第49話 嘘つきの匂い
本日の北条家の食卓では昨日の和食御膳とまではいかないが、そこそこ手の込んだ料理が並んでいた。
北条家の面々に南雲を加えて食卓を囲む。
「わぁ! すっごいおいしそー! これ全部茉希ちゃんが作ったの?」
「あぁ。そんなに難しくないって」
「……姉貴。なんかいつもより気合入ってね?」
「いや、こんなもんだろ」
「え。でも姉貴、西宮さんの時は『だるいし、枝豆でいっか』って感じだったじゃん」
「まぁ、私らどうせ作ってないんだし。うまけりゃヨシ! いただきまーす!」
手を合わせた瑠美が真っ先に肉じゃがに箸をつける。
それに倣って皆も手を合わせた。
「いやー、昨日のも美味かったけどよ、やっぱ茉希の料理が一番だわ。おら、美保。好き嫌いせずにちゃんと食えよー!」
瑠美は自分の皿に入っているさやいんげんを一つずつ丁寧に美保の皿に移した。
「お袋に言われたかねぇよ! ……ったく、姉貴に作って貰ったんだからちゃんと食えよ」
緑色多めの肉じゃがを食べながら美保はしれっとにんじんを姉の皿に移す。
「……おい、美保。お前の皿はにんじん少な目にしたんだからそれくらいは食え」
「お、美味しいー! 学食以外で手料理なんて久しぶりに食べたよー」
「へー、南雲ちゃんは女子力高そうな見た目してるけど料理とかしないの?」
「ワタシ、全然料理とかは出来なくて……普段は出前ばっかです」
「そいつが作れる料理なんて姉妹丼くらいだぞ」
「美保。食事中だぞ」
北条が調理している間、南雲と会話をしていた瑠美は北条家には無い愛くるしさを持つ彼女を気に入っていた。
夕飯の間は北条と南雲の学校生活について瑠美が根掘り葉掘り聞き、美保はそれに絶えずガヤを入れていた。
***
「ひっく! よし、そうだ! 今日は南雲ちゃんと寝よう!」
「いいですよー。寝室まで一緒に行きましょっかー」
「あわわわ……ま、まさか本命は母娘丼?」
「悪い南雲、俺が変わるよ。美保、あとの片付けは俺がやっとくから、お前は南雲と風呂入れ」
「いや、姉貴! コイツと密室はヤバいって!」
「……まぁ、腹割って話してこい」
姉という頼みの綱を失った美保だったが依然、彼女の中には使命感があった。
南雲という女は信頼に足る人物なのか。
それを見定めなければならない。
悲壮な決意を持って浴室に入った美保。
しかし、美保の背中を流す南雲の方は暢気だった。
「美保ちゃんは茉希ちゃんみたいに髪の毛伸ばさないんだねー」
「……昔、お袋が『両方同じ髪型だと見分けつかん』とか言うからその名残だよ」
「そっくりだもんねー!」
「……おい。そろそろ本題入っていいぞ」
「本題? 本題とかは特にないけど?」
「は? ノープラン? バカなの?」
南雲としては一緒にお風呂に入れば多少は心を許してくれるだろうという程度の思い付きだった。
「うーん……じゃあ、そうだ! なんでワタシが美保ちゃんに警戒されてるのか教えてよ」
「そんなもん姉貴を誑かしてるからに決まってんだろ!」
「誑かすって……でもワタシ、昨日ここに来てたあーちゃんに一途なんだよ? その件で茉希ちゃんにも相談してるし」
「へ? そうなの? いや、ちょっと待った。それはそれで……ややこしくね?」
美保は顎に手を当てて考える。
妹面接の時に西宮に言われた内容を照合して状況を整理した。
南雲は東堂さんが好き。
↓
東堂さんは西宮さんが好き。
↓
西宮さんは南雲が好き。
「さ、三角関係じゃねぇか!? あ、やべっ……」
「三角? どゆこと? もしかして西宮さんがワタシにってこと?」
「でも西宮さんは嘘は言って無さそうだったぞ!」
「うーん……あの女は良く分からないからなぁー。ただ、真顔で嘘はつくよ」
「え、えぇ? もう何が真実か分かんねぇよ……」
美保は姉の周りの人物もとい人物関係がややこしすぎて頭を抱えた。
とりあえず、南雲の証言を信じるなら姉には気が無いようだが果たして信じていいのか。
混乱した美保は直感を信じることにした。
「南雲さん。アタシの目を見てくれ」
「いいよー」
「アンタは姉貴に本当に下心を抱いてねぇんだな?」
「うん。大切な友達だよ!」
迷いない返答と淀みない笑顔からは嘘の匂いがしなかった。
しかし、それは西宮の時も同じであった。
「……まぁいい。今回は信じるわ」
「よかったー! これで美保ちゃんとも仲良しだね!」
「浮かれるな! 今後は怪しまれるような軽率な行動は控えるように!」
「了解! イチャイチャは美保ちゃんの目に入らないところでするね!」
「あー、やっぱ嫌いだわこの先輩」
結果的に、南雲のノープランは功を奏した。
美保は南雲への印象を少しだけ改める。
但し、評価は変わらず。
***
翌日、南雲は帰り際に北条に誕生日プレゼントを渡す。
「はい、これプレゼント! ワタシが帰った後に開けてね!」
そう言って彼女は帰っていた。
大事そうにプレゼントを抱える姉に、妹はさりげなく質問する。
「姉貴。まさかとは思うけど、南雲に下心とか抱いてないよな?」
「……あぁ、当たり前だろ」
美保は人狼を見つけた。
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