自身が東堂に求めていた女性的一面も見る事が出来て胸は高鳴っていた。


(やはり東堂さんはスパダリ方面よりも、もっと女の子を磨くべきだわ)


西宮は当初の志を思い出した。



***


入れ違いになる事を回避する為、万里は先に職員室で千堂の荷物を確認しに行く。



すると、職員室の自分と千堂の机には百合の手作りクッキーが置いてあった。


「こっ、これは!! 聡美ちゃんっ……! 私はなんという事をっ……! うぅ……っく……」


それを見た万里に猛烈な後悔の念が押し寄せる。


「ま、いっか」


立ち直りの早さがサイコパスのソレであった。

千堂も手に取るであろうクッキーの下に書置きを残す。

内容はシンプルに、


『今日は聡美ちゃんの誕生日だよ。サプライズの打ち合わせやるから保健室に来てね』


そして保健室でカメラを確認しに行くと、本当に職員室で入れ違いになっていた。

千堂が手紙を読んだ後にこちらに向かっているのを確認した万里は保健室にて待つ。



「こんばんわ、万里先生。会話するのは初めましてで良かったでしょうか」



ノックもなしに扉を開けた千堂が入ってくる。

一応、万里の方が千堂よりも歳上なので敬語を使っていた。敬意は無いが。



「そうだね。こうやって話すのは初めてかな」


「それで? 今日は百合先生のサプライズパーティーやるんですか」


「現在進行形だよ。ほら、今こんな感じ」



万里がノートPCのモニターを千堂の方へ向け、特別準備室の映像を映した。



「シンプルなのが好きなんだ。単刀直入に言おう。君も聡美ちゃんが好きなんだよね?」


「はい」


「正直で宜しい。なら、今日は一時休戦と行こう」


「構いませんよ」



万里は千堂に芝居の段取りを説明する。

万里が百合を救出しに教室へ入る直前、仮面をつけた千堂が万里を気絶させるをさせるだけである。

実際の万里突入の際は、百合から見えないだけで実は千堂も隣に居るのでタイミング等も特に難しい事は無い。



「……なんか、万里先生だけ得してません?」


「いやいや。実際は策に嵌められて倒される役だしね。別に千堂先生が突入役でもいいよ?」


「なるほど。じゃあ、クソ雑魚役は頼みました」


「ふむ。では、私が倒れた後は暗がりに運んでくれ。そこで、お互いパーティー帽を着けてクラッカーの準備をしよう。以上ー」



こうして二人は手を取り合う、



「万里先生。休戦は一時的です」


「ふーん。割と独占欲強いんだね?」



今日だけは。



***


誕生会が終わり帰宅した東堂。

変装セットは何故か西宮に持って帰るように言われた。

当の西宮からメッセージが届く。



『あなたがさっきまで着てた変装。今日、私が着ていたものよ。大事にしなさい』



驚愕の事実を知り自室で一式を広げる東堂。

ブラウスやスカートも西宮がつけていたと思うと顔が熱くなるのだが、中でも一際ヤバいのが黒タイツである。

前回、北条から貰った西宮の下着(洗濯済み)も合わせて並べる。


実に壮観な眺めであった。


(……ど、どうしろと!?)


(そう言えば北条が『慣れろ』みたいな事を言ってたっけ……)


生唾を飲み込み、覚悟を決めた東堂が黒タイツに顔を近づける。


――テロリン♪


スマホからの通知に体が跳ねた。

恐る恐る内容を確認すると、


『流石に無いとは思うけど、夏場のタイツの匂いを嗅がれるのは私でも恥ずかしいわ。洗ってから観賞用に留めなさい』



「せえぇぇぇい!!」



洗濯槽に西宮セットを叩きこんだ東堂の叫び声がこだました。



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