第55話 犯人はヤツ (複数視点)
(side 千堂 陽子)
帰り支度をする為に職員室へ来た私の机の上には、なんと! なんと!
百合先生の手作りクッキーがあるではないか! ……だが、
「おかしい」
お菓子だけに。
いや、ふざけている場合ではない。
日も落ちて、いつもなら百合先生が帰っているはずなのに彼女の荷物は机の上に置いてあった。
書置きの内容からするに彼女は帰ろうとしていたはずだ。なのに、なぜ?
考えていると、クッキーの下にもう一つ書置きがある事に気がつく。
「ふむ、なになに…………なるほど。おもしろい」
私は書置きをした犯人の元へと向かった。
***
(side 百合 聡美)
「う……うん?」
いつの間にか意識を失っていた私は暗がりに居た。
ここは何処だろうか。夢ではないとは思うけど。
「やぁ。お目覚めかな、お嬢さん?」
「ひっ……!」
ランタンのような灯が点き、目の前には仮面の女性が居た。
声はボイスチェンジャーで加工されており、顔は演劇用の仮面で隠されている。
白の仮面には笑顔が張り付いていた。
「だ、誰!?」
動こうとしたが体が何かで拘束されていて動けない。
嘲笑うかのように仮面の女性がケタケタと笑う。
「そうだな。『誘拐犯』と言ったらどういう反応をする?」
「誘、拐……?」
私は意識を失う前の記憶を思い出す。
最後の記憶は東堂さんと西宮さんと一緒にお茶を飲んでいた記憶だ。
冷静に考えるとこのありえない状況はおそらく――
「西宮さん、いつもの悪ふざけですね!」
仮面の女性が軽く拍手する。
「いやはや、流石は教師。頭の回転が速い。そうだね、この状況は彼女が作り出したものだ」
そう言ってもう一つランタンを点けて後ろに置く。
二つ目のランタンを点けた時に仮面の女性の姿がはっきりと見える。
スーツ姿の彼女は銀髪で胸部のふくらみが少なかった。
「に、西宮さんっ!?」
二つ目のランタンの向こう側では、西宮がアイマスクと猿ぐつわを装着されていた。
私より厳重に縛られている彼女は上手く動けずに、呻きながらもがく。
「まさか……西宮さんが狙い、なの?」
「理解したようだね。説明をしなくていいのは助かるよ」
「東堂さんは!? 彼女はどうしたの!?」
「はてさて。どこにいるのだろうね」
(どういう状況なの? 一体、何がどうなって……)
私は信じたくなかった。
仮面の女性の特徴が真面目な彼女に酷似している事を。
***
(side 東堂 明里)
「に、西宮さんっ!?」
百合先生の悲鳴にも聞こえるような声が聞こえる。
この状況で麗奈もそこに居るのかと思うと僕はゾッとした。
拘束されて動けない僕はなんとか思考だけは回すが解決策は浮かんでこない。
その時、扉を開ける音が聞こえた。
「やぁ、誘拐犯。やっと見つけたよ」
駆けつけてくれたこの声は万里先生だ。
「ば、万里先生! あの! 西宮さんが人質に……!」
この場には依然として緊張した空気が流れる。
「私の机に暗号文を置いてまで誘うとはいい度胸だね」
「気に入ってくれたか?」
「そこそこにはね。でも、もう終い。この会話は現在通話状態。場所が確定した今、仲間が警察に連絡している」
「くくッ……」
ボイスチェンジャー越しの笑い声が聞こえる。
「……何か可笑しい事でも?」
「その仲間とは……君の後ろにいる彼女の事かな?」
「万里先生っ!!」
ドサッと人が倒れる音がした。
もう一人が部屋の扉を閉める音がする。
僕に近づいた足音の主からはタバコの匂いがした。
***
(side ???)
「さて、余興は終わりだ」
対面にいる彼女の表情が恐怖に染まる。
「ど、どうしてこんなこと……西宮さんを解放してください! 私が! 私が代わりになりますから!」
「残念だが、君に彼女ほどの価値はない」
「彼女は平凡な生活を夢見ただけなんです! そんな彼女の夢を、奪わないで……」
ポロポロと百合先生が泣き始める。
「こ、コホン……何故、君はここに連れてこられたのか心当たりはないのか?」
「心当たり……? ありません……」
「そうか。それでは、そろそろ種明かしといこう」
これ以上は心苦しくなった私は部屋の明かりを点ける。
「えっ」
――パンパンッ!!
「百合先生、誕生日おめでとうございます。びっくりして頂けたかしら?」
私は仮面を外してそう言った。
後ろの2名はクラッカーを持って祝福し、アイマスクと猿ぐつわをした東堂さんは後ろで蠢いていた。
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