第53話 『東』の名探偵、『西』の凶悪犯
補習も終わった夕方頃、
東堂は屋上にて
最終的な調査内容として、
『百合調査依頼』
・より詳細な趣味
・余暇の過ごし方
・誕生日、好きなもの・嫌いなもの
・行ってみたい場所
・教師になった理由
・今一番やりたいことは?
・宝くじ3億円あたったらどうする
これに加えて、恋人あるいは気になっている人物、学校内での交友関係の把握も依頼されてる。
「千堂先生、この内容を百合先生に直接聞いた方が親睦は深まりますよ」
「正論パンチはやめろ。それが出来たらこんな苦労はしていない」
「行動するの僕ですけどね……」
「あぁ、そうだ。行動と言えば」
今日も変わらずタバコを銜えた千堂はスマホを取り出す。
「連絡先を交換しておこう。万が一、何かあれば連絡してくれ」
「はい。 ……教師と連絡先交換するのって、なんか緊張しますね」
「気にするな。私の事はただの依頼者だと思えばいい。頼むぞ、名探偵東堂」
変な肩書が一つ増えた東堂は苦笑いした後、一礼して百合の元へと向かった。
***
一方、校内の外れにある特別準備室で西宮は機材の確認をしていた。
暗幕の掛かったこの部屋は拠点として使用する為に万里が鍵を調達してくれた。
西宮は万里から支給された『聡美ちゃん誘拐セット』の他に、自前でも小道具を持って来ている。
それらの荷物から必要なものだけ装備して西宮は通信を開始する。
「こちら
『こちら
エージェント気取りの凶悪犯二人も着々と準備を進めていた。
万里は保健室のカーテンを閉め、外の扉から見えない位置でPCを操作している。
もう一度、西宮が立案し万里が調整した作戦をおさらいする。
『百合誘拐作戦』
まずは第1フェーズ、西宮が忘れ物をしたという旨で百合を家庭科室へと誘き出す。
そして第2フェーズには3つのパターンがある。
・プランA
家庭科室に入ろうとした、或いは出ようとした百合の背後からハンカチ(薬物塗布)を使用。
万里を呼び第2フェーズ終了。
・プランB
プランAの遂行が困難だった場合、探しものを見つけた後に西宮が持ってきた紅茶(睡眠薬入り)を淹れ休憩を促す。
効果を発揮するまでの時間を稼いで万里を呼んで第2フェーズ終了。
・プランC
プランA,Bの遂行が困難だった場合、出来るだけ西宮が百合を引き留める。
その間に万里が職員室にある百合の水筒に睡眠薬を淹れ、給水したのを確認したら万里が対処して第2フェーズ終了。
そして最終の第3フェーズは西宮プロデュースの危険な賭けだった。
しかし、リターンが大きいその作戦を万里は了承した。
『よし。では、そろそろ作戦開始と……ん? ちょっと待って』
作戦を開始しようとした万里はモニターにて不穏な行動をする人物を捕捉した。
それは先ほど千堂と別れ、調査を開始した東堂だった。
千堂と屋上で話している時点で怪しかったが、現在は職員室から百合を何処かへ連れて行こうとしていた。
『W-38、ターゲットに接触する不穏分子を見つけた。コードネーム『チャラ女』は優先排除対象とする』
「了解。チャラ女の始末は任せなさい。」
今日の東堂は肩書やらコードネームやら色々つけられていた。
西宮は少し作戦を見直し携行品を増やす。
特別準備室を出る前に万里から百合の移動予測地点を聞いた
「――さぁ、作戦開始と行きましょうか」
***
一方、東堂と会う前の百合は職員室で千堂と万里を待っていた。
二人に昨日貰った休日のお礼をしようとクッキーを焼いてきたのだ。
補習の講師は若い教師であるこの3人が多めにシフトに入っているので百合は親近感を持っていた。
千堂は口数が少なく、万里は保健室に居ることが多いので両者とはあまり接点がない。
それでも百合は一緒にお喋りがしたいとずっと機会を窺っていた。
(苦手じゃないといいけど……。甘さも控えめにしてあるし大丈夫だよね!)
しばらく待った百合だったが、二人とも忙しい可能性を考えて書置きを残す。
『いつもお仕事お疲れ様です。昨日貰ったお休みのお礼です。夏休みはあと1ヶ月を切りましたが一緒に頑張りましょうね♪』
可愛らしい動物の付箋をつけてクッキーを二人の机に置く。
(喜んでくれますように)
純真無垢な彼女はそう願った。
これからその二人が起こす事件に巻き込まれるとも知らずに。
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